本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
先月の東京国際ブックフェアと国際電子出版EXPOは、あらためて本とは何かを考える機会になった。
■変化するブックフェア
東京国際ブックフェアは、もともと書店のバイヤーが来場して、出展している出版社と商談する場であった。時代とともにその様相も変化していき、他にも個人クリエイターが小さなブースで並ぶ「クリエイターEXPO東京」や「コンテンツ制作・配信ソリューション展」、「プロダクションEXPO東京」、「ライセンシングジャパン」が併催された。出展規模は合わせて1360社になるという。
海外からの出版社も出展しており、今年は大韓出版文化協会が「本で結ぶ日韓のこころと未来」をスローガンに、両国の長年の文化交流と韓国出版文化を紹介する多様な特別展を準備した。韓国の世界記録遺産を紹介する展示や日本との出版交流、韓国の本の展示もあった。
印刷業界がかかわるのは、ブックフェアではなく併催の国際電子出版EXPOに集約されていたようだった。書籍・雑誌のデジタル化、配信・閲覧の各ソリューションが多数出展していた。国内の電子書籍サービスを提供する企業だけでなく、海外からも電子書籍プラットフォームのAquafadesなども出展していた。
ただし、ブックフェアのほうでも「楽天kobo」「BookLive!」に加えて大日本印刷が出展していた。これは、ハイブリット出版、ハイブリット書店を標榜する同社からすれば、電子色の強い国際電子出版EXPOではなくて、東京国際ブックフェアに出展したほうが適切と判断したからだそうである。
■本の魅力とは――電子と紙
個別の出展状況は、別の機会に譲るとして、ここでは別の角度から本のことを考えてみたい。個人的には、出展している出版社の本がほとんど20%引きで販売されていることが楽しみである。新刊本が割引価格で買える経験は、大学生協での購入以来かもしれない。普段躊躇してしまう高額の本やまとめ買いなどもできる。
かつてのブックフェアでは、開催記念の復刻本がよく出されていた。リチャード・ブローティガンの『バビロンを夢見て―私立探偵小説1942年』 (新潮・現代世界の文学)もずいぶん昔のブックフェアで購入した。今では品切れで、amazonでも8,000円くらいの値段がついている。
復刻本などが欲しいときには、在庫を憂う必要のない電子はありがたい。しかしそれとともにコレクションの観点からすれば、紙の形で手元に残したい、意匠を凝らした表紙のデザインをみていたい、紙の質感やインクの匂いを味わいたい、書棚に並ぶ背表紙を眺めていたいと思う。紙やインクの肌触りやぬくもりは電子では味わえないからだ。
読書をする人は美しい本が好きなので、電子書籍が市場を席巻したとしても紙の本も買うだろう。そのときにはもしかしたら紙の本は、嗜好品もしくは高級品になっているかもしれない。
だから電子だけで済ませることのできるものは、電子に移行していくだろうし、大切にしたい本は、紙の本と電子本と両方セットで販売していく方法が出てくるのではないか。
本とは何かを考えた時に、編集者や印刷技術者の工夫や思いが詰め込まれていることを思い出せば、たんなる制作物ではなく、文化を担う作り手の矜持を感じることができるはずである。
■造本装幀コンクールにみる本の美しさとは
「造本装幀コンクール展」は、1992年より東京国際ブックフェアの会場で、応募作品が展示されている。主催は、日本書籍出版協会および日本印刷産業連合会である。趣旨は、「出版、デザイン、印刷、製本産業の向上・発展と読書推進を目的としています」とある。「造本装幀技術の素晴らしさを伝えていきたい」との観点から審査も行われているらしい。今年も受賞作品をはじめとする応募作品が展示してあった。全部で366点の応募があったという。
美しい本作りを目指すために必要なものは、文字組の美しさであり、デザインであり、レイアウト、紙の色、印刷、装幀であろう。また表紙がいかに本の内容を表現することができるかにかかっている。
表紙は本の内容を知らない人にも興味を持ってもらう意図がある。デザイン全般に言えることだと思うが、作り手の思いを受け手に伝える役割を担っているのである。
デジタルファーストの時代だからこそ、紙とつなげるデジタルビジネスを考えるのが印刷会社にとって強みを発揮できるような気もする。
方向性は各社がそれぞれ検討していくのだろうが、価値創造とは、何もむやみやたらに目先の技術に飛びつくだけではなさそうだ。もちろん情報を得ることは大切だが、本質は何か、自社の強みを活かす手段は何かをよく考えてから動き出すことが大切なようだ。
作者が直接本を出版していくモデルも実際に生まれており、書店はおろか出版社すら不要になるかもしれない。そんな状況で付加価値をつけるとしたら得意分野の深耕も考えられる。
こんなときにこそ本来印刷会社が得意としていたデザインや文字の美しさで差別化を図るのも印刷会社の戦略の一つであろう。
******************************************
■関連情報
今年も『印刷白書』の編集制作時期がきた。皆様のご期待に添えるように『印刷白書2013』を鋭意作成中である。
『印刷白書2007』から表紙をお願いしているデザイナーの大森裕二氏は、『江戸鳥類大図鑑』(平凡社)で、2007年第41回造本装幀コンクール展において、経済産業大臣賞と日本図書館協会賞を受賞している。さらに2008年にドイツ・ライプチヒで開催された「世界で最も美しい本コンクール」で 銀賞を受賞している。
■印刷白書2012