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顧客との接点となっているチャネルをすべて連携させるオムニチャネルは、マルチチャネルの進化版として理解されている。
オムニチャネルのオムニ(OMNI-)は「全て」とか「広く、あまねく」という意味があり、インターネットや実店舗など、あらゆる顧客との接点を連携させて拡販するマーケティング戦略を指している。オムライスのオムも「全てを包む」的に同語源と考えられている方もいらっしゃるが、こちらは薄い卵焼きというオムレットのオムから来ている。語源的にはラテン語のラミネートといわれている。
オムニチャネルとはアメリカの老舗百貨店メーシーズの会長兼CEO であるテリー・ラングレン氏が、「オムニチャネル企業を目指す」と発表したことから俄然注目が高まってきたキーワードである。メーシーズは伝統的営業が行きづまりをみせ、業績不振が長年続いていたが、オムニチャネル化により業績を改善し、その効用を知らしめたのである。
米国ではネット通販の比率が上がっていて、実店舗で商品を見てネットで買う、いわゆる「ショールーミング」が進行している。そのための実店舗の強みを生かす手法は、企業の生死に直結するポイントなのだ。 オムニチャネルは、マルチチャネル(複数の異なったチャネルを用いたマーケティング手法)に極めてよく似た概念にみえる。しかし、マルチチャネルでは各チャネル間の連携はなく、各チャネルが連携するオムニチャネルはその進化版といえる。
日本でも大手流通グループなどオムニチャネルを採用する企業が増えている。 具体的にオムニチャネルとは、小売業などで実店舗とテレビショッピング、テレビCM、カタログ通販、インターネットを介したEコマースや商品の情報ページ、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など、あらゆる顧客接点を連携させて販売につなげようとする考え方や施策だ。顧客が商品を認知して、購入を検討し、実際に購入するまでのプロセスで、どのチャネルを経由して販売店側にアプローチしても、不利益を感じることなく買い物ができる環境を提供するのが基本コンセプトである。 販売店はサプライチェーン戦略と連動した専用ソフトを組み込むことで、今まで気が付かなかった顧客ニーズを捉えることができるようになる。これによって、サプライチェーンの抜本的な見直しを迫られるが、在庫の圧縮につながる可能性もあるので、取り組む意義は大きい。 また、全チャネルを横断したマーケティングができるので、熱心なファンの獲得や新たな顧客ニーズの発掘できる可能性も飛躍的に上昇するのだ。
野村総合研究所の調べによれば、ネット購入とネットと店舗を併用して購入する割合の合計が2010年には国内小売市場の約23%だっ たのに対し、15 年には49%まで拡大するという。複雑化する実店舗とネットとの融合を進めていくことで、単なる小売業に限らず、宣伝や流通・金融といった多くの業種にとって避けられない問題となっている。もちろんこの数字は日本国内のもので、ネット化の進んだ北米ではとっくに顕在化している問題である。したがって北米や欧州を参考にしながら、日本特有のメンタリティも含めてビジネス展開する必要がある。
IT 業界では、Eコマースシステムベンダーを中心に、オムニチャネルを実現するソリューション販売(もしくはソリューションビジネスとして提供)が活発だ。ネットショップと実店舗を連動させた売り上げ管理や顧客情報管理、在庫管理などのシステム、さらにはそれらを物流情報と連携させるソリューションまで登場している。
このように小売業や飲食業などでは、B2Cビジネスを中心として、オムニチャネル関連のモバイルアプリケーションの構築が盛んだ。 しかし、この手のアプリは「リリース件数は多いが一向に儲からない」というレッテルを貼られていたのも現実だった。ところが最近、企 業向けのアプリ構築は儲かるビジネスとして確実に認知されている。
アプリはこれまで、コンシューマーが利用する完結型のソフトとして考えられていたが、最近ではクーポンやポイント管理など、CRM の機能を内包したアプリとしても提供され始めている。また在庫の照会やそのアプリを通じてのコマース連携まで実現しているのだ。 基幹システムと連携して、これまで管理されているさまざまな情報をWeb にフィードすることは行われていたのだが、現在はユーザーの手元にあるデバイスまでフィードする。これによって、顧客によるセルフサービスを促進するだけでなく、行動履歴などさまざまな顧客動向をとらえることができるので、今後ますます活用が期待されている。
(『JAGAT info』2014年2月号より)