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個別原価計算と 総合原価計算

掲載日: 2013年08月23日

受注産業で一品一品仕様の異なる製品を生産している印刷業では個別原価計算が適している。

工業簿記では原価計算は個別原価計算と総合原価計算の二つに大別される。

個別原価計算は、印刷業のように一品一品仕様の異なる製品を受注生産する場合に用いられる。一方で総合原価計算は、同じ種類の製品を見込みによって大量に生産する場合に用いられる。総合原価計算では、ある期間内に完成した製品の原価の合計を計算し、これを完成品数量で割って、製品1 個当たりの原価を計算する。原価計算の対象期間は一般的に1 カ月である。

前述のように大半の印刷業では個別原価計算が適している。個別原価計算では、製造指図書(作業指示書)ごとに製造原価を集計する。製造原価は、製造直接費と製造間接費に分けられる。製造直接費はさらに直接材料費、直接労務費、直接経費に分けられ、製造間接費はさらに間接材料費、間接労務費、間接経費に分けられる。

印刷業でいえば、用紙代やCTPの版代が直接材料費に当たり、(プロセス)インキやCTP の現像液などが間接材料費となる。また、生産管理などの間接部門の人件費が間接労務費となる。

直接材料費は比較的容易に製造指図書(受注一品)別に把握することができる(逆にいうと容易に把握できないものは間接材料費として扱う)。それ以外の原価については、その製品を製造するのに掛かった直接作業時間を基準にして割り振ることになる。「直接作業時間×時間原価」で計算する。時間原価はあらかじめ予算策定時に決めておく。直接労務費の時間原価を“ 予定賃率”、製造間接費の時間原価を“ 予定配賦率” と呼ぶ。

このような計算方法で受注一品別の原価を積み上げて、月次の原価を計算すると、当然“ 予定” と“ 実際” の差異が生じる。原価計算においては予定に対して実際はどうであったかを評価し、差異を分析することが非常に重要であり、これを予算統制という。

製造間接費は操業度(稼働率)によって変動する予算であることが望ましいとされ、予定と実際の差を操業度差異と呼ぶが、中小の印刷会社でそこまで行っているケースは非常に少ないと思われる。時間原価は、直接労務費や製造間接費などに分けずに工程別、設備別に算出すれば十分であろう(言い換えると細かく分けても管理し切れない)。

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JAGAT が提唱しているPMP(印刷業向け部門別利益管理)システムでは、“ 予定”原価については標準原価で計算する。作業をするごとに、その作業の標準原価(例:DTP 組版(A4 サイズ)1200円×24 頁)を積み上げていく。月次で締めて標準原価の合計と実際に掛かった経理上の原価とを比較して部門損益を算出する。直接作業時間を用いないのは同じ作業を行ったとしても、作業者や設備によってばらつきが大きいためである。

最近、脚光を浴びている原価管理の手法が、受注一品別に工程別の積算(受注)金額と実際原価(直接作業時間×時間コスト)を比較し、一品ごとの損益を把握するやり方である。

厳しい価格競争で受注単価が下落傾向にあるなか、ダイレクトに売上金額と製造原価を比較することで、無理な受注をチェックし、期間で締めずともタイムリーに一品別の収支が把握できスピード感のある対応ができる。また、システムにより“見える化”することで、社員一人ひとりの原価意識を高めることにもなる。なお、ここでの原価は“ 予定” 原価で会計上の原価とはイコールにはならない。

(『JAGAT info』2013年8月号)

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