クロスメディア考現学(6)クラウドファンディングのススメ ~アイデアを現実のものにする資金調達の手法~
掲載日: 2013年08月27日
「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
クロスメディア考現学(6)
クラウドファンディング
~アイデアを現実のものにする資金調達の手法~
この連載の第2回 で「3Dプリンターとオープンイノベーション」をテーマにしました。製造業全般に大きな変革が起きていることを「MAKERS」(クリス・アンダーソン 著 関 美和 訳 NHK出版)は克明に著しています。3Dプリンターというデバイスにのみ注目が集まり、新聞やテレビの報道も加熱ぎみだったので違和感があり、オープンイノベーションの必要性について書きました。
オープンイノベーションでアイデアが集まり、3Dプリンターがあればアイデアはビジネスとして動き出すかといえば、そうとは言い切れません。やはり、どんなアイデアでもある程度の資金がないとビジネスは始まらないし、「絵に描いた餅」で終わってしまったアイデアはどんな会社にも無数に存在していることでしょう。
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そもそもクラウドファンディングってなに??
クラウドファンディングとは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語であり、インターネット経由で自主制作の映画、演劇、フリーソフトウエアの開発、コンピューターゲーム、出版企画などのアイデアやプロジェクトに資本家からではなく、一般の人々から小額の寄付を募るものです。
日本でも「キャンプファイヤー」(
http://camp-fire.jp/ )や「モーションギャラリー」(
https://motion-gallery.net/ )などのクラウドファンディングサービスが始まっています。資金調達の期間と金額が決められているのが特徴であり、金額は小額のものから高額のものまでバリエーションがあります。
例えば、あるマンガを電子書籍で連載するプロジェクトの場合、一番安い500円コースが、連載を4カ月無料で読めるという特典に対し、一番高い10万円コースは巻末にエグゼクティブプロデューサーとして名前が掲載されるのに加え、トークショー、サイン会の打ち上げに参加でき、マンガ家と居酒屋で一緒に飲めるというものなど実にユニーク。
アカデミー賞作品がクラウドファンディングで資金調達
2012年のクラウドファンディングの市場規模は前年比2倍の28億ドル(日本円換算で約2291億円)と言われています。驚いたのは今年のアカデミー賞でクラウドファンディングサービス「キックスターター」で294人の支援者を得て、$52,527(500万円相当)の資金調達をした作品『イノセンテ』(原題:Inocente)が、短編ドキュメンタリー賞を受賞したことでした。
この映画は、カリフォルニアに住む15歳のホームレスの少女と、彼女のアーティストになりたいという夢を追ったドキュメンタリー作品。クラウドファンディングによって資金調達され、アカデミー賞を受賞したのは初めてだったとのこと。映画という、いわば「オールドメディア」の世界にもこの新しい波が届き始めていることは衝撃的でした。
Inocente Official Trailer from Shine Global on Vimeo.
クラウドファンディングの発祥は出版印刷!?
人々に幅広く寄付を募って、プロジェクトを実現するということ自体は決して真新しいことではありません。1884年に自由の女神像製作委員会が像の台座用の資金を切らしてしまい、新聞の紙面で寄付を募りました。6カ月で約125,000人から10万ドルを集めることに成功し、像の台座が出来上がりました。
さらに遡り、クラウドファンディングの発祥と言われるのは、17世紀のヨーロッパ。当時の出版印刷は、寄付を募り印刷代を賄っていました。その見返りとして寄付者の名前が記載されたのです。
現代の印刷会社もただクライアントから与えられる仕事を待つだけではなく、積極的に企画の実現、アイデアを現実化するための資金調達までをも請け負うようなことができたら、どれだけ強固なパートナーシップを築けるでしょうか。
クラウドファンディングは、これまで大資本を保有する企業にしか出来なかった資金調達もソーシャル、クラウド、ネットワークの力で実現できます。
出版印刷というオールドメディアの世界でも出版社内で頓挫していた出版企画がクラウドファンディングを活用して実現し、
さまざまなメディアを駆使してミリオンセラーが生み出せたとしたら……?
クラウドファンディングで
地域活性に取り組み、
地域の期待を上回る「モノ」「コト」を提供できたら……?
それこそ、まさに理想的なクロスメディアの活用の仕方とも言えます。
デジタルだけがクロスメディアではない。役立つツールは出揃い始めています。あとは、アイデアと組み合わせしだいという確信がさらに強まっています。
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
Facebook : https://www.facebook.com/keiji.ikeda
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