本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
米Amazonが紙の本を買うと、その電子書籍版も「無料ないし安く購入できる」サービス「Kindle MatchBook」を発表した。あらためて、電子書籍からクロスメディアを考えてみたい。
電子出版イノベーション 7つの突破口
9月4日にデータセクション 会長の橋本大也さんに日本電子出版協会のセミナーで講師をつとめていただきました。
タイトルは「電子出版イノベーション 7つの突破口 」 。 読者視点で発想する、読みたい、買いたい電子書籍の未来形をテーマに自由に語った内容です。
橋本大也さんとは2012年のJAGAT大会 でご一緒したのが出会いでした。
橋本氏は、直接的に電子書籍の仕事に携わっている方ではないですが、書評家としても著名であり、年間約500冊を手に入れ、約300冊を読破。200冊程度の書評を公開しているいわばプロの読み手。
また、多くの著作物を発表している書き手でもありますが、今回は読者視点から講演していただきました。
自分が特に印象的だったのは、より読書に最適化されたウェアラブルデバイスの登場です。
これらは、文字通り、身に着けて持ち歩くことができるデバイスのことで、Google Glass、Telepathyといったメガネ型、iWatchなどの腕時計型とさまざまなものが報道されています。
もう一つは、「ベストセラーの世界史」(フレデリック・ルヴィロワ 著 太田出版)という著作を紹介しながら、「電子書籍は世界の市場に開かれている。だからこそ、世界で勝負できるコンテンツを真剣に考えてみては?」という提案でした。
16世紀の印刷技術の発明により始まった出版文化。当初から人々に幅広く受け入れられ、版を重ねる「ベストセラー」は存在していました。
この半世紀は、ベストセラーの「最大級の時代」とされ、数千万部、数億部も売れる本が登場しています。それを実現しているのが出版の産業化で、グローバル化、大胆な販売戦略の発明、顧客層の爆発的な増加、新たなメディアの出現、大衆の好みの画一化などが上げられています。
ちなみに世界のベストセラーのベスト3は、第1位 聖書 40~60億部、第2位 「毛主席語録」10億部、第3位 コーラン 8億部だそうです。
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渋谷にある“出版する書店”のSHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS は、お客様の声を反映した小冊子を作成し、その場で販売しています。Twitter で集めた渋谷のエピソードを漫画にした『渋谷の嵐 』や 渋谷のおいしい料理と自然派ワインのお店「アヒルストア」のエピソードをまとめた『渋谷の街は、いつだってぼくらの心とお腹を幸せで満たしてくれる。 』などが好評です。
「その街でしかできない、その街らしいものなのに、世界中に愛読者が散らばっている。そんな風に、いちローカルとして渋谷から世界を見ていきたい。その想いから「Made in Japan」ではなく「Made in Shibuya」としてZINEを発刊していきます」 書店サイトより
その街でしかできない、その街らしいものなのに、世界中に愛読者が散らばっている……。
この言葉はとても胸に響いてきませんか?地域に根ざした印刷会社だからこそ、できる何かを考えていきたい。
電子書籍で読む「遠野物語」
民俗学者の柳田國男が今年で没後50年となり、著作権保護期間が消滅したことが話題になっています。青空文庫 でも無料公開されました。
柳田國男は私の高校の先輩にあたり、しかも大学では文化人類学、民俗学を専攻していたので代表作の『遠野物語』は、たいへん身近な存在でした。著作権保護期間が終了したこともあって『遠野物語』関連のタイトルが電子書籍で数多く販売されています。
まず購入してみたのが『女たちの遠野物語』(著 柳田國男 編 佐々木大輔)。遠野出身の佐々木大輔さんが『遠野物語』の中から、女性にまつわるエピソードだけを厳選し、佐々木氏自身が実にユニークな解説を加えているもの。
電子書籍という新しいメディアによって100年以上も前の1910年に刊行された『遠野物語』にアクセスできたのは、なんとも不思議な感覚でした。この作品がきっかけとなって『遠野物語remix』(京極夏彦×柳田國男)、『教訓で読み解く 遠野物語』(著 多田 宜史)、『翻訳 遠野物語』(原作 柳田國男 訳 大和青史)など次々と電子書籍を購入して『遠野物語』の世界に浸ることができました。
「はだしのゲン」が紙と電子でヒット作に
この夏に話題になった出版コンテンツといえば、松江市教育委員会による閲覧制限で話題となった『はだしのゲン』。例年この作品は、終戦記念日の8月15日前後で販売が集中するそうですが、2013年の電子書籍版は昨年の同時期の12倍に拡大した電子書店もあったそうです。
紙の本でも売り上げが3倍になったそうですが、電子の12倍という数字は電子書籍が持つ特性を暗示しているようで興味深い現象です。
・過去のコンテンツからヒット作が生まれるという側面
・話題になった瞬間の「読みたい!」「買いたい!」という衝動が冷めないうちに購買を成立させる
膨大な過去のコンテンツの中から情報を収集し、「これは面白いよ!」「今こそおススメ!」と推薦する機能を、通常はキュレーションやリコメンドと言ったりします。
今ではこの機能は、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアが担っており、新刊、既刊、紙の本、電子書籍を問わず、出版コンテンツの存在を知り、気づいたら購買までしてしまったというケースが多いのではないでしょうか?
私も頻繁にブログ、ツイッター、フェイスブックで本の書評を発信することが多いので、私の発信がきっかけで購読したというメッセージをいただくことも多いです。
ソーシャルメディアだと個人のパーソナリティが分っているので、「あの人が推薦しているのなら読んでみよう」という「推薦する力」が格段に強くなります。電子書籍、紙の書籍、またこうしたソーシャルメディアの特性を理解した上で、ベストセラー、ロングセラーを誕生させることができたら、まさにこれまでの「出版印刷」という枠組み、役割を超えた正真正銘のクロスメディアエキスパートといえるのではないでしょうか。
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
Facebook : https://www.facebook.com/keiji.ikeda
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●関連セミナー
2013年09月18日(水) 13:00-17:00
印刷業を取り巻くデジタルメディアとマーケティング動向
http://www.jagat.jp/content/view/5118
第16期 プリンティングコーディネータ養成講座
10/2(水) 開講 全6回
「お客から選ばれる印刷会社」となるために、印刷の総合的な横断知識を持ち、お客様、営業、製造現場など仕事に関わるすべての人と適切なコミュニケーションがとれ、良きアドバイザーとなれる人材を育成します。
https://www.jagat.jp/content/view/4128
●イベント
あおもりアートICHIBA「ZINE meets Aomori」
個人の手で構成・デザイン・印刷し販売する小冊子「ZINE」。
青森 王余魚沢倶楽部で9/14(土)~9/16、9/21(土)~9/23開催。
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