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光村グラフィック・ギャラリーで開催中の、地方のアートディレクターズクラブ(ADC)による展覧会「LOCAL ADC はじまりの3人展」は、地域活性ビジネスに与えるデザインの力を鮮やかに映し出している。
昨今、地域のクリエイターで構成する広告・デザイン団体ADCが、地方都市で次々に生まれ、地場産業のブランディングに関わり、全国や海外の国際公募展での受賞も果たすなど、デザインシーンに活気を与えている。
光村印刷が運営する「光村グラフィック・ギャラリー(MGG)」は、地方ADC東京展を企画し、富山・札幌・新潟・広島・九州・金沢に存在する地方ADCの活動を順次紹介する。その皮切りとして、9月3日(火)〜9月20日(金)まで、地方ADCのきっかけを作った寺島賢幸氏、はせがわさとし氏、前田弘志氏の3人による「LOCAL ADC はじまりの3人展」を開催している。
展示会場には、3者3様の作品が並んだ。
寺島賢幸氏(札幌)
メイドイン北海道の商品ブランディング
北海道物産展の様相を見せる展示。札幌に生まれ育った寺島氏は、地元の農業を応援したいという思いから、農産加工品のパッケージや販促物のデザインを数多く手掛けている。そのデザインは奇をてらわず、それでいて商品の素性の確かさをアピールする力を持っている。
はせがわさとし氏(富山)
SDC Project(住まいづくりデザインセンタープロジェクト)の今。
全国各地の住まいのあり方を提案しているはせがわ氏は、「住まいの提案」「地場産デザイン活性化プロジェクト」などのイメージポスターを中心に展示した。アルファベットなどの形に部屋の見取り図を配したデザインは、緻密でありながらも、人の営みの暖かさを感じさせる。
前田弘志氏(札幌)
弱小の、開き直り。
芝草四郎名義で編集長を務める『三号紙』を中心とした展示。『三号紙』は「1号につき1つの話題(ネタ)をとっかかりにしつつ、記事と広告が密接に関係する紙面構成で、北海道でがんばる会社や団体を紹介・応援するフリーペーパー」というキャッチフレーズで発行されている。毎回判型も素材も加工方法も変え、アート作品を思わせる大胆なデザインで広告主の好評を得ているという。
●地方ADCの道のり
ADCは、クリエイティブに関わるグラフィックデザイナー、アートディレクター、カメラマン、コピーライターなど幅広い層を対象にしている。年次公募展と年鑑の作成を活動の中心に置き、クリエイター同士の交流、意識向上、能力向上を図っている。日本では1952年創立の東京ADCが老舗だ。
1996年には富山ADCが設立され、設立メンバーであるはせがわ氏が翌年、世界ポスタートリエンナーレトヤマ(IPT)1997に見事入選した。その3年後、IPT2000に入選した北海道の寺島氏と前田氏が富山を訪れ、はせがわ氏と出会い、富山ADCの活動を知る。寺島氏と前田氏は大いに刺激を受け、翌年の2001年に、札幌ADCを立ち上げる。
その後、公益社団法人日本グラフィックデザイナー協会(JAGDA)の後押しもあり、新潟、広島、金沢、九州で、ADCが次々に設立されていくのである。
地方ADCは、地方のクリエイターに公募展で実力を試すチャンスを与えている。また選考が公開審査で行われることから、参加者同士の交流で各自が刺激を受け、より高い目標をもつようになる。その結果、地方ADCの受賞作品が、全国や海外の国際公募展でも賞を獲得するようになっていった。
●地域でデザイナーが活躍するために
地場製品が市場で受け入れられるためには、品質の向上だけではなく、パッケージデザインや販促などを含めたブランディング戦略が必要である。地場産業に愛着を持ち、産業に携わる人々と密接なコミュニケーションを取れる地元クリエイターの役割は、今後ますます重要となるだろう。そのために、地方ADCが全国各地に広がることを期待したい。
しかしクリエイターの熱意だけでは限界があるのではないか。クリエイターの活動・教育などの環境整備、地場産業自体の振興、地域コミュニティの形成がなければ、デザインは成り立たない。だから、地方デザインのあり方は地域活性の推進と一体に考えていく必要があるだろう。
JAGATがレポート『印刷会社と地域活性』で述べている通り、印刷会社は地域活性において、さまざまなプレーヤーとの調整役として活躍できる存在だ。また、クリエイターのアイデアを形にする役割を担っている。地域活性ビジネスに取り組んでいる印刷会社は、地元クリエイターの活動をキャッチし、コラボレーションを進めていただきたい。
●今後の展示
MGGでは本展終了後、10月1日(火)〜10月18日(金)まで「HIROSHIMA ART DIRECTORS CLUB In Tokyo展 広島から生まれるデザインとそのアートディレクション」展を開催し、その後札幌、金沢、新潟のADC展を開催していく予定である。クリエイター、印刷業界関係者、そして地域活性とデザインに関心を持つ方はぜひ会場に足を運んで、クリエイターの熱意と、地場デザインの力に触れていただきたい。
◯LOCAL ADC はじまりの3人展
寺島賢幸・はせがわさとし・前田弘志
・会 期 :2013年9月3日(火)〜9月20日(金)
・主 催 :地方ADC東京展実行委員会
・共 催 :光村印刷株式会社
・後 援 :JAGDA(公益社団法人 日本グラフィックデザイナー協会)
・出展作家 :寺島賢幸・はせがわさとし・前田弘志
・出展作品 :ポスターやパッケージ、パンフレットなど約300点
◯HIROSHIMA ART DIRECTORS CLUB In Tokyo展
広島から生まれるデザインとそのアートディレクション
・会 期 :2013年10月1日(火)〜10月18日(金)
・主 催 :広島アートディレクターズクラブ
・共 催 :光村印刷株式会社
・後 援 :JAGDA(公益社団法人 日本グラフィックデザイナー協会)
・出展作家 :納島正弘ほか
◯光村グラフィック・ギャラリー(MGG)
光村印刷が「ミツムラ・アート・プラザ」として活動していたスペースをリニューアルオープン、グラフィックデザイナーを中心とした全国の作家の制作・発表の拠点を目指す。
http://www.mitsumura.co.jp/
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