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シュタイデル社は、アンディ・ウォーホルに魅了された青年ゲルハルト・シュタイデル氏によって、1968年、ドイツ・ゲッティンゲンに設立された。
以来、規模を追うことなく、ただひたすらに良い本づくりを目指して事業を展開した。英語とドイツ語の両方を市場にこだわりの本づくりを追求した結果、シュタイデル社は知る人ぞ知る出版印刷会社となり、コレクターが世界中にいると言われるほどの存在になった。
10万円を超える高額本は日本ではほとんど需要はないようだが、世界では欧州やアラブ、新興国の裕福層において一定の市場を形成しているようだ。
社員45人ながら、2009年時点で2012年までの仕事が埋まっているほどの人気である。主要顧客はノーベル賞作家、芸術家、シャネル、美術館など、高質な本づくりでなければ満足しない人たちだ。
映画では、撮影陣が1年間かけてシュタイデル氏に密着している。同氏が「工業製品でなく、作品を作る」というように、作品としての美しい写真集を完成させていく様子を観察することができる。
シュタイデル氏は、ニューヨーク・ロサンゼルス・パリ・カタールなど世界中のクライアントと打合せの旅をしながら妥協することのない本づくりを進めていく。
シュタイデル社は、1972年に初となるアートブック、1974年に初めて政治に関する本を扱い、1980年代から文学と芸術書、写真集を手がけるようになった。1996年からドイツ国外に向けた写真集を扱うにようになると、顧客は世界に広がった。
「本で利益を稼ぐことは難しい、ベストセラーでもない限りは」と言い、ベストセラーなどで得た利益を良い本づくりに投じているという。仕事のポリシーとして、①クライアントとは直接会って仕事をする、②全行程を自社で行い品質を管理する、③「商品」でなく「作品」を作る姿勢、を挙げている。
その作品づくりは、編集・ディレクション・レイアウト・印刷・製本・出版までを自社で総合的に扱い、紙やインキの匂いの表現にまでこだわりを持ったものである。
映画では数百部限定1部1万ドル(=約98万円)の本の制作過程があり、部数を増やせば単価は下がる、絞れば単価は上がる、部数を増やしても製本コストには効いてこない、部数をどのように決めればよいか、といったお馴染みのやりとりがみられる。
本作は必ずしもシュタイデル社の技術力を描いたものではない。世界では常に最先端の印刷設備が登場し続けているし、日本の印刷技術の高さには世界的な定評がある。同社より優れた生産システムを備える会社、同社の社員より優れた印刷オペレータは日本にもいくらでもいるだろう。
しかしシュタイデル社は、本づくりへのこだわりと情熱、本づくりの無限の可能性を世界中の顧客と共有、本に価値を持たせる説得力について、どの印刷会社より長けているのである。
映画の多くの場面において、シュタイデル氏は白衣をまとった印刷技師として振る舞い、紙やインキの匂いまで含めて本の魅力として顧客に語りかける。その姿は、本づくりの楽しさとその無限の可能性、インキや紙の匂いも本を形づくる大切な要素であること、本を作る喜びと楽しさを改めて思い出させてくれる。
監督:ゲレオン・ヴェツェル&ヨルグ・アドルフ
出演:ゲルハルト・シュタイデルほか
原題:「How to Make a Book with Steidl」 2010年/ドイツ/88分/カラー
字幕協力:小尾恵理、寺本美奈子
協力:凸版印刷株式会社 、印刷博物館 、lim Art
配給:テレビマンユニオン
上映:2013年9月21日(土)~
[シアター]イメージフォーラム
渋谷駅より徒歩8分
(JAGAT 研究調査部 藤井建人)