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「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
佐賀県にある武雄市図書館を訪れた。図書館で感じた、出版コンテンツの役割について触れたい。
新生「武雄市図書館」を視察
9月13日に佐賀県武雄市にある武雄市図書館 を訪れました。かつてJAGATの月刊誌『プリバリ印』2011年12月号 で触れたように、筆者は武雄市図書館デジタル化推進協議会委員、選書委員として武雄市図書館と関わりがあり、今回で三回目の訪問となりました。
しかし、2013年4月にリニューアルオープンした新生「武雄市図書館」に足を運んだのは初めてです。
指定管理者制度を利用して、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が管理・運営を行うようになり、館内にカフェ(スターバックス)や書店が併設され、年中無休。
飲み物や軽食を楽しみながら本を読める新しい公共図書館として、新聞やテレビでも取り上げられることが多く、武雄市図書館の知名度は「全国区」になっています。
議論を巻き起こしたTカード、Tポイント
2012年5月4日に武雄市とCCCの基本合意締結の記者会見がありました。
以来、貸出カードをCCCが展開しているTカードにし、貸出にもTポイントを付与することに対して、図書館利用に関する個人情報の取り扱いの問題があるとネット上でも激しい議論が展開されています。
貸出カードについては、Tカードと新たに発行する図書利用カードいずれかの選択制となりましたが、8月31日時点で94%がTカードを選択しています。また武雄市図書館の登録に武雄市在住、在勤などの制限はなく、貸出された本を日本全国、どこから返却しても料金は500円です。
来館者数は、前年度比358%増の44万1,329人、アンケート結果によると新しい図書館に生まれ変わったことについて、31.9%が大いに満足、51.2%が満足という結果が出ています。
個々人によって、理想的な図書館の姿については議論の余地があると思います。しかし、上記の数値は、多くの市民に受け入れられていることを示しているのではないでしょうか?
図書館の新しい役割とは何か
武雄市から戻ってきて、イタリアの図書館人が書いた『知の広場―図書館と自由』(アントネッラ・アンニョリ 著 みすず書房)を読み返しました。
この本の中に、図書館が取り組まなければならないこととして、
「どのような潜在的利用者がいるのか、そして、それはどのような種類の人なのかということを知ることである」
という記述があります。
またイギリスの先端的な図書館「アイデア・ストア」は、
「公共サービスは無料だが、顧客サービスに関しては、民間企業の要素を取り入れている。」
「年中無休にすることで、これまで週末しか時間がなく部外者となっていた貴重な利用者を獲得することができた。」
とあります。
武雄市図書館も書店、カフェの併設に加えて、年中無休、朝の9時から21時まで開館といったリニューアルによって、これまで図書館を利用してこなかった層の掘り起こしに成果を上げています。
クロスメディアを活用して理想的な知的空間としての図書館を
武雄市図書館では、2011年4月に「武雄市MY図書館」というiPadやスマートフォンで電子による図書の貸出サービスを始めています。全国の公共図書館の取り組みの中でも先端的な事例でした。
今回訪れた、新生 武雄市図書館では、この場に来なければ味わえない空間にこだわりをもって運営しているため、電子書籍を体験したり、購入したりできるコーナーはありませんでしたが、ぜひとも取り入れていただきたいと感じました。
特に可能性があると思ったのは雑誌のコンテンツ。武雄市図書館では600タイトルの雑誌を読むことができ、大半は購入することが可能。バックナンバーも豊富に揃っています。
長崎や福岡からわざわざバックナンバー目当てに武雄市図書館に足を運ぶ人もいるそうです。雑誌はまず人の目に触れてことその魅力が伝わります。この連載でも「イーシングルでクロスメディア読書を」 というテーマで触れたことがありますが、雑誌のコンテンツがデジタル化され、シングル化、マイクロ化されることによって読者の知的生活が豊かになる可能性は十分に秘めています。
入り口がアナログでも購入というアウトプットはデジタルということもこれからも多くなっていくはずです。
図書館を自分が本当に求めているコンテンツとの出会いの場として活用できれば、読者にとっての利便性は大きく改善されるはずです。
アナログだけ、デジタルだけでなく、クロスメディアの発想こそ地方自治体、図書館業界、そして出版業界も活性化され、新しいステージに入っていけるのだと確信いたしました。
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
Facebook : https://www.facebook.com/keiji.ikeda
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