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組版作業での大きな問題のひとつに、校正段階での修正作業がある。
初校や再校で赤字の直しが多ければ、組版費用もかさむ。初校で赤字が多い場合は、校正回数が増える可能性がでてくる。一般に書籍の校正では三校で校了(又は責了)にするが、校正回数が増えれば、それも組版費用に影響するだけでなく、校正費の増加にもつながる。
著者校正を考慮すれば、校正段階で赤字がまったくなくなるということは考えにくい(原稿を完璧に仕上げるということは、経験からいえばほぼ無理であり、完璧にできたと思っても、時間をおいて見直すと、どこか必ず直したくなる箇所は出てくるものである)。
しかし、できるだけ校正段階での赤字を少なくするように作業計画をたてる必要がある。コンピュータ組版では修正が簡単とはいえ、修正作業は時間をとるだけでなく、その確認も必要になり、手間は確実にかかる。
活字組版では組版の直し(差換え)の作業に手間がかかったことから、印刷所から出版社に対し、完全原稿での入稿を願う声があった。しかし、最近は完全原稿という言葉はほとんど聞かれない。
JIS Z 8125(印刷用語―デジタル印刷)では、完全原稿を次のように定義している。校正段階で直しが入らない原稿ということである。
“印刷工程にまわす原稿の内容及び組版指定に誤りがなく、すぐに組版又は製版の作業ができる状態にある原稿。”
完全原稿にするのは難しいとしても、今日でも、その精神は必要であろう。文字を主にした印刷物では、原稿段階での原稿整理(原稿編集)の作業がとても重要になる。
コンピュータ組版では活字組版と比べ修正作業は簡単であるから、校正作業をしっかり行えばよいという考え方もあろう。
しかし、原稿編集と校正では目的も作業の重点も異なる。原稿編集では、著者に寄り添い、読者を考慮し、全体の流れを常に意識しながら作業する。校正は、目の前の校正刷に集中し、もっぱら正否を確認していく。
この二つの異なる段階で、しかも目的を異にする作業を行うことで、内容も形式も整った印刷物を作成することが保証できる。
原稿段階で点検・整理をしっかり行う利点もある。それは、組版したデータよりは原稿の方が、一般にデータが扱いやすく、また、各種の原稿を整理するツールが利用できる。DTPでもデータを修正する機能、特に検索と置換の機能が充実してきたが、原稿での作業の方が優れている。
また、原稿段階では編集者がデータを扱って直すことも可能である。編集者がDTPで組版する例もあるが、一般的ではないであろう。検索・置換など、判断しながらの作業が編集者では可能になるが、一括置換などは、別の人が担当する場合は、危険が伴う。
それでは、原稿編集でしっかり原稿を点検すれば、校正作業を行わないですますことが可能かといえば、そうではない。前述したように、目的や重点が異なる点検を原稿編集と校正で行うというだけではない。
原稿段階でも、データを仕上りに近い形にして、点検・整理は可能である。しかし、行の調整処理などでは原稿と組版段階では異なってくる。ルビも、特にその配置位置は原稿と同一になるかはわからない(ルビの配置位置を組版では原稿と同一にする必要もなく、方針に従い望ましい配置にすればよい)。また、図版や表の配置、柱・ノンブルなどのページ処理も原稿とは異なる方法で行われる。
さらに、細かい事項をいえば、漢字の字体も原稿と組版では漢字によっては異なるケースもある。図1に例を示す。
いずれの例も、書籍などでよく見かける漢字で、市販されている本では両様の字体が使用されている。ある本では右側の字体、ある本では左側の字体が用いられている。いずれの漢字も“常用漢字表”に含まれない漢字であるが、“表外漢字字体表”には含まれている漢字である。“表外漢字字体表”で示されている字体は左側の字体である。
したがって、著者校正だけではなく、その他の理由からも校正作業は欠かせない、ということになる。