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「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
「2025年の電子書籍」というテーマのパネルディスカッションに登壇し、12年後の電子書籍、読書習慣がどのように変化していくかを熱く語り合う貴重な機会に恵まれた。私を含めたパネラー4人の中で、紙の本が無くなっていると感じている人はいなかった。
翌日はドイツの出版社 シュタイデルを追ったドキュメンタリー映画「世界一美しい本を作る男」を観た。用紙、インク、印刷、製本などにこだわり尽くした完璧主義者の男ゲルハルト・シュタイデル社の"本"は世界中にコレクターがいる。物体としての本の魅力、読書という行為そのものを再考するいい機会になった。
「2025年の電子書籍」に想いを馳せる
国際公共経済学会 は、2013年12月7日、8日にわたり、慶應大学日吉キャンパスで「2025年のICT」をテーマに第28回研究大会を開催しました。
12月7日に「2025年の電子書籍」というテーマのパネルディスカッションがあり、私もパネラーとして登壇しました。コーディネータは名古屋学院大学の山口翔氏、パネラーは写真家・日本写真著作権協会常務理事の瀬尾太一氏、有斐閣代表取締役の江草貞治氏、hon.jp 代表取締役の落合早苗氏と私。
メール上で若干プロットの確認はしたものの、はっきり言ってぶっつけ本番でした。「電子書籍元年」の総括、電子書籍「以前」と「以後」、「編集」「プロデュース」というプロセスといったコーディネータの山口氏から提示されるプロットに身を任せながら、約二時間のパネルディスカッションはあっという間に過ぎていきました。
未来の出版業界がどうなっているかというテーマだと「紙の本がどれだけ減っているか」「全て電子に置き換わっているのか」といったセンセーショナルな主張をすれば、目を引きますが、私自身は紙と電子の相乗効果を活かして共存しているはずだというクロスメディア論を展開。
他のパネラーも2025年に紙の本がすべて電子書籍に置き換わっていると予測をする人はいませんでした。そして「読書」という行為そのものは12年後も変わっていないはずであるということや、セルフパブリッシングなどによるコンテンツの生成方法の変化も台頭してきているが、「編集」という行為もコンテンツの品質を保つ意味でも重要性は不変であると言えます。
印刷、本の魅力を再確認 映画「世界一美しい本を作る男」
パネルディスカッションの翌日に観たいと思っていた映画「世界一美しい本を作る男 」を渋谷のイメージフォーラム で鑑賞しました。9月からのロングランです。
ドイツの「世界一美しい本を作る」と称される出版社シュタイデルに迫ったドキュメンタリー映画。
欧米の出版社は、日本のように出版社と印刷会社が受発注の関係で分離されているのではなく、出版社が日本でいう印刷会社の機能を持ち、編集企画からコンテンツの製作、印刷、製本まで行います。
映画で映し出されるのは、経営者であり、完璧主義者のゲルハルト・シュタイゲルが世界中を飛び回ってアーティストたちと自ら綿密な打ち合わせを行い、使用する紙、サイズ、インクの選定、カラーマネジメント、装丁といったすべての工程で妥協せずに、まさに「作品」「芸術品」と呼ぶに相応しい"本"を生み出していく。
このシュタイデルが行っている姿の大半は、日本では印刷会社が担っている領域です。さすにドイツはマイスターの国だけあってユニフォームも様になっていて、刷出しを確認する所作の一つひとつが一言でいって"かっこ良く"感じました。
電子であろうが紙であろうが、この素晴らしき「本」の世界に関わっていることにもっと誇りを持って取り組んでいこうと襟を正す気分にさせてくれました。東京は2014年1月17日までは上映が続く予定だそうです。大阪、福岡でも上映中です。すべての本を愛する人、印刷を愛する人に観ていただきたい映画です。
●関連記事
世界中にコレクターを持つ印刷会社シュタイデル
https://www.jagat.jp/content/view/5246/422/
★『世界一美しい本を作る男』トークショー開催! ★
●12/13(金)19:15の回上映前
ゲスト:上島明子(美篶堂)×高岡昌生(嘉瑞工房)
★クロスメディア人材教育の考え方と実践★
2013年12月13日(金) 14:00-16:20
http://www.jagat.jp/content/view/5305/395/
★page2014 クロスメディアカンファレンス サイトオープン★
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
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