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長い歴史をもち、技術力に自信のある企業だからこそ、顧客に新たな価値を提供することができる。特殊印刷、特殊加工では「高付加価値」を切り口に提案することでビジネスチャンスが広がる。
■顧客から注目されるために
箔押などの「光る」仕事量は例年11月頃からピークを迎えるという。クリスマスや正月など付加価値をつける印刷物に使用されるからだ。まさに師走の今が繁忙期で、月の仕事によって、その年の売り上げも決まるほどである。
金銀各種箔押、浮出、型抜、紙器加工を専業とする丸栄の堀知文社長にお伺いしたことだが、「箔がつく」という言葉は、ものの値打ちが上がることである。「その昔、漆器等に金箔をほどこして価値を高めたことからきた言葉です」という。非常に高価で、値打ちが高くなること、貫禄がつくことを「箔がつく」というようになった。
箔押や浮出・空押はオンデマンド印刷にも高い付加価値をもたらす。最近では、特殊印刷や加工を利用した雑誌広告、ポスター、DMなどが注目されている。それらは確実に効果をあげていて、特に若者向け、女性向け雑誌では、売り上げの数字まで左右するほどだという。
しかし、顧客の側からすれば、自社商品の差別化を図るには、これまでの「光る」技術にプラスアルファの要素を求めてくる。
印刷側からすれば、これまでの技術では表現が困難だった3Dであり、また特殊加工では、「ホログラム」などがある。それを既存の技術や製品と組み合わせていくことで、より高級感を醸し出すことが可能になる。
■電子書籍時代にも価値を高める
インターネットによって、影響を受けている産業は数限りないが、印刷に関していえば、情報伝達手段としての印刷物が明らかに減少している。伝えるものが紙から別媒体に移ったというより、紙が唯一絶対の伝達手法ではなくなったのだ。また電子書籍の動きがいよいよ活発化してきて、出版印刷も減少している。しかし、パッケージなどは必ずしも減っているわけではない。
Webファースト、デジタルファーストになっていったときに、特に出版ビジネスは影響が出るだろう。最初にネットや電子書籍で世の中に出て、売れるものや価値のあるものが紙の本になっていく。そうなったときに紙の本には価値が生まれ、コンテンツを生成する側にも書籍化することがステータスとなる。
いまでもブロガーが認められるには、紙の本を出版しているかどうかが、評価基準になっているとさえいわれている。
そのときには、製本の技術も価値を生む。当然上製本の方が高評価だし、PP貼りにとどまらない、特殊な加工を施している装幀は価値がある。表紙に箔押があれば、それこそ「箔がつく」のである。
「背景をマーケット面から考えるとWebでは不可能な現物見本添付という超リアルな世界の演出であり、消費者には強烈なインパクトを与えています」(堀氏) 。箔押技術などの価値が生きるのもマーケティングの要素があればこそ、である。
■2D/3Dが生み出す新たな「クリエイティビティ」
山口証券印刷は、鉄道・バスの乗車券など有価証券印刷の分野で、1921年の創業以来92年の歴史を誇る。現在では、乗車券だけでなく、ギフトカード、ICカードや社員証・会員証などを手掛け、偽造防止・番号・ミシン・抜きなどの加工、UV印刷などにも対応している。
2003年には企画・デザイン・編集・商品開発を行うINCENX(インセンクス)事業部を発足させた。2D/3D、動画、Web、サイン、ノベルティーなども提供している。
2D/3Dのポスターやパッケージなどを、顧客視点で手掛ける。具体例としては、2Dでありながら、立体感とホログラムの輝きを併せ持つ3D印刷技術の応用がある。また凸金型で平面の樹脂素材から、デザインを浮き出させることで、2Dポスターから3D状に浮き出すポスターを作成している。
同事業部Creative & Printingディレクターの山口誉夫氏は「顧客の差別的・戦略的意図を十分に理解し、優良で価値の高いコンテンツを提供するためにはプロデューサー、ディレクター、マーケッターが社内にいることが重要である」という。
そして、「クリエイティビティ」を基軸にし、顧客の抱える課題を解決するためになくてはならない存在になることが同社の目的である。
■特殊印刷・加工を自社の強みに
特殊印刷や特殊加工の世界は、技術的にも敷居が高いと感じられるかもしれない。また自社の印刷ビジネスには関係がないと思ってしまいがちだ。
だが、顧客のコミュニケーションビジネスの支援をするという視点からすれば、引き受けない手はない。むしろ積極的にアピールして、印刷ビジネスの可能性を広げることができるのではないか。そのためには自社だけではなく、できるところとアライアンスを組んでいくことも視野に入れるべきであろう。
一社ではできないこともつながりをもっていけば可能になることがある。何気ない雑談や異業種交流などにもヒントが隠されているに違いない。
いずれにしても顧客から「オリジナル商品を作りたいのだが、お宅でできる?」という相談を引き出せたらまだまだチャンスはあるということだ。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
【プリンティング・マーケティング研究会】
12月19日(木)
「価値を高める特殊印刷、特殊加工」
~注目の3D、ホログラム、箔など特殊印刷・加工の事例紹介と可能性~
本文で触れている丸栄の堀知文氏と山口証券印刷の山口誉夫氏が講師を務めるミーティングです。