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リーマン・ショックと東日本大震災後の長期低迷をようやく脱して再成長を始めた日本経済。メディア多様化が進み、震災からの復興を試した2012年。印刷界においても様々な出来事があった。2013年の状況を振り返る。
■2011年:リーマン・ショックの影響がようやく薄れる
現時点で「工業統計」は2011年までの出荷額を公開しており、2011年は前年比7.6%減の5.71兆円だった。2011年は印刷業もリーマン・ショックの影響から遅まきながら脱し始めたところに東日本大震災が起きた年である。震災の影響は月を追って薄れたが、電力と資材料の不足など事後的な影響も追い討ちをかけ、秋にはタイの大洪水などがあり、印刷産業もこうした世界的な景気減速の影響を免れず、印刷需要は抑制気味の状態を余儀なくされたが、年末に向けて緩やかに回復していった。
■2012年:年前半は堅調、夏以降は失速、年後半に持ち直しも
2012年は、復興需要に牽引される形で年前半は堅調に推移した。首都圏折込広告の出稿枚数が2月から6月まで5ヵ月連続の前年比プラスなど比較的堅調だった。しかし、近隣諸国との領土問題は貿易関係にも影響して次第に国内経済は減速、ねじれ国会状態による政治の混迷も加わり景気後退懸念がささやかれるに従い、年後半は多くの印刷会社もその影響を受けた。衆議院の解散期待、政権交代で景気対策が進む期待が高まると、株価は上昇、為替は円安に振れたが、印刷会社への好影響は限定的だった。
■2013年:景気回復は遅れて印刷に波及もプラスには至らず推移
JAGATの調べに基づいて2013年の印刷市場を振り返る。印刷会社の売上高は、3月まで景気回復の恩恵を受けず低調に推移した。4月以降は微減程度で安定推移、2013年は10月まで売上高前年比は2%減~3%減だった。前年(2012年)は東日本大震災の反動増もあり1.4%増と高かったことを考えれば、2013年は近年としては比較的健闘したといっていいが、2度(7月頃と10月頃)に渡る用紙代値上げが印刷経営に影響を与えたことを考えると、印刷会社の経営実態は数値ほどには芳しくないと捉えるべきだろう。オフ輪を持つ中堅印刷会社の破綻や中堅印刷会社による積極的なM&Aもあった。
■2013年:景況感、印刷会社経営者の声
春までは、「アベノミクスの印刷業界への波及効果はほど遠い」、「円安と株高だが景気が良くなっている感触はない」と、印刷業界の景気回復の遅れを嘆く声が多かった。春以降は、「円安の影響が押し寄せて来る。用紙値上げが一段と利益を圧迫」、「用紙値上げで紙離れが進むのでは」といった資材料値上げの影響を懸念する声が増えた。夏以降は、「販促費が動いている実感」、「建築関係は好調で、チラシを打つと手が回らなくなるので控えているところまで」と、景気回復の恩恵をようやく享受するような声が散見された。しかし、「振り返れば参院選の頃がピークだった」という見方も多い。
■2013年:主要印刷製品動向
印刷需要に大きく影響する広告業は、2012年度予算が執行されていた3月まで低調だったものの、新年度の4月以降は秋に向かって順調に伸び、印刷需要にも好影響を与えたと考えられる。印刷物生産金額は9月まででマイナス4%程度だったようだ。建装材印刷、包装印刷といった復興需要や生活に密着した製品の伸びが平均を上回って高く、逆に出版印刷の落ち込み幅の大きさが際立った。商業印刷はマイナス3%と平均より高かったがマイナスであることには変わりなく、情報系印刷物が全般的に苦戦した。
■2013年:印刷ビジネスの領域拡大とビジネス多様化"
2013年は米国でダウ平均株価が最高値を更新、日本も日経平均株価がリーマン・ショック前の水準を回復した。中国と欧州などに不安は残すが、12月第4週は世界主要20市場すべてで株価が上昇、景気は2014年に向けて先高感を強めて我が国経済にも好影響が予想される。一方、国内では消費税率引き上げが予定され、経済成長は2013年度より減速するが、景気対策が底支えしてマイナス成長には陥らないとの見方が大勢だ。我が国の印刷需要はこうした景気経済の影響やメディア多様化の影響を受けて増減しよう。
■2014年に向けて:印刷経営のスタンス
市場や顧客のニーズを充足するためデジタルメディアに取り組んでも、必ずしも現在の業容を支えるほどの利益にならないことが少なくなく、原点であるものづくりに回帰しようとの動きが印刷経営のトレンドの一つとしてある。”印刷”は印刷会社にとってあらゆるビジネスの中心だ。確かに印刷の仕事自体は増やしづらいが、印刷で培った技術、顧客や地域とのネットワーク、保有設備不動産を強みとするワンストップサービスを顧客に提供する姿勢を強める過程で、新たに生まれる派生的な仕事をビジネスに組み込んでいくスタンスが必要となる。
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「印刷ビジネスの動向と展望2014」
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