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組版は、ある意味で専門的な仕事であり、限られた範囲の人だけが関係しているためか、そこで使用する用語にはいくつかの特徴があるように思われる。
ここでは、そうした面について考えてみよう。
デジタル印刷用語について、日本工業規格として“JIS Z 8125(印刷用語―デジタル印刷”が2004年に制定された。また、日本印刷学会の編集による“印刷事典第五版”(印刷朝陽会)が2002年に刊行された。
JIS Z 8125の“07.組版要素”では134語が定義されている。この134語のうち、“印刷事典第五版”の見出し語として掲げられているのは61語だけである。半分以上が掲げられていない、というのが現状である。
つまり、組版用語のうち、あるものはその使用が狭く、一般の世界ではあまり目にしないものがある。そこで、相手によっては、丁寧に意味を説明する必要もでてくる。
印刷所と出版社の取引は継続的である場合も多く、現場が異なれば、異なった用語が使用されていたためか、同一の意味を示す複数の用語も多い。
特に約物の名称では、複数の名称で呼ばれる例があり、JIS X 0208でも、複数の名称を掲げているものがある。例えば、“()”は、小括弧と丸括弧と2つの名称が掲げられている。現場ではパーレンと呼ばれることが多い。
“・”は、JIS X 0208では中点の名称が掲げられているが、中黒と呼ぶ場合も多い。なかには、中黒丸、中丸、中ポツ、ポツと呼ばれる場合もある。
JIS Z 8125でも、二分と半角など、用語に複数掲げている例もある。
したがって、複数の用語にも慣れておく必要がある。
例えば、本文については、JIS Z 8125では、次の4つの意味を定義している。
(1)書籍の主要部分(前付・後付を除く)
(2)記事の主要部分(表・図版・見出しなどを除く)
(3)ページ内の主要部分(柱・ノンブルを除く)
(4)本の中味(表紙・見返し・投げ込みなどを除く)
したがって、本文という用語は、使用されている文脈から、その意味を理解する必要がある。
例えば、書体は、組版の世界では印字、画面表示等のために統一的な意図により作成された一組の文字や記号のデザインを示す用語であり、フォントは、ある書体として作成された字形の集合である。
しかし、原稿への指定で、ある見出しにあるフォントを使用する、またはある書体を使用するといった場合、ある特定の字形の集合(フォント)を使うことは、ある特定のデザイン(書体)された文字を使うことであり、意味内容はほぼ同じである。
行間、行送り、行高(line height)は、その示す意味は異なる。しかし、特に行間と行送りは、混用されるので注意が必要である。行間は隣接する行同士の文字の仮想ボディ間の距離であり、行送りは隣接する行同士の基準点から基準点までの距離である。図1に例を示す。
“新字体”という用語の意味もあいまいである。(活字組版の時代に使用されていた指定用語であるが、“新字体使用”と原稿に指定があった場合は、“当用漢字字体表”あるいは“常用漢字表”に掲げられている字体を使用するという意味であり、あいまいさはない。)
特に“拡張新字体”という用語は定義された用語ではなく、“いわゆる拡張新字体”と、俗称であることを示しながら呼ばれていたが、今日では“いわゆる”を付けないで書かれている本も見かける。
本文は、“ほんもん”と“ほんぶん”、二分は、“にぶん”と“にぶ”、四分は“しぶん”と“しぶ”、版面は“はんめん”と“はんずら”、判型は“はんがた”と“はんけい”など、用語によっては複数の読み方がある。
凡例も、出版の世界では“はんれい”であるが、図書館の世界では“ぼんれい”と呼ぶ人もいる。
このように、組版に関連する用語では、扱いに注意を必要とする用語も多い。そこで、ひとつだけの理解ではなく、ある程度のゆとりの気持を持ちながらつき合うことも大切で、意志を伝える際には丁寧に行う必要がある、といえよう。
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】