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郡司:この「未来を破壊する」にあたって、印刷業という業種がどうなのかということをもっと掘り下げて、例えばアメリカはこうだという話しをしたが、私どもの会長の塚田が「日本ではこうだよ」と言った通りに、日本ではやはりPan AmとJALのような感じで、状況が違う。
そういったことも含めて、日本ではどうあるべきか、日本ではむしろこちらの方が問題ではないかという話を突っ込んでいきたいと思う。この本は山口さんの熱い思いがあって和訳ができあがった。まずは山口さんにつなぎたい。
山口:先程、序論として少しお話ししたが、なぜこの本を立ち上げたかったのか、出版したかったのか。1つの理由がある。フォーム工連の専務理事をやっていて、まだまだ足りないことがたくさんある。まだまだ日本の印刷業界がやれることが充分にある。こんな思いがあって出版した次第である。
あえて、企画の私から、挑戦者からの提案ということで3つの提案をしたいと思う。
1つはビジネス業界の視点から感じていることだが、ビジネスフォームの規模、小さな規模の会社でも一般印刷と違うところがある。それは継続受注率である。日本フォーム工連の会長から話しがあったのだが、以前、ある方が、口癖のように言っていた言葉がある。「フォーム業界はいいな、毎月ゼロからのスタートがない」「継続受注が非常に多い」。
規模の小さな会社でも毎月の約80%は継続受注に支えられている。こういう会社がフォーム工連の会員にはいる。ここが一般の印刷の会社と違うところだと常に言われている。
ただ1つ言えるは、継続受注につながるような商材を一般印刷も手に入れるべきではないか。これが1つの提案である。
これは、ダイレクトメールを受注するにあたってもデータベースからお客様と一緒に作りあげていこうとか、印刷物だけはなくて、Webにもそのデータを使っていくということである。静止画だけでなく動画も扱っていこうなど、マルチに使えるような商材を印刷会社として手に入れることが非常に重要ではないかと私は思うのである。
第2番目の提案。「未来を破壊する」の本だが、これは株式会社プランのブックオンデマンドシステムで作り上げている。最初に私が自費出版したということをお話したが、30部からこの本を作り始めたのである。非常に翻訳も危なかったし、我々もリスクを負いたくなかったので、初めから1000冊とか500冊とか作る勇気がまったくなかったし、お金もなかった。そのときにプランさんの協力を得て、まず30部から。これはちょっとあり得ないのだが、今は100部、200部作っていただいているが、初めは30部から作ったのである。こんなことができる可能性があるということをお伝えしたかった。あえて、これを出版するにあたってブックオンデマンドで作りたかったのである。これも1つの提案である。フォーム工連の会員で昨年プランの見学会を行い、40名ほどが参加した。コンシューマ向けの一般のプリンタを8台並べて、それを、複数台を管理しながらブックオンデマンドで。設備メーカーに頼ることなく、印刷業界独自でこういう技術を手に入れることができる可能性を見てみたいということである。ブックオンデマンドというとすぐにゼロックスなどの会社から設備を購入しなくてはいけないという負い目がある。また、ハードルが高い。そんなことをせずに100万円以下だが、プランさんのシステムを使うことで、こういうことが可能である。この製造体制の作り方は1つの非常にいい挑戦のテーマである。
第3番目、フォーム工連でセミナーを開いてやっていることだが、この激動の時代に社員全体で自社の強み、弱み、課題を洗い出し、対策を共有化すること。こういうことをまず始める必要があるのではないか。経営者が自ら考えることも重要だが考えた意識を、社員共通のものを課題として取り上げて改革していく。こういうことも必要だと思い、フォーム工連で2回行っているのだが、資産工学研究所でナレッジファシリテーションという手法を使って見える化を行い企業全体で新しい改革に臨んでいこうということである。是非、各社で実施していくべきではないか。
フォーム工連でも数社がこれを継続的に行って業態変革に取り組んでいる事例があるのである。
以上、3つの提案を「未来を破壊する」という本を読みながら我々の団体として取り組んでいきたいという思いもあって発表させていただいたのである。
1番は継続受注、なおかつ印刷物だけはなくてWeb、動画、さまざまなメディアに対応できるシステム、プラットフォーム、それを持つこと。
2番目は設備のメーカーに頼ることなく自社でプリントオンデマンドを立ち上げていこう。
3番目は、経営者に頼ることなく、会社全体で新しい取り組みを皆で考えながら、見える化を共通化しながら、新しい変革をしていく。この3つである。
郡司氏:景気が悪くなってきて、これからは営業が大事だ、提案型の営業が大事だというが、ウェブ博士のこの本では、そういうことをバカにしている。それよりも増注ではなくて、新しいビジネスを作れ。開発しろということをしきりに言っている。私は納得する。
私どもの会長、錦明印刷の塚田社長のところも自社で新しい商品を作られている。先程のプランは、8台と言っていたが、大型は8台だがA3の小さいものだと何十台も並べているのである。パイプからインキを持っていってやられている。ちょっと目からウロコである。24時間動かしていればかなりの生産性はできるだろう。
ルネッサンスという高いフィルムからデジタルに直すスキャナがあったが、そういうものを自社で開発されてやっている。マンガはこれからすごく大きいのである。何億で買ったという会社はルネッサンスを使うだろうが、ルネッサンスを持っていないところは、どうするのだという話で大変なわけである。会長の塚田から日本の印刷会社を代表して自社のことに触れていただきたいと思う。
塚田氏:今日は印刷のプレイヤーの方もいるし、印刷業に対するサプライヤーの方もいる。立場が違うとどういうふうにお受け取りになるか分からないが、私は印刷のプレイヤーなので、抽象的なことを読んで分かった気になることは好きではなくて、それは具体的にどういうことなのか。
機械メーカーの営業マンにも、社長はどうやって読んでいるのか聞かれた。山下さんのように一通りサーッと解説をしていただいて概念が分かったら、会社にとって興味があるところを、うちの会社に置き換えてみたらどういうことなのか、具体的にどういうことなのか、現実に仕事としてやったことがあるのかないのか。そのように具体的に振り返ると二度面白いという気がする。
私が最近読んだ中で、会社の現実との対比の中で、確認したことをお話ししようと思う。私の会社の事例よりももっと立派な会社の事例があると思う。こういうことはどこかの立派な機械を使って効率が上がったという話とは違って、皆さんオープンにされるのは難しい。あえて我が社の事例で申しわけないが持ってきたのである。
「印刷産業は個別の印刷物に課金することから、定常的に提供するサービスに対して継続的に課金することに重点を移す必要がある。」これがPSPとMSPの違いだというのである。同じようなことが書いてある。
「マーケティングサービスは新しい文化であって、印刷物のように完結したものに対して課金請求するものから、多くのサービスで構成された継続的な長期に渡って課金する関係に移行するものである。文化や事業のベースが大きく異なるから、別の組織として運営される必要もあるし、スタッフもこういう違いを反映しなければならないということを意味している。」
What They ThinkのサイトでインタビューされているCary Sherburneさんという女性が2009年に日本に来た。そのときにサプライヤーを前にした彼女のお話しの中で、プリントサービスプロバイダーとマーケティングサービスプロバイダーは何が違うのかということが出てきた。
印刷会社というのはお客様から、カタログやパンフレットを作り、印刷物ができた度に請求書を書いて請求をする。それに対して、マーケティングサービスプロバイダーは何らかのプログラムやソフトウェアを用意して顧客のマーケティングサービスに対してシステム提供をする。経常的にキャッシュが入ってくる。経常的なキャッシュのインフローを生み出す。そういうものが違いだと言っていた。2009年の時点ではアメリカではそういうことがだんだんトレンドになっていたが、3年、4年したら日本にも必ずやってくるはずだとおっしゃっていた。あれから3年経ったなと思っている。
商売がデクラインしてきたら何か補わなくてはならない。いちいち営業マンが「こんにちわ、こんにちわ」と行かなくても経常的にキャッシュが入ってくる仕組みを作った方がいいのである。
1つの事例をご紹介する。先程、名刺会社の話があったが、うちの会社も名刺のネットによる受注をやっている。パンフレットやセミナーのテキストのようなものも最近ではネットで発注をいただく。名刺の例で分かりやすく言うと、ある製薬会社では、日本全国に1万人ほど社員がいらっしゃる。全国の営業所から名刺をデスクトップから発注できるようにしたいというご要望だったのである。
ところが、それは便利なのだが会社の方として勝手に作られても困るし、飲み屋さんでバラ撒くやつもいる。肩書きが適正なのかとか、校正を上司の方がちゃんと見て決済してOKを出さないといけない。上司は出張もあり、常時いるわけではない。うちの会社は3人の中から選べるようにして欲しいと。
ハウスルール、実際に大きな会社に行ってみると色々な状況があって、ハウスルールをクリアしながら従来は総務の女性が一括してやられていた。最初は市販のソフトウェアを持っていって、お話しを聞いたが、そこの会社のルールにとても適合しないのでカスタマイズして3、4ヶ月かかったのである。こういうことは向こうの会社も人件費が削減できるので、非常に協力してくれる。これは印刷の商売とちょっと違うところである。
毎日このようなデータが我が社のサーバーに勝手に入ってくるのである。勝手に入ってきたデータをその日のうちにデジタルプリントしてパッキングする。そして配送が大変なのだが、その会社は全国に営業所があるので毎日便を出している。その便を毎日我が社に向けてくれるのである。お互いに得になる話なので、一生懸命智恵を出し合うということが、こういう文化なのかと思う。
先程山下さんがお話しになった、これから印刷会社に必要なスキルは何かということの中で、ITの技術、データベースアセットメント、Webや新しいメディアのデザイン開発、マーケティングコミュニケーション、グラフィックデザイン。これだけを見ていると「ふーん」と思うが、実際に自分の会社で、これで何の商売をしたのかということを確認することが大事だと思う。
データベースの管理をXMLでやられた会社も、色々あると思う。うちの会社の例では、ある医学系の出版社が医学事典を出されていた。私が社長さんとお話しをした。出版社の社長さんはこういうことはあまり興味がないでしょう、だけどこういうコンテンツだから、お医者さんがある話なのでこういうことに積極的なのだ、積極的にやりたいのだ、とおっしゃった。お作りになった印刷物とお医者さんが病院で見るWebサイト、ドコモのiモードサイトに対する編集は全然別のデータが動いていたのである。では分かりましたと、両方一緒にXMLで書き出しますと言って、サービスしたのである。
また、出版界には取次という会社がある。取次という会社は、何十という出版社が毎月のように新刊を出される目録のデータに基づいて図書目録を作っている。お話をいただいたときは紙ベースだったのである。何十という出版社の担当者、大体ちょっと年配の方やっているのだが、そういう方たちから紙ベースのものがくる。取次会社の担当の高齢の方が時間をかけてやっている。だんだん出版界も厳しくなってきたので、直したいとおっしゃった。各出版社にお願いをして、ネット上に、現時点での最新のデータを載せてもらうようにしてシステムをお作りした。かつては各出版社の担当の方が、我が社の会議室を貸してくださいとおっしゃって、担当者が20人近く集まって紙ベースで議論していた。会議室をお貸ししながら目録の編集作業の打ち合わせをしていた。今はやっていない。ネット上できるようになっている。外資系の機械メーカーに言われてこの9月からやるということで今まで準備してきたが、そこの会社が本社の方で印刷物もネットで発注したいということである。
9月から営業マンにスマートフォンを持たせた。スマートフォンで、関係する案件のジョブについて発注したい、販促品も発注したい、印刷物も同様だということで、それまでこの会社は3000部とか、5000部とか、たくさん刷らないと印刷物は1部値段が下がらないのでそういうことやっていたが、それも止めた。担当者が、今度の案件はパンフレットを200部ください、カタログを300部くださいというようになった。従来は使っていないものは倉庫に預けていて、それを佐川さんなどが届けた。そういうことをずっとやってきたが、もううちでは在庫をしないと。トヨタのジャストインタイムのプロキュアメントみたいなものなのである。印刷物でもそういうことができるのではないか。そういうことを要求される時代になったのかということである。
実際にやるとなると、オフセットでやらなくてはいけないもの、デジタル印刷でやらなくてはいけないものもある。お客様もトータルのコストを削減したいので年間の実績をすべて見せてくれるのである。それで「錦明さん、分析してください」と。「うちは何十種類のカタログがあります。去年の実績はこうです」、その中でトータルとしてどれくらい削減できるのか、案を出してくれということである。印刷物の見積りだけをやっている話ではなくなると思う。
次が、マーケティングのコミュニケーションとは何かということであるが、これは製薬会社が新薬をマーケティングしているときにDMを作ったのである。DMの返信率が3%くらいだということである。もっと上げたいとおっしゃった。そこで封筒を使わないDMも提案した。また、プレゼントを付けましょうという提案で、製薬会社は誰にマーケティングするかというと、病院の先生である。アンケートにお答えいただいたら先生の名前を入れた卓上のカレンダーを作りますとこういうものを提案した。
最近は企業のマーケティングチームは若い女性である。うちのデジタル印刷の営業も若い女性である。女性同士で話して盛り上がってそういう企画になった。そうすると、返信率が15%くらいになったのである。12~13%返信率が上がったと喜ばれたのだが、企業のマーケティングチームは何人しかいないので、それだけ返信ハガキが返ってくると、試供品などを送り返さないといけないし、アンケートの分析もしなくてはいけないということで、向こうではとてもできないからそれもおたくでやってくださいということになった。
そこで事務局を作って事務局代行をして、アンケートの分析、お預かりした試供品入れをうちで作り、プレゼントを同梱してお送りする。そういうサービスをした。分かったことは、先生が送ってくる名前が本人の名前かと思ったら、割と女性の名前が多かったということである。奥さんか娘さんか、医者の先生も誰かに差し上げたいのだと感じたのである。
グラフィックデザインはよくある話である。うちも保険の仕事をやっているので、保険の商品に合わせて女性用の商品とか、訴求したデザインがある。うちにもデザイナーがいないことはないが、外部のデザインは業種によって要求されることが非常に多岐に渡っているので1人の感覚だけでカバーすることは難しい。アウトソーシングという話もあったが、外部の人を使ってやっている。
具体的にどういうふうにしているのかと思いながら読むと、この本も面白いと思うのである。
郡司氏:塚田会長がデジタル印刷に対して「やってみればいいんだよ、そんなガタガタ考えるより」と。
このビジネスがソリューションビジネスなっていっている。それはやらなきゃ始まらないということでいいだろうか。
塚田氏:やれば分かってくる。
郡司氏:山下さん、他の仕事もやられていて、私も含めたこの4人の中では一般人の感覚をまだ若干残しているというイメージだと思うので、今の印刷に対して悪い部分をちょっとやって、次はいい部分でやっていこうと思う。まずは悪い部分。ここが信じられないとか、例えばアウトバウンドマーケティングの極致ではないかとか。
印刷物の価値を色々書いてあるが、印刷業の方は本当は知らないとか書いてある。日本の印刷業を見て、ここはおかしいということが何かあるか。
山下氏:言葉を選ばなければ、内側に閉じている、外と中を明確に分けている。言葉が1つ1つ特殊である。それはいい意味でも悪い意味でもある。
これだけパソコンやスマフォが普及して、先程もスマフォから印刷物の発注ということがあったが、実際にシステムを組めばスマフォから営業の方も発注できるが、普通の人がカッコいい年賀状を作りたいとかサッカーのチームで試合があるのでカッコいい案内を出したいというときに、簡単に話せる相手がいないのである。言葉が違うし、どこに行くとそういう話しができるのか分からない。言葉の話もそうだし、先程のインバウンド、アウトバウンドの言葉でいくと両方ともやっていなくて、マーケティングコミュニケーションが自社についてはほとんどできていない。
私は新宿区にオフィスがあるが、「新宿区の印刷会社」と探しても大きな印刷通販が出てきて、実際に新宿区の印刷会社さんが出てくるのはかなり下の方になる。
そもそも、どこにどう話しをしていいのか分からない。一般の視点でもそうだし、これは本当に聞いたことがあるが、発注者さんが今使っているところから変えたいときに探しても見つからないということがある。
どこにどう聞けばいいのか分からない。色々な意味でコミュニケーションが上手く取れていない。コミュニケーション不全に陥っているのではないかというところが印刷業界の一番よくないところではないかと思っているのである。
郡司氏:発注の仕方も分からない、何も分からないというイメージであろうか。
山下氏:知っている人しか分からない。
郡司氏:そういう部分が今まではいいところもあったわけである。印刷業からみると。プロっぽいというか、プロの用語で。
山口さん、何かあるか。この辺がだめなのだ、ジョー・ウェブ博士はこの辺を言っているのだとか。日本のビジネスに置き換えてどうか。
山口氏:フォーム工連にも言えることがだが、業態変革を今求められているが、私が一番悩むところは、印刷会社が相手にしているところが印刷会社であるということである。要は、印刷会社から受注を受けている印刷会社が多いということである。悪く言えば下請である。仲間内の仕事がぐるぐる回っている。
この比率が多い会社があるのである。100%自分では営業活動をしていないというところもある。そういう会社に対してどうやって業態変革を求めていくべきか。下請からの脱却と言われているが、そういう会社がどうやってコンシューマの問題解決型の印刷企業として変革してくのか。この辺が一番の悩みであるし、変革を求めなくてはいけないところだと思う。
特にアメリカのビジネスフォーム業界は製販分離をしている。製造は製造に特化している、営業は営業に特化して、1つのプロバイダーのような形になる。そのような業態にビジネスフォーム業界が変革している。日本の印刷業界もどちらかにシフトしていかなと、なかなか業態変革は難しいのではないかと思うのである。
郡司氏:Web to PrintはWeb to Print会社でやらないとだめだと言い切る人がアメリカ人では多い。そういう話でいいのだろうか。
山口氏:そうである。特化するということである。中途半端ではなかなか難しいというところである。
郡司氏:JAGATは色々な人と会合をするが、印刷のプロ、要するにアナログ印刷や後工程のプロを定期的に呼んで、夜に懇談会をやる。そのときに印刷通販に触れた。「プリントパックさんは儲かるよ」と。「何でですか」と聞いたら「だって7割以上は印刷会社からのオーダーである」というのである。
「何々印刷という名前で申し込むわけにいかないから、個人のアカウントで申し込む」と。
本当にそういうことだったら、仲間内の仕事ということで、何々印刷で申し込むとか、それで特別価格、というのなら分かるが、普通の人のアカウントを使ってやるというのは、ちょっとおかしい。
リスマさんは大判のプリンタは印刷業者が一番多いという。印刷通販恐るべしということは確かに出てきたのである。
塚田氏:経営の現状では、なくなっていけば何か価値を生まなければいけないわけなので、いつまでもレッドオーシャンの中にいたのでは会社の将来はない。そんなにきれいなブルーオーシャンがどこにあるのか知らないが、少しでも場所を移動しないといけない。
設備であっても仕組みであってもいいが、何か差別化することを提案して自分のビジネスを少し移さないといけない。すべてのものがこうなると申し上げているのではなくて、既存されている部分は補わなくてはいけなし、そのためには同じことをやっていてもしようがないし、基本的には需要が減ってオーバーサプライになって、事業の機会が減って価格が落ちる。こんなことは当り前である。どうやって自分のビジネスをシフトして違う局面を作るのかということが基本である。しかし考え方は色々である。今のような印刷通販の考え方もあると思う。
郡司氏:印刷通販は日本特有かと思うと世界中、席巻してしまっている。ヨーロッパ、アメリカはVLFがあるので、1枚の板に35ジョブとか、トンボを付けずにギャンギングしてということが横行している。当然、発注がおかしくなってしまうからバーコードを付けている。ITの力でコストダウンが当り前になっているが、そんなことをしたら事業者数が減ってしまう。しかし、ヨーロッパではそういうことが起こりつつある。
今度はいいこと、何をすべきか。先程、山下さんが、実は日本の印刷業はアウトバウンドマーケティングもやっていないと。この本はインバウンドマーケティングで勝負しないと未来はないという話しをされている。
そこの中でのビジネスが日本の印刷会社に可能かどうかということまで含めて、具体的にこうやるべきだということを、また山下さんから口火を切っていただこう思う。
山下氏:いいところは、非常に腕があるというか、スキルが高い。日本の印刷物のレベルは、皆さんも感じているように、非常に腕がある。印刷の技は、世界中でここまでのレベルを持っている人がいないということが1つ大きい点がある。
これは僕の個人的な意見だが、クロスメディアを実施するときに、紙のことを理解していない人はクロスメディアができないと思っていて、実際にあるメッセージをクロスメディアに展開していて、それを紙に落とすあるいは屋外広告に落とす、それが大きいバナーなのかポスターなのか色々あると思うが、色とか組版を含めて、それをしっかり作れる人は印刷会社さんしかいないと思う。
ITの会社はできないし、ソフトウェアの会社もできない。それに対して、ITやWebについては対してはまだ学ぶ機会が多いし、まだ歴史も浅いので、今印刷会社さんが本気で取り組むとFacebookだろうがtwitterだろうが、使い方なども含めて充分に理解して提供できるレベルにある。
逆にITの会社が紙の組版や色について勉強するのは無理だと思っている。機会もないし、そんな簡単なものではないので、そちらから入ってくることはあまりない。
そういう意味で、印刷会社さんがクロスメディアのサービスを牽引していく余地は非常に大きい。そしてそれを実施するにあたっては、この本にも書かれているように、クロスメディアというものをまず自分で実践してみる。やっていない人が想像するよりも遙かにとっつきやすい部分もあるので、まずは取り組んでみて、それを紙と組み合わせるとこんな面白いことができるというところを自分たちなりに見付けて、それをお客様に提案していく。
先程の塚田さんの例にもあったが、実際にコスト削減がどんな感じになるのか、プレゼントを付けるとこんなふうに喜んでもらえるとか。それをクロスメディアで提供するとこんなことができるとか、そんな発想ができるのは印刷会社さんならではだと僕は思っているのである。それを意識的にやるか、錦明さんのように自然にできるか、それは会社のカラーがあると思うが、是非取り組んでいただければと思う。
郡司氏:私が思っているのは、印刷会社がクロスメディア展開をすると、どうしてもクロスメディア関係の方は撒き餌的な感じ。そこで損はできないけれど、撒き餌で寄ってくる。そっちの方が上手いかなと思うが、その辺はどうか。
山下氏:マーケティングの4Pを皆さんも聞かれたことがあると思うが、Pricingということを考えた際に、実際にものを売るというツールを持っているということは、逆にITにはできないところでもあって、印刷物に対しての付加価値を高めるという意味で撒き餌として使う。そして、トータルのサービスとして売上とか利益率を考える。1個1個のサービスに値段を付けていくのではなくて、トータルとして利益を高める価格設定をきっちりやることが大事だと思っている。
郡司氏:私は土曜日に大連から帰ってきてその足で、おたくの集まりの電塾の夏合宿で上田まで行ったのである。iPhotoをご存じだろうか。Macに入っているアルバムサービスである。当然のことながらiPhotoを触っているはCMYKなんてまったく分からない。ただRGBのデータを貼るだけなのである。それで1冊のアルバムができるのだが、ものすごく品質がいいのである。
私はこんなUSMが素人にかけられるわけがねーじゃねーかといつも言っている。ものすごく強めにかける。印刷のプロがかけるくらいのUSMがかかって、なかなかいい具合に、ちょいきれいめのCMYKができている。おそらく、アメリカのカリフォルニアの印刷会社のIndigoなのである。結構いいレベルである。デジタルの良さというものをアメリカは享受した。CTPで品質がぐっと上がった。昔のアメリカの印刷物は特色を使っていたらトンボが見えた。何色で刷っているかよく分かった。CTPになってそれが1本になった。それでまたWeb to Printをやって、自動でやってCMYK変換するのはものすごくいいレベルでチューニングをしている。そこに対抗するのは、日本の腕だけでは対抗しきれないという感じはした。
山口氏:塚田会長の話しを聞いて、素晴らしいと思ったことの感想である。1つは、印刷業界はすべての業界に付き合いがあるはずである。産業界すべてに付き合いのある業種は少ない。印刷業界はすべての業種にコンタクトが持てるし、コミュニケーションが持てる。非常にいいスタンスにいる。
何が足りないかというと、クライアントの問題解決の企業として、印刷業界は成り得てないということである。山下さんからも技術的レベルなどが高いという話しがあったが、そのレベルを活かし切っていないと思う。お客様の問題は何かという本質を捉える営業が皆無ではないかという気がしている。
塚田会長の会社のように、お客様の経費削減とかシステムの向上とか、そのために印刷業界を使ってもらう。そのためにご指名をいただくという姿勢が印刷業界にあれば、まだまだ仕事が取れるのではないか。単に印刷物を受注として扱う。これはもう止めるべきだと思う。それから、何でもできますということでデジタル印刷機を各機械メーカーが売り歩いている。先程、集中する、選択するということがあったが、この仕事のためにデジタルプリント使うべきだという選択も必要だということがある。
うちの業界でデジタルプリントを入れている会社がかなりあるが、その30%は導入してからデジタルプリントがまるっきり動いていない。何のためにその機械が導入されたのかということをまったく分かっていないでメーカーの言われるままに機械を買っている。そこんなケースがあるのではないかという気がする。デジタルプリントを入れるときも、この仕事をやるためにという集中した選択が必要なのではないか。何でもできるではなくて違う捉え方も必要ではないか。この本を読んだ方が、日本の印刷業界を変革することがいくらでもできるのではないかという自信を持って欲しいと常に思う。
郡司氏:山口さん、日本の印刷会社でインバウンドマーケティングは可能だと思われるだろうか。
山口氏:営業次第だと思う。
郡司氏:錦明印刷では結構近しいことをやられている。例としては、やれるということである。
山口氏:規模に関係なく、特に地方の会社でもできると思うのである。ゆるいつながり、要はITの関係の人は余っている。独立した会社はいくらでもある。そういうところと協業してやる。色々な選択肢があるのではないか。業態変革は大手ができるのではなくて、中小からできるのではないかと強く思うのである。
郡司氏:こういう類の仕事をやるときにすごく感じるのは、山下さんがマーケティングの4Pの話をされたが、例えばスマフォから発注して印刷物もそれでやるのだとおっしゃって、その発注システムを作るわけである。
何でやるのかというとアンドロイド系だということで、アンドロイド系で作る。確かに、うちのIT系の技術の男が作るのだが、画面としては見やすくないし、色使いもきれいではない。そのあとどうするかというと、1年か2年前に入社した若いデジハリか何かの女の子がメディアのデザインをする。技術の人間がやった仕事にデザインを加えるのである。グラフィックデザインとはちょっと違う。スマートは機能の問題もあるから、使いやすいように色がきれいなように、加えていく。
これは印刷技術の今までのプリプレスの技術ではないなと思う。そういったスキルの問題と、ビジネスでいうと4PのPlacement。印刷を受発注するとこの流通が変わるわけである。もう1つはPricingという問題が4Pの中に出てくるが、印刷会社は印刷料金に対して、3000枚で1色いくらというのはすぐにできるが、トータルのシステムを提供した場合に、このシステムを作ったらいくらとか、年間の使用料はお金を取った方がいいのかとか。在庫をゼロにしますとなったら、それでうちで在庫する場合は、おたくはキッピング1回あたりいくらかお客様に聞かれる。つまり、他の業界の用語で聞かれるわけである。
トータルでシステムを提供する場合はそういうことも知らないといけない。そういった知識を準備して、そして浸透させるために、ナレッジシェアさせるための仕組みを社内に持たないと、役に立たないことになると思う。
できれば、こういうことを次のpage2013くらいまでに考えていて、2013年に日本の印刷業の未来みたいなものをやってみたいと思っている。
インバウンドマーケティングができるかできないかということに相当こだわりたいと思っている。私としては、できるという方を信じたいし、やりたいと思っているのである。何とか事例をいっぱい作りたいと思っているのである。
2012年8月27日T&G研究会「徹底討論!『未来を破壊する』とは何か」より(文責編集)