本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
今年も2月5日(水)から7日(金)まで開催されたpage2014 。新たなビジネスを生み出すためのヒント、発見、情報となるような展示、基調講演、セミナー等が展開された。クロスメディアの観点から印象的だった基調講演や展示についてレポートする。
地域メディアとオープンデータの未来~印刷会社の関わり方のヒント~
2月6日(木)の「地域メディアとオープンデータの未来 」と題された基調講演は、情報通信総合研究所 志村一隆 氏をモデレータに、スピーカーは、宮城テレビ放送 小野寺悠記 氏、サンテレビジョン 那須惠太朗 氏、 元「広告批評」編集長 河尻亨一 氏、TOKYObeta 江口晋太朗 氏という布陣で実施されました。
オープンデータとは、誰でも自由に使えて、かつ自由に再配布できるデータのことです。この基調講演では、まず世界の最先端のメディアを取材、調査研究している志村氏からオープンデータとメディアの関係についての世界的な規模での考察が紹介されました。
続いて江口氏は、国内の事例を中心に紹介。特に「バスをさがす福岡」という路線検索アプリを企業が開発し、西鉄バスが買収して公式アプリ「にしてつバスナビ」となった事例はマネタイズの成功例として目を引きました。
民間企業と連携して、トイレ情報や災害情報のサービスを開発している福井県鯖江市の牧野市長の「オープンデータは産業のインフラだ」というコメントも紹介されていました。
オープンデータがこれからのビジネスチャンスの一つとなり得ることは分かりますが、それだけではどうにもなりません。
国や地方公共団体の保有する情報が、どんどんオープンにされていく中で、そのデータをどのように利用するのか、考えることが重要です。
このデータをどのように加工し、だれに、どんなメリットを提供できるのか
ストーリーを考え、提案することこそ、情報を扱う印刷会社のビジネスになるのではないでしょうか?
地域に密着し多くの産業とともに発展した印刷会社は、地域活性化事業の重要な役割を担っています。オープンデータを使って、地域の課題を解決し、地域の価値を高めることは、自社の強みをより強固なものにするでしょう。
江口氏は地域の課題を発見し、アイデアを生むためには、イベントやワークショップが有効だと話していましたが、この意見には私も全く賛成です。地域によって課題やニーズもまちまちであり、ビジネスとして成立させるための条件も土壌も違う。
一つの成功事例を単純にあてはめるのではなく、その地域にとって適切な「課題」を見つけ出す手法は、地域の方と一緒に行うワークショップが有効だと考えます。
続いて、神戸に本社があるサンテレビジョンの那須氏から阪神淡路大震災での経験を踏まえ、「地域とともに生きる」というビジョンが示されました。アメリカでは地方の小規模な新聞社ほど経営が安定しているという指摘も印象的でした。宮城テレビの小野寺氏は、地上波ローカル局は「クロスロード(岐路)」に立っており、ブルーズ(癒しのメディア)という原点を見つめ直すことを提示。
印刷業界にとってのヒントが、はっきりと見えたわけではありませんが、「オープンデータ」「コミュニティ」「クロスメディア」といったキーワードでワークショップを行ってみるのは有意義だと感じました。「クロスメディア」的な観点で言えば、地方のテレビ局も広告収入による「メディアビジネス」から、コンテンツ自体の価値を高めていく「コンテンツビジネス」への移行を考えると、紙媒体や電子にかかわらずに印刷会社としてのチャンスが見えてくるように感じました。
出版ビジネスの近未来~小ロット化が進む出版の世界~
最終日である2月7日(金)には、「出版ビジネスの近未来 」と題し、モデレータにJAGATの郡司秀明 氏、スピーカーにインプレスR&D 井芹昌信 氏、 小学館 宮下雅之 氏、アマゾンジャパン 種茂正彦 氏というメンバーによる基調講演がありました。
「クロスメディア」「電子書籍」を背景に、小ロット、プリント・オンデマンド(POD)という概念は、これまでの出版ビジネスを大きく変える可能性を秘めていると感じているからか、多くの受講者の皆さんが、この基調講演に参加していました。
インプレスR&D は、まずデジタルファーストでマスターを作り、それを元に電子書籍も印刷書籍も作ることができるNextPublishingというメソッドを紹介。印刷書籍では、プリント・オンデマンドを採用しているので絶版という概念が解消されます。販売ではアマゾンのサービスであるAmazonPODを積極的に採用。販売が好調なものは、オフセットに切り替えて印刷し、通常の書店流通に発展するケースも紹介されました。
続いて、出版社である小学館が、小ロット対応の製造設備を導入した事例を紹介。
同社では、オフセット印刷の製造コストの問題で、適正部数重版ができず、「重版未定タイトル」が多くなってしまうのが悩みでした。
100巻を超えるような長尺コミックスに欠本が多くなってしまっては、一括購入などにも対応できません。著者や読者のニーズに対応するために、小ロット印刷を導入したそうです。
品目は、新書、文庫、コミックスに加え、発売前に宣伝用として書店員に読んでもらうプルーフ本など。出版ビジネスが岐路に立っている現在、課題を丁寧に分析し、解決する手段を手繰り寄せる方法は一つではなく、コンテンツ、商品特性などによって、多種多様に考えていくことが重要であると改めて実感しました。
3Dプリンターは展示の中でもやはり注目
展示の中で目を引いたのは、大日本スクリーン製造の3Dプリンターでした。この連載「クロスメディア考現学」でも第2回に「3Dプリンターとオープンイノベーション 」というテーマで寄稿しましたが、3Dプリンターがどんなビジネスを切り開いていけるのかは多くの人の関心が集まっているようで、ブースは多くの来場者で賑わっていました。
大日本スクリーングループのメディアテクノロジージャパンでは、さまざまな素材、用途など幅広いニーズに対応した3Dプリンターの販売を始めています。特に驚いたのは、A4サイズのコピー用紙を素材にしたMcorIRISという3Dプリンターです。
精巧に作り上げられたグレープフルーツのサンプルが展示してありましたが、このような設備を保有することによって、クライアントが店舗や展示会場などで使う三次元の造形物をよりリーズナブルに、エコロジカルに提供できるということが広く浸透していけば、ニーズは大いに高まって3Dプリンターが単なるブームではなく、普及していけるように感じました。
一般社団法人 電子出版制作・流通協議会
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。2010年より一般社団法人 電子出版制作・流通協議会 事務局に勤務。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
Facebook : https://www.facebook.com/keiji.ikeda
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