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日本語組版における漢字の字体は、歴史的にも変化があり、その扱いに苦労する。どの字体を選んだらよいのか、その判断が面倒なだけでなく、文字コードとも関連しており、それと組み合わせて理解することも必要で、そうなると更にやっかいになる。
以下では、文字コードとの関連は触れないで、主に漢字の取り扱いについての目安を示した常用漢字表の規定について考えてみることにする。
その前提として、漢字の字体に関連した用語について解説しておく。
JIS Z 8125(印刷用語―デジタル印刷)では、漢字の字体やこれと関連した用語ついて、次のように定義している。
字体:一つの漢字として認識される点画の抽象的な構成の在り方で、視覚的認識のために他の文字と明確に区別できる特徴を備えている。
グリフ:個々のデザインの違いを除去した認知可能な抽象的図記号。
書体:印字、画面表示などに使用するため、統一的な意図に基づいて作成された一組の文字又は記号の意匠。
フォント:ある書体によって作成された字形の集合。
字形:文字について、手書き、印字、画面表示などによって実際に図形として表現したもの。
字体とグリフは、抽象化、つまり捨象するレベルの差ということになる。字体としては問題にならない細部の違いもグリフでは問題になる(字体とグリフの捨象するレベルの差について、明確な区別をつけがたいことが理解を困難にしているのかもしれない)。
ここでいう字形は、何も捨象していない、表現されたそのものということになろう。
字体は漢字の字画の構成に関連するのに対し、書体は、意匠(デザイン)に関連する。フォントは、具体的にデザインされた文字の集合で、それぞれの集合には固有の名称がつけられている。
漢字の字体に関連した用語に異体字という用語がある。異体字は、“学”と“學”、“恵”と“惠”、“沢”と“澤”のように読み方と意味は同じでありながら、字体の異なる漢字を互いによぶ(図1参照)。
なお、異体字A、B、Cがあった場合、Aが標準的な字体のとき、Aに対してB、Cだけを異体字という場合と、A、B、Cすべてを相互に異体字という場合がある。
異体字に関連した用語をいくつかを簡単に説明しておく(“当用漢字字体表”や“表外漢字字体表”などは、次回以降で、おいおい解説していく予定である)。
正字(正字体):標準的な字体だと考えられるもの。特に異体字の集合のなかで、標準的な字体だと考えられるもの。ただし何をもって標準的な字体というかは時代により、また辞書により判断が異なる場合がある。
いわゆる康熙字典体:“表外漢字字体表”で使用している用語であり、“康熙字典に掲げる字体そのものではないが、康熙字典を典拠として作られてきた明治以来の活字字体”と説明されている。“康熙字典”は康熙帝(中国、清)の命により編纂され、1716年に完成した字典。214の部首に分け、4万7035字の親字を収めている。この字典に掲げられている字体が正字とされるが、不整合もある。
俗字(俗字体):標準的な字体がくずれた形で通用しているもの。
略字(略字体、略体):標準的な字体を簡略化したもの。
本字:従来は正字とされていたもの。
通用字体(通用字):現在一般に通用している字体。
常用漢字体:“常用漢字表”で示されている字体。“常用漢字表”は2136字の字種を示しているだけではなく、読み(音と訓)および字体も示している。
新字体:“当用漢字字体表”で、当用漢字の字体の標準が示されたが、その際、“印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させる”との方針のもとに、従来の活字字体としては普通に用いられていなかった多くの俗字・略字が採用された。その際に採用された字体を新字体という。“当用漢字字体表”における字体整理の考え方は、1981年に告示された“常用漢字表”にも引き継がれている。
旧字体:“当用漢字字体表”で採用された新字体に対して、従来からの活字字体をいう。
いわゆる拡張新字体:常用漢字表に含まれていない表外漢字の字体については、“当用漢字字体表”も“常用漢字表”も、特に規定していない(1981年に告示された“常用漢字表”の前文では、“各分野における慎重な検討をまつこととした”という言い方をしている)。しかし、表外漢字についても、“当用漢字字体表”や“常用漢字表”の字体にならった字体を使用する例があり、これらを俗に拡張新字体という。
印刷標準字体:“表外漢字字体表”で使用している用語である(次回以降で解説予定)。
簡易慣用字体:“表外漢字字体表”で使用している用語である(次回以降で解説予定)。
なお、以上に掲げた漢字の字体についての用語は、その都度必要に応じて、漢字の字体のある局面について表現したもので、あまり体系的でないということである。
従って、前述の“学”、“恵”、“沢”は、俗字であるとともに、略字であり、通用字体、常用漢字体、新字体ということができる。また、“學”、“惠”、“澤”は、正字体であるとともに、いわゆる康熙字典体であり、旧字体でもある。
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】