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田中 崇 THOMSON PRESS
発展途上国の成長は世界経済に大きな影響を及ぼすようになっているが、特に広い国土と多くの人口を持つBRICsの経済成長は著しく、将来の世界経済の中心になると予想されるまでになっている。その中でも、約12 億人の人口を擁するインドはその潜在能力とともにマーケットとしても大きな魅力を持つ。
インドは日本の10 倍近い人口と国土を持つ世界最大の民主共和国である。今、世界中の多彩な企業がインドへ参入を始めているが(日 本は家電、車以外は出遅れている)、多くの産業分野においてインドにおける外国資本の業務拡大はあまり進んでいない。 その主な理由として、インドが政治、経済ともに「自立」を基本とする国家戦略であることが挙げられる。 また、 インド社会が深い信仰心からくる「皆が幸せに生きる」というインド人の人生哲学への理解不足があるようである。さらに、インドは広大な国土と、地方によって食べ物、言語から日常生活環境も大きく違うという地方社会の実情がある。なおかつその関係の情報を集めるのも難しいため、地方対応の研究不足がある。
そのため、従来の国際ビジネスの進め方と同じようなセンスで平均的インド人のためと思って提案しても、多くのインド人の希望しているものとマッチしていないことになるのは当然である。国際交流のためには、まずお互いの日常生活の実際を理解することが必要である。
インドの媒体調査関係財団の報告によると、インドで人間が生きるための基本インフラ、衣、食、住に続く、豊かな生活を得るための娯楽や情報媒体はテレビ、ラジオ、新聞、印刷物、音楽などである。これらの産業はテレビ(SNSを含む)、映画を主として最近5 年間で倍増している。
さらに、放送、広告、出版、印刷業のインド社会への参入は資本、人材も含めて相当開放されていて、リーダーズダイジェスト、コスモポリタンなど多くの外国出版社と提携出版も多い。
最近の書籍の出版点数はアメリカに次ぐ世界第2 位の英語による書籍出版点数になっている。また商業印刷物も、経済の発展に比例 して増加し、昨年は10%近い受注増になっている。特にパッケージの印刷は15%程の受注増になっている。
インドの印刷は古くから教育、宗教、意識向上などのための重要産業とされ、現在15 万社、200万人の雇用規模になっている。 これは、英語とヒンディー語が公用語であるが、22 言語が公認され、紙幣には22 の言語が載っているように多言語社会の対応のため の書籍、新聞の必要性からくるものである。さらに、数百といわれるヒンドゥー各派の聖人の宗教関係本も多言語で発行されているからである。また、4 万種ともいわれるほど多くの新聞が発行とされている世界一の新聞大国でもある。
書籍出版でも、デリーとムンバイで開催される国際ブックフェアーは10 日間で50 万人もの参加があり東京ブックフェアーの10 倍もの規模になっており、直販の書籍の販売高も膨大である。一方、データや画像処理の分野では、インドはすでにIT技術者の能力と数、さらによって欧米からの受注が急増して、世界のIT 産業を支えるほどに発展している。
以上のようにインドの印刷ビジネスは国内からの受注増、欧米からの受注増によって拡大しており、これからもWeb 対応とともに拡大するものと期待されている。政府も各種優遇策を提供し外国との交流を歓迎している。さらに、国家も国民も日本に親しみを持っているという、国際交流で最も大切な背景があるので、日本の業界の努力によって、インドとの交流の可能性は十分に大きいといえる。
(『JAGAT info』2013年4月号より転載)