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漢字の字体について常用漢字表で規定している内容に入る前に、常用漢字表の性格についてみておこう。
常用漢字表の改正は2010年11月30日に内閣より告示され、同時に内閣訓令が出され、各行政機関が作成する公用文における漢字使用等についての規則が改められた。
訓令とは、上級の官庁が下級の官庁に対して行う命令である。したがって、訓令は官庁の業務を拘束することになる。これに対して、告示は公の機関が必要な事項を公示する(一般に周知させる)ことである。簡単にいえば、告示とは国民にお知らせするという意味である。
訓令であるから、官庁は、こうした施策に従わなければならない。これに対し、告示の対象である一般の国民は、お知らせであるから、それに従うかどうかは、それぞれの判断ということになる。
放送・通信・新聞などのジャーナリズムでは、いくつか細部の修正を加える例もあったが、ほとんどそのまま受け入れてきた。それは、常用漢字表の“前書き”にある“この表は、法令、公用文書、新聞、雑誌、放送など、一般の社会生活において、現代の国語を書き表す場合の漢字使用の目安を示すものである。”に従ったものである。
書籍や雑誌などにおいても、大筋ではこれらの施策に従ってきているが、出版物の内容は一律なものではなく、その扱いは個別の本により異なっている。書籍では常用漢字表に掲げられていない漢字(表外字、表外漢字という)を使用している例は、それなりに見かける。
漢字の字体の扱いは、当用漢字字体表(常用漢字表の元となったひとつ)が制定された当時(1949年)、しばらくは従わない例もあった。しかし、徐々に受け入れられ、今日では特殊な出版物を除いて、多くの出版物で当用漢字字体表や常用漢字表で定めている字体が使用されている。
従来は、引用文などでは原文の表記を尊重して、原文が旧字体の引用文の場合は、本文の漢字の字体について常用漢字体(新字体)を使用する方針であっても、引用文では旧字体を使用することが多かった。しかし、最近は、こうした場合でも常用漢字体(新字体)の使用が一般的になっている。
また、“この表[常用漢字表]は、都道府県名に用いる漢字及びそれに準じる漢字を除き、固有名詞を対象とするものではない。”とあり、人名などでは、常用漢字表に掲げられていない漢字や字体の使用例がある。
人名用漢字(出生の届出の際に子の名に使用できる漢字)については、常用漢字外の漢字(表外字、表外漢字)の使用も定められた範囲で認められており、特に1981年の改正で、“人名用漢字許容字体表”が規定され(現在もこの考え方は継続されている)、一部の漢字について、旧字体の使用も認められている(詳細は、今後の回での解説を予定している)。
人名用漢字の例を図1に示す。
1行目の漢字は当用漢字字体表の字体整理の考え方を踏襲しているが、2行目は、2004年に人名用漢字に追加された漢字で、1行目と異なり、当用漢字字体表の字体整理の考え方を踏襲していない。漢字の部分に注目すると、1行目と2行目で異なっている。
3行目は、常用漢字の“栄・実・礼・円・万”の旧字体で、これらも2004年に人名用漢字に追加された漢字である。
4行目は1981年の“人名用漢字許容字体表”に掲げられている漢字である。
常用漢字表は、当用漢字(当用漢字表、当用漢字音訓表、当用漢字字体表の3つ)を元にしたものであり、常用漢字表を理解するためには、当用漢字の知識を、ある程度もっておく必要がある。
漢字の字体に関連する当用漢字や常用漢字の主な経過をまとめると次のようになる。
当用漢字表
1946(昭和21)年11月16日、内閣訓令・告示。法令・公用文書・新聞・雑誌及び一般の社会生活で、使用する漢字の範囲を示す。1850字の漢字を掲げる。
当用漢字音訓表
1948(昭和23)年2月16日、内閣訓令・告示。当用漢字表に掲げる各漢字について、今後使用する字音と字訓を示す。
当用漢字字体表
1949(昭和24)年4月28日、内閣訓令・告示。当用漢字表に掲げる1850字について、その標準の字体を示す。
当用漢字音訓表(当用漢字改定音訓表)
1973(昭和48)年6月18日、内閣訓令・告示。1948年の当用漢字音訓表に多くの音訓を追加し、表の性格も、制限的なものから目安に移行した。この表とその考え方は常用漢字表に引き継がれた。
常用漢字表
1981(昭和56)年10月1日、内閣訓令・告示。字種表・音訓表・字体表を統合し、当用漢字表に95字を追加し、1945字の漢字を掲げる。
同音の漢字による書きかえ
1956(昭和31)年7月5日に国語審議会から文部大臣に報告。これは当用漢字表にない漢字や、当用漢字音訓表にない音訓の漢字について、同じ字源か、または正俗同字、同じ意味か、または似た意味の語を借りるなどして同音の別の漢字で書き表す方法を示したものである。代用表記(代用字)ともよばれている。
表外漢字字体表
2000(平成12年)年12月8日に国語審議会から文部大臣に答申。表外漢字の1022字を取り上げ、表外漢字の字体選択のよりどころを示す。表外漢字字体表に含まれる漢字の字体は、基本的には常用漢字のように略字や俗字を採用しないで、標準的な字体としては、従来から使用されていた“いわゆる康熙字典体”を採用している。この点では、常用漢字表とは字体の扱いが異なる。ただし、社会で広く使用されている略字や俗字については、標準の字体に替えて使用することは支障ないとして、いくつかの漢字について複数の漢字の字体が簡易慣用字体として表では示されている。
常用漢字表の改定
2010(平成22)年11月30日、内閣訓令・告示。196字の漢字の追加と5字の削除で、表に掲げられている漢字は2136字となる。追加された漢字で表外漢字字体表に掲げられていた漢字は、一部の漢字を除き、表外漢字字体表に掲げられている字体が採用された。漢字の部分について、従来の常用漢字表の字体と異なる漢字がある。
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】