本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
コミュニケーションビジネス遂行のためには、メディアの動向を知ることは不可欠である。メディアに関する書籍の帯からヒントを探る。
■本の帯は強烈なメッセージ
本好きの特徴の一つに、本の帯とか表紙にこだわることがある。カバーや帯にもわけがある。現在の出版事情から考えて、表紙・カバー・帯をセットでデザインして、一目で本の内容を表現しなくては手に取ってもらえない。装幀家といわれるデザイナーが介在している。
そのため、帯は究極のキャッチコピーであり、メッセージ性の強いものである。主に編集者がつけるのだろうが、本の内容を的確に短い文章で表現するコピーライターとしての才能も必要になるようだ。
本屋の店員が、自分の感想を自分の言葉でPOPなどに書き綴ることで売り上げに結びつけている。その書店員が選ぶ「本屋大賞」は、いまや他の文学賞を抑えて人気が上昇しており、受賞作品は、ほぼベストセラーになる。
本の帯のあるなし、函のあるなしなどで古本の価値が大きく変わる。帯が残っているとそれだけで驚くほど価格に大きな差が出る。制作者の意図を考えたら邪魔だといって、帯やカバーを外すのは控えたい。
メディアに関する書籍は、学術的なものからビジネス書の類まで数多くあるが、メディアの未来・ビジネスモデル化、マネタイズが書かれている本はそう多くはない。それだけに帯を眺めているだけでも面白い。
昨年話題になった佐々木紀彦著『5年後、メディアは稼げるか?』は、本のタイトル自体十分扇情的であるが、帯のコピーはもっとすごい。「マネタイズか? 死か? 米国の新聞社・出版社が繰り広げている「血みどろの生存競争」が日本にやってくる!」とある。
非常に刺激的で辛辣で危険な文言が並ぶが、本当にメディアが大きく変わるのは、これからであり、それこそ100年に一度の大変革の時期を迎えているからかもしれない。
■メディアの進化・行方はどうなるのか
メディア論的には人が生きていく以上は、メディアが進化し続けるはずだし、それは未来永劫続くのだろう。東京オリンピックが開催される2020年には、スマホに代わる新たなメディアが出現してくる気もするし、そのころにはPCがどうなるかわからない。
ウェアラブルコンピューターは進化するだろうが、それは本当にメガネや時計なのか、まだまだ結論は出ない。誰も思いつかないようなもの(でも言われれば納得するもの)が登場するのではないだろうか。
情報発信メディアの最も大きな変化は、既得権益と権威が失われ、個人が誰でも情報発信できるようになったことであろう。ITによって、高価な設備や高度な技術、専門性がなくても「誰でもメディア」が可能な時代になった。
メディアはそれまでの単機能から多機能でより拡張性を持ったものになった。しかし、デバイスがいくら変わっても情報の送り手と受け手の橋渡しをするメディアの本質は変わらないのである。
■「それって、印刷と関係があるの?」
page2014の前日に行った「JAGAT会員の夕べ」 では、メディアビジネスの近未来について議論したが、講師であるインフォバーン小林弘人氏もデータセクション橋本大也氏も「ソーシャルメディア」「キュレーション」の新潮流について語っていた。またビッグデータの分析や活用についても言及し、橋本大也氏は「データサイエンティスト」の重要性を説いている。
たとえばアメリカの「BuzzFeed(バズフィード)」にみられるようにサイト自体でコンテンツを生み出しているわけではなく、Web情報を集めてまとめるキュレーションサイトが話題になっている、という話が出た。
ここで問題なのは「どこで儲けるか?」である。「BuzzFeed」では、従来のバナー広告の手法を使わず、読まれるための「ネイティブ広告」をうまく使って注目を集めている。
「今後コンテンツは、長いテキストを読まなくて、短文⇒スタンプなど絵文字⇒動画コンテンツにシフトしていくだろう」という。
これまでさんざん言われていた「活字離れ」については、実は本を読む人はもともと多くなく、むしろ現在は、メールやWeb情報などを読む活字文化時代であるといえる。それが動画中心になってくると、メールやSNSで文字を使っていた人たちが文字を使わなくなる可能性が出てくる。そこでどのようなビジネスチャンスがあるかを考えるべきであろう。
よく「それって、印刷と関係があるの?」という人がいるが、おそらく関係がある。今起きている変革は、紙から電子への移行という単純な問題ではない。産業構造までもが変わることを認識しておくべきである。だから自社のビジネスとは全く関係のない話だと思ってはいけない。なぜならメディア動向を捉えることはすなわち最終消費者の行動パターンを把握することであり、プロモーション活動全般に必要なマーケティングの要素がそこに集約されているからである。
クライアント企業はすでにそこに目をつけている。page2014のテーマである「コミュニケーション・ファクトリー」たらんとする印刷会社には必要不可欠なものなのである。
JAGAT大会やpageでもご講演いただいたLINEの田端信太郎氏が著した『MEDIA MAKERS』の帯には、「メディアの知識は、現代ビジネスパーソンの一般教養です」とある。
これまで培った印刷文化の知識に加えて、最新のメディアの動向とその本質を捉えることは、新たな領域へ踏み出すための武器となるだろう。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
【プリンティング・マーケティング研究会】
2014年3月19日(水)
「page2014にみる技術の視点、ビジネスのヒント」
デジタル印刷を中心とした新しい提案が多く見られたpage2014の解説とともに2014年の方向性を示していきます。
2014年3月26日(水)
「2014年メディア動向とビジネス戦略」(クロスメディア研究会と共催)
本文で触れた「本屋大賞」の仕掛け人である博報堂ケトルの嶋浩一郎氏と『メディアは、5年後稼げるか?』の著者で『東洋経済オンライン』の編集長、佐々木紀彦氏が講師を務めます。