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業界の統計データを見ても、なぜそのような結果になったのかはわからない。業績と戦略の相関がわかれば、どのような戦略が印刷会社の業績向上に有効かわかる。良い会社は何を考えているか。「JAGAT印刷産業経営力調査」に回答して考えてみよう。
JAGATが毎年、現在の時期に実施している『印刷産業経営動向調査』では、印刷会社の業績・戦略・設備についての総合的な調査を通し、優れた印刷経営のかたちを浮き上がらせている。 本稿では、例年の調査と異なる手法で業績良好企業の形を浮き上がらせる。従来、印刷会社の成長は設備投資とともにあったが、近年は印刷機の保有・投資判断が難しさを増している。 印刷物の需要減によって、設備を持つリスクと持たざるリスクの重さが拮抗したためだ。印刷機を減らし、あるいは持たない印刷会社が増えてはいるが、印刷機を収益の源泉と位置づけ成功する印刷会社もまた多い。 設備を増やした場合、そして減らした場合、印刷経営はどう変わるのか。現実は二択ではないが、設備の多い会社と設備の少ない会社の比較を通して、印刷経営と設備投資の関係を考えてみたい。調査業績上位20%の印刷会社を、1人当りの機械装置額の多い順に、設備多型・設備中型・設備少型に3等分すると、1人当り機械装置額は設備多型316万円、設備中型147万円、設備少型36万円と大きな差のあることがわかり、ビジネスモデルの差を見ることができる。
業績良好企業であるだけに、3グループの売上経常利益率はいずれも7%以上と高い。しかし売上高は設備多型が29億円、設備中型は24億円、設備少型は8億円と売上高の開きは大きく、規模を追求するなら設備多型が有利であることがわかる。 材料費は設備多型になるほど多くなり、外注費は設備少型になるほど多くなる。これは内製の可否によって決まるので当然だが、加工高比率は設備多型も設備少型も55%台で同率である点は興味深い。 印刷経営において高い利益率を得るには設備多型・設備少型といった経営モデルの選択にかかわらず加工高比率50%超を必要とするのである。 設備多型の生産性は設備少型に比べ約30%高い。生産性は機械装置額が多いほど高くなる傾向が鮮明なことから、設備投資が生産性を大幅に向上させることが指標で改めて確認できる。
1人当り人件費は設備多型579万円、設備中型550万円、設備少型530万円である。これは企業規模と企業立地に起因する差である。設備少型は多型と中型に比べ大都市圏の企業が少ない。
1人当り機械装置額が設備少型になるほど減少するのは当然だが、設備少型の1人当り教育研修費は設備多型の倍以上と格段に多い。設備への依存を弱めるに従い、収益の源泉が設備から人材に移り、投資の重点は設備から人材に移る。
従業員の部門別人員配置比率を見ると、設備少型になるほど生産人員比率が高まり、営業人員比率が減る。設備少型といえども、高収益の印刷会社は制作・生産・加工を重視している点に留意したい。
設備少型の良好企業は設備主体でなく人材主体の付加価値ある工程を持ち、製造業としての収益を確保している。例えば設備を減らしていくと、製造業から情報業的・サービス業的な業態に近づくが、その時も機械化の難しい人的差別化工程を持つことが望ましい。
一方、設備多型を見ると、人的作業を機械に置き換え生産性の飛躍的な向上を果たしており、印刷会社にとって設備投資の有効性は極めて高いとわかる。
ここまでの考察からわかるのは、設備の多寡で利益率は変わらないし、製造業として稼ぐ姿勢も変えない方がいいことだ。変わるのは、投資重点、人員配置、企業規模なのである。
[全文はJAGAT会員限定誌「JAGAT info」 2013年10月号 マーケティングページに掲載]
(JAGAT 日本印刷技術協会 研究調査部 藤井建人)
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「JAGAT印刷産業経営動向調査2013 」
体裁:A4版、104ページ
定価10,500円(税込)、JAGAT会員特別価格5,250円(税込)
発行:公益社団法人日本印刷技術協会 研究調査部
購入:お申込みはこちら
【構成】
1.2012年度の印刷会社の経営動向
(1)経営動向の概況
・ニューノーマルの時代に対応する印刷経営
(2)経営動向指標
・貸借対照表、損益計算書
・生産性、収益性、安全性
・人的資源(平均年齢・部門別人員構成比・教育研修費)
・1人当り指標(売上高・加工高・人件費・機械装置額等)
2.印刷会社の業績と経営戦略
(1)業績と経営戦略の概況
・業績良好な印刷会社経営者の思考を探る
・業績良好な印刷会社の戦略
(2)経営戦略
・事業領域、戦略、事業分野、市場ポジション
・財務、顧客、生産、営業、マーケティング、人材と変革
・人材教育(手法・対象者・分野)
3.印刷会社の設備動向
(1)設備動向の概況
・設備投資のスタンスと意向
・工程の保有・強化・縮小意向
(2)設備保有状況、導入・廃棄意向、満足度
・枚葉機
・輪転機
・デジタル機等
(3)新技術・新商品/サービスの導入意向
・クロスメディア展開
・導入状況と満足度
(4)DTP環境
・PCの種類と台数
・アプリケーションの種類とバージョン
・データの入稿形態
4.印刷会社の経営指標
(1)セグメント別の経営指標
・データ:損益計算書・収益性指標・安全性指標・生産性指標等
・セグメント:2地域別(東京とその他)、従業員6規模別、業種業態6分類別、オフ輪の有無別)
(2)月次の各種前年比推移
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【印刷産業経営力調査の概要】
概要:印刷会社135社から調査票を集計
内容:印刷会社の経営状況、戦略、設備
期間:2013年1月~3月
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