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田中 崇 THOMSON PRESS
インドのAIFMP(全インド印刷工業連盟)の報告やJETRO(日本貿易振興機構)の報告によると、インドには約15 万社の印刷会社があり、アメリカや日本の数倍の会社数である。これは前号での報告のように広大な国土と多言語による必要性と、新聞印刷やパッケージの印刷会社も含んでいるからである。
また、印刷会社は当然、首都デリー、インド最大の商業都市ムンバイやチェンナイ、コルカタなどの大都市に集中しているが、広大な国土のため、物流、通信などのインフラの整備が不足しているので同業者との仕事の交流が難しい。さらに大手の印刷会社は、外国の製版、印刷、製本の機械を使用し、国外からの受注もしているが、中小の印刷会社は最新の印刷、加工の機材、技術の導入が遅れており、大手の会社からの下請けができる設備、技術を持っていない。薄紙、特殊紙、箔押しなど、特殊印刷加工の高品質な下請け専門の会社も営業的に難しい。このような事情で印刷会社の数が多くなっている。15 万社のうち95%は小規模で平均すると10 人ほどの従業員のようである。
インドの印刷関係業界団体は、全インド印刷工業連盟を中心に、パッケージ、シルクスクリーン、フレキソ、ラベルなど各種の業界団体があり、それぞれ地方組織を持ち毎年Print Package 展などの展示会をそれぞれの業界ごとに開催している。インドの印刷会社15 万社の従業員は約200 万人ほどで大きな労働市場であり、政府も援助をしている。欧米のIT 産業のソフトを多くのインド技術者が支えている一方で30%もの文盲者も居て、社会全体の職業教育も遅れているので、印刷現場技術者が不足している。しかし、製版の分野ではDTP の進歩で大手を中心に急速に国際水準の技術、品質に近づいている。
インドの印刷市場規模は2012年の予測では約2 兆円の規模で、ここ数年はGDP(2011 年は約130 兆円)の伸びに同調して年率5〜10%成長している。70 兆円程といわれる世界の印刷市場の中でアメリカ、ヨーロッパ、日本などの先進国がIT 化のためもあって、売り上げが減小しているなかで、中国とインドが、国全体の経済発展、広告宣伝の拡大、生活水準の向上、包装用品の需要増や外国企業の国内参入などで印刷物の需要が急速に増大している。
現状の印刷物の工程別生産設備は、オフセット印刷が中心で、シルクスクリーン、フレキソやデジタル印刷も急増している。製品別では新聞、パッケージ関係の印刷が多く、これらの市場は年率15%以上の拡大と報告されている。インドの印刷物の外国からの受注は、古くから関係の深いイギリスからの印刷、製本、外国への発送の受注があり、欧米からの辞書、聖書、日記帳、書籍、カレンダーなどの印刷受注も多い。このようにインドの印刷産業の売り上げは、最近6 年間で2 倍もの拡大をしており、先進国に次ぐ大きな規模になっている。
印刷会社の規模はほかの国と同様に零細、小企業が多いが、外国との取引関係や新聞、出版物の物品税免除など政府の優遇策によって、世界的印刷単価の下落があっても印刷産業の売り上げが拡大している。このようにインドの印刷市場は国内需要の増大と外国からの受注増はまだ少なくとも数年は続き、その先も、国の経済の発展と、英語力、IT大国の強みで、外国からの受注増大が期待できるとしている。もちろん、これからのインド印刷産業の発展のためには、通信、物流、人材育成などのインフラの整備や日本など先進国の機材や技術、品質管理手法の導入、マーケッティングの交流などが不可欠である。
(『JAGAT info』2013年5月号より転載)