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子どもが出生したときは“出生の届出”をしなければならない。
その際の“子の名”に使用できる漢字の範囲は“戸籍法”に定められている。使用できる漢字は常用漢字だけでなく、それ以外の漢字も使用できることになっており(詳細は“戸籍法施行規則”の第60条に定めがある)、この漢字の集合が人名用漢字である(具体的な漢字は“戸籍法施行規則”の別表第二に掲げられている)。
人名用漢字は、“子の名”に使用できる常用漢字以外の漢字を意味しているのであるが、一般の出版物における漢字の表記法にも影響を与えている。
以下では、字体に関連する事項を主に解説する。
人名用漢字は、1951(昭和26)年に制定された(“人名用漢字別表”として内閣告示された)。その後、何回かの追加が行われている。特に、1981(昭和56)年10月1日に“常用漢字表”が制定されたことに伴う追加は、漢字の字体と関連する。
1981年の改正では、出生の届出の際に使用する人名の漢字字体は、通用字体を原則とし、常用漢字は、“常用漢字表”に掲げる字体[新字体]、それ以外の漢字は、“戸籍法施行規則”の別表に掲げる人名用漢字となった。
通用字体を原則とすることから、従来からの人名用漢字と新たに追加された漢字(合計166字)は、常用漢字の字体整理に準じた字体の整理を加えたものが“戸籍法施行規則”の別表(人名用漢字別表)に掲げられることになった(ただし“附則”で、当分の間、子の名には、“戸籍法施行規則”附則別表に掲げる漢字を用いることができる、として、“附則別表 人名用漢字許容字体表”が規定された)。
常用漢字の字体整理に準じた人名用漢字の例を図1に示す。
その後、1990(平成2)年にも追加(118字)がなされているが、常用漢字の字体整理に準じた字体の整理を加えたものであった。
ところが、2000(平成12年)年に“表外漢字字体表”が国語審議会から答申された。
このことから、2004(平成16)年の人名用漢字の改正で追加された漢字(字種では466字)は、これまでの方針とは異なり、常用漢字の字体整理に準じた整理を行わないで、“表外漢字字体表”に示された漢字の字体となった。例を図2に示す。
なお、この改正では、従来は“当分の間”とされた異体字について、“1字種1字体の原則は維持するが、例外的に1字種について2字体を認めることを排斥するものではない”として、従来から認められていた異体字のほかの異体字も採用された。
したがって、人名用漢字(人名用漢字で認められた異体字を除く)では、常用漢字の字体整理に準じた人名用漢字と、そうでない人名用漢字が混在することとなった。
2010年には常用漢字表が改正された。ここでは、これまでの人名用漢字であった漢字のいくつかが常用漢字表に追加された。
そこでは、常用漢字表の字体整理に従った漢字は、その字体で、表外漢字字体表に従った漢字は、原則としてそれに従った字体になっている。
つまり、1990年までに追加された人名用漢字で常用漢字表の字体整理に従った漢字の字体は、それが認められたということになる。
それでは、図1に掲げたような人名用漢字を一般の表記に用いる場合は、どのように考えたらよいであろうか。基本的な考え方としては、次のような方針が考えられる。
(1)人名用漢字も常用漢字と同様に考え、常用漢字表の字体整理に準じた字体があるものは、一般の表記でも常用漢字表の字体整理に準じた字体を使用する。
(2)人名用漢字は、あくまで人名に用いるものであり、常用漢字表の字体整理に準じた字体は人名に限り使用し、一般の表記では常用漢字表の字体整理に準じた字体は使用しないで、“いわゆる康煕字典体”を使用する(図3参照)。
しかし、“表外漢字字体表”の前文で、“人名用漢字は、制定年が昭和26年、51年、56年、平成2年、9年と異なる関係で、制定年の古いものほど人名用漢字字体の定着度が高い傾向にある。このような傾向から判断すると、人名以外に使用される場合においても、将来的には人名用漢字字体におおむね統一されていくものと予想できる”と記載されており、実際も多くの出版物で、常用漢字表の字体整理に準じた字体があるものは、その字体が使用されているといえよう。漢字の字体との関連でいえば、一般の表記でも人名用漢字の知識を必要とする。
なお、人名用漢字には多くの異体字が採用されている。したがって、人名の表記にあたっては、常用漢字であっても、“いわゆる康煕字典体”を使用しないといけない場合も出てくるので、注意が必要である。
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】