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法令・公用文書・新聞・雑誌および一般の社会生活で使用する漢字として、1850字の漢字を掲げた“当用漢字表”が1946(昭和21)年に内閣訓令・告示された。
ここに掲げられた1850字の漢字について、“現代国語を書きあらわすために日常使用する漢字の字体の標準”として示したものが1949(昭和24)年に内閣訓令・告示された“当用漢字字体表”である。
当用漢字字体表で示された字体は常用漢字表にも引き継がれているので、ここでどのような字体が標準として定められたかを確認しておこう。
なお、“当用漢字字体表”では“漢字の字体の標準”と、その告示文では述べているが、“常用漢字表”では、その答申前文で“字体は、これを文字の骨組みと考えた上で、主として印刷文字の面から現代の通用字体について検討した”と述べている。
“標準”から“通用字体”と変わっている。
唐の貞観年間(624-649年)、顔元孫により編纂された字書に“干禄字書”がある。この字書では約800字の漢字について、楷書体を“正・通・俗”の3段階で弁じ、その使い分けを示している。
正(正体)は、碑文や著述などに用いるもの。
通(通用字体)は、正字を簡略にしている部分などがあるが、慣用されているのであるから、官庁間の往復文書や書簡などに用いてもよいとされている字体である。
俗(俗体)は、帳簿や文案などに使用するもの。いわば当座用である。
この考え方からいえば、“当用漢字字体表”は、“標準”といっているのであるから“正”を定め、“常用漢字表”は“通”を考えた、ともいえそうである。
当用漢字字体表の“まえがき”で、“この表の字体の選定については、異体の統合、略体の採用、点画の整理などをはかるとともに、筆写の習慣、学習の難易をも考慮した。なお、印刷字体と筆写字体とをできるだけ一致させることをたてまえとした”と述べている。
このたてまえを別にいいなおせば、“俗”を“通”または“正”に格上げしたということであろう。
当用漢字字体表の字体は、“まえがき”によれば、次のようなものがあり、これがそのまま常用漢字に引き継がれている。
(1)活字に従来用いられた形をそのまま用いたもの
例 愛、安、位、委、引、右、雲、映、炎、屋など
(2)活字として従来2種以上の形のあった中から1つを採ったもの(例を図1に示す)
この従来2種以上の形があった中から1つを採ったものには、本来の正字・俗字の関係であったものの一方を採用したものや、本来別字であるが略字として慣用されてきた字を採用したもの(“欠・缺、台・臺”など)、同一の文字であるが、活字体がいろいろあるなかの1つを採用したものなどがある。
(3)従来活字として普通用いられていなかったもの、すなわち新しく活字体を定めたもの
ところで、(3)の新しく活字体を定めたものは新字体とよぶことはできる。しかし、(2)も新字体・旧字体といってよいのだろうか。特に、“欠・缺”の関係でいえば、“かける”の意味の場合は、“欠”は新字体といえそうであるが、“あくび”の意味の場合は、もともと“決”の字体であったわけだから、新字体とはいえないだろう。
(図1)
前項の(3)、つまり従来活字としては普通用いられていなかったものについては、当用漢字字体表の“まえがき”によれば、次のようなものがある。
(正字体(旧字体)を図2の括弧内に示す。)
・点画の方向の変わった例
半 兼 妥 羽
・画の長さの変わった例
告 契 急
・同じ系統の字で、または類似の形で、小異の統一された例
拝 全 抜 月 起
・1点1画が増減し、または画が併合したり分離したりした例
者 黄 郎 成 歩 黒 免
・全体として書きやすくなった例
亜 倹 児 昼
・組立の変わった例
黙 勲
・部分的に省略された例
応 芸 県 畳
・部分的に別の形に変わった例
広 転
字体の変わった字を部分として含む字は、その部分は変わった形によることになっている。しかし、“母”は例外で、部分として含む場合は、“毎”のように一画減ることとなった。また、全体の一部が省略された形は単独ではその字に用いない場合があるので注意を要する。(“醉”を“酔”とすることから類推して“卒”を“卆”とはしない。)
最終的には、個々の漢字の区別を知る必要があるが、このように分けてみると、当用漢字字体表により、どのように変化したかをより理解しやすくなるだろう。
(図2)
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】