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田中 崇 THOMSON PRESS
約15 万社あるインドの印刷会社の内、約5%の数百人から数千人の従業員の上位グループは、世界水準の設備、技術を持ち国内の大企業や国内の外国からの進出企業の印刷物、さらに欧米に営業所を持ち外国からの受注も手掛ける国際規模の印刷会社グループである。そのほかのほとんどの小規模の印刷会社は地域に密着した、どんな印刷物も自社内でこなす態勢で、同業者の連携は少ないようである。
国内の受注内容は、新聞、商印、書籍を主に熟練職人の手作りでそれなりの品質、コストで作っている。また、急激に需要が増加するパッケージ関係やシール、ラベルなど特殊な印刷物は専門の下請け工場が少なく小規模の印刷会社が自社で専門に作っている。インド印刷工業会(AIFMP)は印刷物製品の内訳は、パッケージ、新聞、出版、文房具、その他がそれぞれ4 分の1 と分類している。パッケージ関係の印刷物は今後数年は約15%の増加が予想され、その他の印刷物も約10%の増加が期待できるとしている。
さらにインクジェットを利用したオンデマンド印刷も、IT の国らしく大手の印刷会社では、小部数の高品質や特殊加工も取り入れた豪華本への利用や、特殊な印刷会社でシール、ラベルなど特印に採用が始まっている。また、第2 次世界大戦直後20% ほどの識字率が、国連、政府の取り組みによって、現在は70%ほどに改善されている。経済開放政策と外国企業の参入、アメリカを中心とするIT 関連のオフショアに就職するための勉強や、教育関連印刷物の需要も増加している。
外国からの受注は辞書、データブック、日記帳、カレンダーなどの大部数の印刷物を中国やシンガポール、ブラジルと競り合って受注している。
経済発展と外国企業のインド社会への参入の増大に伴う広告は、インド商工会議所(FICCI)の2009 年の分析では約3500 億円で2013 年には約5500 億円に成長すると推定している。インドのGDP対比の広告支出は、0.4% で、中国の0.5% やアメリカの1.3% に比べても今後の成長が期待できる。しかし、今後の広告の媒体では、インターネット、テレビ広告が8%ほどの増加予想に対し、印刷広告は15% 減少と予想されている。なお、最近は印刷業界誌に印刷会社のデジタルサイネージの受注紹介が掲載されるなど最新技術採用も進んでいる。
インドでの印刷物への課税は、新聞、書籍、パンフレットは物品税が非課税で、ダンボール紙、板紙は課税4%、印刷用紙、筆記用紙は課税4%である。その他の印刷物は一般の製品同様に10%の物品税が課税されている。ただし非課税品目に使用される原材料は課税されない。また、外国からの印刷関係の仕事の場合は印刷機材の輸入税の減額など、税制は複雑である。ちなみに、出版物の市販価格は、新聞は日本の新聞とほぼ同体裁で10 円?20 円、週刊誌も日本同様なニュース雑誌は30円~50 円、外国との提携の月刊コスモポリタン誌は100円程であり、多彩なデザインの豪華本である。これらの雑誌の定価は、サラリーマンの月給4~5万円と比較すると理解できる定価である。
印刷物の受注は、政府機関の印刷物は入札制度を導入しているが、学校や一般企業からの受注は主として地域別に営業チームを作って営業活動をしているが、日本より営業担当者の数が少なく、見積りも営業と原価管理部門との連携が不足している。また、一般の人向けの書店が少なく出版物の流通システムは貧弱である。一流ホテルには外国の書籍や観光案内書、絵ハガキなどの売店もあるが一般の人向きではない。新聞や雑誌は街角のスタンドや、立ち売りの人が数万人いるといわれている。ブッククラブを通じて外国の書籍、雑誌の販売やネット販売も始まっているが、出版流通は今後のインド社会発展のための大きな改善点の一つである。
(『JAGAT info』2013年6月号より転載)