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2014年も引き続き「PCサイトをスマートフォンでも見られるようにしたい」というニーズは高い。スマートフォンユーザーを逃さないWebサイトにするためには、どこを変えれば効果が出るのか。スマートフォンサイトを新規で用意したほうがよいのか。それらを見つけるためには、いくつかの方法がある。【クロスメディア研究会5月開催レポート】
まずはGoogle Analyticsによる分析だ。デバイスごとのアクセス比率やページごとの閲覧数といったWebサイトの現状を明らかにすることで、スマートフォン専用サイトを用意すると効果的であるとか、よく見られる情報を目立つところに配置するといった改善点が見えてくる。
Webアナリストとして企業のコンサルティングをおこなっているウェブジョブス 丸山耕二氏は、かつて診断したECサイトを例に挙げ、PCとは異なる導線設計で専用サイトを構築したことで、スマートフォン経由の売り上げを伸ばした経緯を説明した。
診断したのは、出産祝いのお返し用として生まれた子供と同じ重さの米を販売しているECサイト「お米のギフト フルヤ」だ。Google Analyticsで分析したところ、約3割がスマートフォン経由のアクセスであること、商品のこだわりを書いたページより価格ページが重視されていることが明らかになった。さらにユーザーインタビューから「妊婦が病院のベッドでスマートフォンで検索・購入している」という利用シーンが見えてきた。
スマートフォンユーザーはPCユーザーよりも気が短く、知りたい情報が見つからないとすぐに去ってしまう。そこで、知りたい情報がすぐに見つかるよう、ランディングページから商品価格へすぐにクリックできるような導線を設計し、ユーザーに申し込みまでの時間をかけさせない専用ページを制作した。その結果、2年後にはスマートフォン経由の売り上げが10倍以上にもなった。
丸山氏は、「ポイントは、調査データからスマホ市場を見出したこと、そして一度だめでもあきらめないこと」だと言う。実はそのサイトは、はじめスマートフォン専用サイトを作ったものの、PC版とまったく同じ構造・中身であったため期待した売り上げは増えなかった。しかしそこであきらめず、最終的にスマートフォンユーザーに合わせた中身に変えたことが成功につながった。
改善ポイントを見つけるもうひとつの方法は、クライアントを観察することである。観察からクライアントの要望や必要なのは何かを読み解くことができ、改善の糸口を見つけ出すことができる。
各種デザインをはじめサイト構築案件を数多く手掛けるザ・マーズナレッジ 石嶋未来氏は、Webサイト構築にあたっては、まず問題を解決するための仮説を立ててからサイト設計に進むことの重要性を説明した。そして正しい道筋を見つけるためには、クライアントを観察することが非常に有効である点も。ユーザーインタビューも有効だが、インタビューだけだと、聞かれた相手は、自分が知っていることと、そうありたいことしか言わないため情報が正しく拾えない可能性があるためだ。
石嶋氏は、あるウエディングプランニング会社におけるWebリニューアルの設計プロセスを事例として紹介した。
おこなったのは、仮説を立て、Webでできることをリストアップし、優先順位を決めることである。まずヒアリングをもとに仮説を立てた後、クライアント企業を訪問し、仕事の流れをしばらく観察することで必要な項目や掲載する情報を取捨選択する。
実際にサービスを利用するユーザー像(=ペルソナ)を想定して利用シーンやストーリーを組み立てることも有効だという。たとえば結婚するカップルを想定し、彼らがどうやって情報を探すのかを追っていくことで、検索エンジンから来た人向けのページ(ランディングページ)にどういった情報を載せるかが決まるといった具合だ。
必要な要件が決まった後に、どんなサイトにするかを決める。スマートフォン専用サイトとレスポンシブWebデザイン、どちらにするか。レシピサイトやECサイトなど「使う」ものは専用サイトが向いている。読み物的な情報重視のサイトでは、どのデバイスでも見ることができるレスポンシブWebデザインが視野に入る。しかし情報設計が複雑になるなどで工数やコストは意外にかかる。
さらに石嶋氏は、スマートフォンサイトのデザイン設計でのポイントとして、パーツの統一、モバイルファーストによるサイト設計、Webフォントの活用といったノウハウのほか、画面サイズが小さいことにより発生するミスタップを減らす工夫、ページ遷移を減らすことで情報のちがいを明示するデザインなどのポイントを解説した。
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今回、2人の話から見えてきたのは、インタビューや、データ、観察から課題を洗い出し、Webサイトでできることを明らかにすることの重要性である。スマートフォンサイトによってクライアントのビジネスが成功するかどうかは、サイトを構築する前のプロセスでかなり見えてくる。