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生活者個人が主役の「個人の時代」となって、これまでの「枠」を購入する広告手法から個人に向けて情報を発信する必要が出てきている。
■個人の時代のマーケティング
企業戦略のあらゆるものが、デジタル化されていくと分析が大事なことは自明の理である。ビッグデータしかり、「データサイエンティスト」しかり。いまや企業のマーケティングは直接生活者に手が届くようになっている。だから個人の時代である。
「この商品を買った人はこんな商品も買っています」というamazon定番のレコメンデーションがある。あれをうっとうしいと感じる人もいるかもしれないが、抱き合わせ販売の手法であると同時にテストマーケティングでもある。クリックするとそれはまたデータとして蓄積され、分析の対象になる。
テレビや新聞などマス媒体を使った広い層に向けての広告だけでは限界があり、モノが売れなくなってきている。これまでは、広告主がマス広告の「枠」を購入して、そこに掲載する方法が主流であった。本来手段に過ぎない「枠」そのものが目的化していたとも言える。これからは、見込み顧客の発見から最適な手法で情報を届けるという当たり前のことが目的になる。
そのためには当然、ユーザー個別の情報を利用したターゲティングが重要だ。企業がターゲットとする人にどのような手法で訴求していけばいいのだろうか。
新たな広告のキーワードとして注目されているものにDMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)がある。これは、顧客のあらゆるデータを一元的に格納し、管理するプラットフォームのことである。
購買履歴はもちろんサイトの閲覧履歴、SNS情報、個人の属性などの多様なデータを統合して、それを解析する。おおざっぱに言えば、ビッグデータを活用したマーケティングである。分析結果から、有効的な広告配信や商品開発の基礎データに利用する。
DMPの活用は、今後企業のマーケティング戦略の一つになる。そして、広告手法が「枠」から「個人」にシフトしていくと、企業(広告主)と広告代理店・印刷会社の関係、販促に関する印刷物などの発注形態も変わっていくだろう。
■エスノグラフィー調査の応用
顧客の反応を最大限に活かすにはどうすればよいのだろうか。昨日売れたものが今日売れるとは限らない。ましてや明日はまったくわからない。そういう時代に突入している。
「なぜ」売れたのか、そして次に「なにが」売れるか。企業が欲しがっている「だれが」「いつ」「どこで」「いくら」購入するのかといった予測情報が入手しづらい。どのタイミングでだれにPRするのが一番効果的なのかが分からない。だから販売戦略も立てにくい。
そこで話題になったのが、「エスノグラフィー」という定性分析の調査である。もともと文化人類学や民俗学(民族学)などのフィールドワークに用いられる研究調査手法だが、それをマーケティングリサーチに取り入れた行動観察調査である。具体的には、生活者の日常に密着して行動を記録し、ヒアリングを行うのである。
データ分析だけでは解き明かすことのできない事例に対しては、「エスノグラフィー」を駆使した「行動観察」が効果的だ。
■行動観察という手法
大阪ガス行動観察研究所は書店の事例などがマスコミにも取り上げられてよく知られている。松波晴人所長から面白い話を伺ったので、さわりだけ紹介したい。
行動観察事例のひとつに高額なシャンプーの販売実績があった。店舗では、POSシステムを導入してデータが蓄積されている。それによると平日の昼間に30代主婦が高額なシャンプーを購入している。同じ30代主婦が休日に購入するのは、安価なシャンプーであった。どちらも同じ顧客層なのだが、POSデータ分析ではその違いが判別できなかった。そこで、特定の個人の行動を観察することで、真相がわかったという。
つまり同じ主婦の方が、平日一人で買い物に来るときには、自分専用の好きなブランドのリッチシャンプーを購入する。かたや休日は家族で買い物にきて、夫や子供用の安いシャンプーを購入するということだ。
主婦が家族同伴で休日に自分用の高額なシャンプーを買おうものならいろいろ面倒くさいことになる。夫の追求に対して、「なんであなたの少ない髪の毛に高価なシャンプーが必要なのよ」くらい言い返してしまうかもしれない。これは、おそらくあらゆることに応用が利く事象である。知人の話だが、ナラカミーチェのブラウスを平日昼間に購入して、夫にはなるべく安価なノーアイロンのワイシャツをあてがうという。
女性を敵に回したくないのでここでやめておくが、こんなことは「紙おむつとビール」くらい自明のことである。言われてみれば当たり前で、同年代の主婦の方なら「何をいまさら」と言うに違いない。 しかし、既存のデータ分析の手法だけではそれが分からない。ある手法に依存しすぎると本質が見えなくなってしまう好例だと思う。この場合は「データ分析+行動観察」で補完し合えるのだろう。
動画広告などの新たな手法もどんどん出てきている。生活者個人の行動パターンを知っておくのと知らないでいるのとでは、同じように販促物を作っていても効果がまるで違う。印刷会社も顧客のビジネス支援のためにエンドユーザーの生活行動パターンは知っておくべきである。そして、そこから新サービスの開発を心がけることが必要になってくる。
(JAGAT 研究調査部 上野寿)
【クロスメディア研究会】
2014年6月6日(金)
動画広告市場の拡大と新ビジネスの可能性
2014年は動画広告元年とも言われ、動画広告市場が非常に伸びています。コンテンツ制作、配信代行など、印刷会社のビジネスはどこにあるか探ります。