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電子書籍や電子コミックの制作・発行が本格化してきた。しかし、電子書籍制作の中心を担う印刷会社では、DTP データからEPUB 形式へ変換する場合、印刷データと電子書籍を同時制作する場合などがあり、ワークフローが確立しているとはいえないところが多い。page2014カンファレンス「印刷会社におけるEPUB 制作と課題」では、各社のEPUB 制作の現状と今後の方向を伺い、議論を行った。
大日本印刷の吉田政紀氏によると、電子書籍の制作では、過去の印刷データを元に電子書籍データを制作する場合、紙と電子書籍を同時制作する場合、電子書籍を先行する場合がある。
現時点では個別対応がほとんどで、作業フローの標準化はされていない。各種の変換や文字コードのフィルタリングなど煩雑な作業を効率化するツールを整備している段階である。将来的には、中間ファイルを経由して、紙と電子書籍の両方のコンテンツに対応するハイブリッド制作ワークフローを構築していくと語った。
凸版印刷の遠藤亮正氏は、最初に同社のDTP データからの電子書籍ワークフローを説明した。オリジナルのプラグインを搭載したAdobe InDesin 上で、タグ付などの構造化を行い、オリジナルのXML 形式データとして保管する。印刷物、電子書籍など用途に応じて自動変換する。
独自の比較校正システムがあり、文字の脱落や欠けなどをチェックする。出版社ごとの仕様に対応するために、EPUB 変換を部分的にカスタマイズしている。 紙と電子の同時制作の場合、構造化の作業を前倒しすることが可能である。今後、紙と電子の制作環境を統合することで作業効率をアップすることができる。
シーティーイーの鎌田幸雄氏によると同社では、MCBook を使ってEPUB 制作に取り組んでいる。MCBook は、HTML やCSS に不慣れなDTP オペレーターでも使いやすい。MCBookの機能の足りないところはテキストエディターの機能で補完している。校正は、検版部で端末を使って底本と比較している。
底本を画像化してブラウザー上で比較するツールを試作し、実用化を目指している。出版社の支給データと底本が違うために、出戻り作業が頻繁に発生する問題がある。DTP データがないケースの相談が増えており、OCR やテキスト入力の2 重化などを検討している。 三陽社の田嶋淳氏は、ブログ「電書魂」で電子書籍、電子出版の情報配信やツールを公開している。
三陽社は出版社のDTPデータを大量に保管しており、効率的に電子化するための方策を模索していた。MC-B2のデータをInDesign に取り込むためのスクリプトを開発し、その後InDesign からEPUB3 に変換するスクリプトを開発した。さらに経産省のコンテンツ緊急電子化事業に対応するためにI n Designを元にして、MCBook、EPUB3、XMDF に変換できる形を構築した。
現在の制作ワークフローでは、XHTML 用タグ付け、EPUBパッケージ化、目次自動生成、データチェッカーなどをツール化して使用している。電子書籍制作における印刷会社の強みは、電子化のための方針作りや画像制作、DTP からの変換、出稿前の内部校正などがある。
ディスカッションでは、理想的な電子書籍データ制作には何が必要か議論された。
DTP 制作の時点で電子書籍を意識し、テキスト抽出やスタイル設定のルール化を行うこと、将来的にアクセシビリティが課題となることが指摘された。マスターの形式はInDesign などアプリケーション依存ではなくEPUBが最適、教科書や辞書など複雑なものならオリジナルのXML 形式という意見が交わされた。
今後、紙と電子書籍の同時制作の比重が大きくなっていくことがうかがえた。
(『JAGAT info』2014年5月号より)