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「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
2013年12月に文教堂グループホールディングスが始めた「空飛ぶ本棚」は、対象となる雑誌を購入すれば電子版を無料で進呈するというサービス。
当初は10誌のスタートであったが増売効果が確認されたために4月下旬までで94誌にまで拡大。出版業界全体で取組む機運が高まっている。雑誌販売の不振が続いている出版界の救世主として注目されている「空飛ぶ本棚」の挑戦を検証してみる。
雑誌不振の危機感から生まれた実証実験
2013年12月に文教堂GHDが雑誌を購入すれば、電子版を無料で進呈するというサービス「空飛ぶ本棚 」を開始しました。
雑誌の増売を狙った野心的な実証実験として注目しておりましたので、私も早速、文教堂書店 市ヶ谷店で体験してみました。
書店で対象雑誌を購入すると16桁のユニークコードが印字されたクーポン券が渡されます。アプリ「空飛ぶ本棚」をダウンロードし、会員登録。その後、ユニークコードを入力すれば電子版の対象雑誌の閲覧がすぐに可能になるという仕組みです。
追加料金なしで購入した雑誌の電子版がタブレットやスマートフォンで閲覧ができます。電子版は固定レイアウト型ですがワード検索も可能でした。文教堂グループホールディングスの嶋崎富士雄社長は「雑誌が売れなければ定期的な集客力も失い、書籍も売れなくなる」と雑誌不振の深刻化を強調し、「空飛ぶ本棚」を「リクエストのあった書店すべてにオープンにする」と宣言。
雑誌販売額は、ピークだった1997年の57%まで落ち込んでいます。グラフを見れば一目瞭然のように電子書籍の市場は、まだ小さく、紙の出版の落ち込みを補填できるような水準にまで成熟していません。また出版業界の落ち込みがいかに大きなものかも分かっていただけるかと思います。
出版業界全体で取組む機運が高まっている「空飛ぶ本棚」
クロスメディアという観点から言って、大変興味深い実証実験でしたので、どのような結果になるか注目していました。
産経新聞によると対象雑誌の増売効果は顕著で「週刊東洋経済」12/14号 約1.6倍、「25ans」2月号 約1.9倍、「週刊ゴルフダイジェスト」1/7・14新春特大号 約2倍と報道。
4月下旬段階で94誌にまで広がっていきました。
嶋崎社長の「オープン宣言」に呼応して、丸善書店、ジュンク堂書店、啓文堂書店、有隣堂書店、ブックファーストなど21法人の書店チェーンが順次、「空飛ぶ本棚」の参画に着手しています。さらにトーハンの近藤敏貴社長は「日本雑誌協会や日本出版インフラセンターなど業界団体または取次会社で取り組む必要がある」と発言しています。
いくら増売効果があるといっても、有料で販売している雑誌の電子版を、紙の雑誌を購入すれば無料で提供していいものかという議論も起きていることも事実です。
しかし、メディア、情報の享受の手法が大きく多様化、変容している現在、これまでの商習慣に拘泥されない新しい発想に基づいた施策が待たれているように思えてなりません。
生活者視点に立ってどのようなサービス、読書スタイルが求められているのか?といった着眼点を見失うと縮小を続ける出版市場に何の施策も打てないのではないかと思えます。
従来の紙による出版という市場に電子がどのような相乗効果を引き起こすことができるのかという視点こそ、「クロスメディア」的な発想であるといえます。
考え方、使い方しだいで「クロスメディア」は印刷の味方であるばかりか強力な武器になることを「空飛ぶ本棚」は示していると確信しております。
大日本印刷株式会社 市谷事業部
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート、DTPエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
Twitter : @spring41
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