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表外漢字とは、“常用漢字表”(または“当用漢字表”)に含まれていない漢字のことで、表外字ともいう。この表外漢字は、一般向けの刊行物でもよく使用されており、最近では新聞でも振り仮名(ルビ)を付けて使用している例を見かける。
ところで、表外漢字の字体については、1949(昭和24)年に告示された“当用漢字字体表”でも、1981(昭和56)年に告示された“常用漢字表”においても、特に規定していない。そこで、常用漢字(または当用漢字)における字体の整理を表外漢字に及ぼすか、及ぼさないかが問題となった。例えば、“きとう”“じんぎ”“ひっぱく”などといった言葉があった場合、どのような漢字表記を行えばよいだろうか。
図1に例を示す。右側の例が常用漢字(または当用漢字)における字体整理を表外漢字に及ぼした例である。このように常用漢字(または当用漢字)の字体整理の考え方を表外漢字に適用した字体は、“いわゆる拡張新字体”と呼ばれている。
(図1)
表外漢字の字体の扱いについては、国語審議会が“常用漢字表”(1981年告示)を答申した際の“前文”で、次のように述べている。
“常用漢字表に掲げていない漢字の字体に対して、新たに、表内の漢字の字体に準じた整理を及ぼすかどうかの問題については、当面、特定の方向を示さず、各分野における慎重な検討をまつこととした。”
別の表現をすれば、問題を先送りしたといえよう。
“拡張新字体”という用語は、“標準 校正必携 第三版”(1973年、日本エディタースクール出版部)で使用された用語であり、そこには、81字の例が掲げられている。
これよりも以前の1955(昭和30)年に刊行された“広辞苑”(岩波書店)の2336頁(確認したのは1959年の第6刷)には、“本辞典使用の字体について”の見出しと、“当用漢字の字体整理の趣旨に基づき、字体表の文字に加えて、次に掲げた文字にかぎり、整理された字体を使用した。/( )内は正字を示す。”との説明のもとに、98字が掲げられている。いくつかの例を図2に示す。
“広辞苑”の組版(活字組版)を行った印刷所では、この段階(1955年)において、当用漢字字体表の字体整理の考え方に従った表外漢字の字体が準備されていたのである。
ただし、その後の“広辞苑”の第二版では、巻末の断り書きもなくなり、このような“いわゆる拡張新字体”は使用されていない。
(図2)
その後、1990年ころから“いわゆる拡張新字体”の使用が増えていった。これはJIS X 0208の1983年の改正とDTPの普及が原因と思われる。
JIS X 0208の1983年の改正では、第1水準の表外漢字の例示字形に“いわゆる拡張新字体”が多数採用された。(前述した常用漢字表の答申“前文”の“各分野における慎重な検討をまつこととした”という説明からいえば、このような処理は、あくまで例示とはいえ、批判されてもやむをえないだろう。)
また、このことから、DTPで使用するフォントの表外漢字の字体について、JIS X 0208の例示字形に従ったものが増えていったことも、使用の増加に影響した。
このように表外漢字の字体は、当用漢字字体表の制定以来問題となっており、表外漢字の字体使用のこのような混乱状態のなかで、“表外漢字字体表”が国語審議会から2000(平成12)年12月に答申された。
その考え方を要約すれば次のようになる。
(1)適用範囲
法令、公用文書、新聞、雑誌、放送等、一般の社会生活において表外漢字を使用する場合の字体選択のよりどころについて、印刷文字(情報機器の画面上で使用される文字や字幕で使用される文字などのうち、印刷文字に準じて考えることのできる文字を含む)を対象として示す。
(2)表外漢字字体表の字体についての基本的な考え方
表外漢字における漢字字体の使用実態を踏まえ、一般の文字生活の現実を混乱させないという考え方から、表外漢字字体表では、当用漢字字体表及び常用漢字表で略字体を採用してきた従来の施策と異なる漢字の字体を採用した。
(3)対象とする漢字
日常生活の中で目にする機会の比較的多い、使用頻度の高い表外漢字を対象漢字として1022字取り上げた。
(4)字体の示し方
表外漢字字体表では、印刷標準字体と簡易慣用字体(22字)の2字体を示した。さらに、“3部首許容” として、“しんにゅう”“しめすへん”“しょくへん”についても、図3に示したAでなく、Bの字形を用いている場合には、これを認めている(44字が対象の文字として表外漢字字体表では示されている)。
なお、印刷標準字体とは、“康熙字典”を典拠として作られてきた明治以来の活字字体として最も普通に用いられてきた印刷文字字体である(ただし、使用頻度が高いと判断された俗字体や略字体なども一部採用されている)。
簡易慣用字体とは、現実の文字生活で使用されている俗字体・略字体等で、使用習慣・使用頻度等を勘案し、印刷標準字体と入れ替えて使用しても基本的には支障ないと判断し得る印刷文字字体のことである。
(5)表に示していない漢字の字体
表外漢字字体表に示されていない表外漢字の字体については、基本的に印刷文字としては、従来、漢和辞典等で正字体としてきた字体によることを原則とする。
(6)字体とデザインの違い
各種の明朝体では、微細なところで形の相違の見られるものがある。これらが字体の差異なのか、あるいはフォント設計上の表現の差(デザインの違い、デザイン差)かについて、例示されている。(デザイン差については、常用漢字表でも例示されているが、その範囲は、常用漢字表で認めているものより、表外漢字字体表では、より範囲を広げている。)
さらに、印刷文字字形(明朝体字形)と筆写の楷書字形との関係についての説明も行われている。
ただし、
“人名用漢字は、制定年が昭和26年、51年、56年、平成2年、9年と異なる関係で、制定年の古いものほど人名用漢字字体の定着度が高い傾向にある。このような傾向から判断すると、人名以外に使用される場合においても、将来的には人名用漢字字体におおむね統一されていくものと予想できる”
と記載されており、表外漢字字体表には人名用漢字はとりあげていない。ということは従来の人名用漢字は、一般の表記では字体整理を行った字体を使用してよいということになろう。
(図3)
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】