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森裕司のデジタル未来塾(20)
写真は、印刷物制作において重要なエレメントの一つだが、適切な品質やサイズのものを使用しないと、印刷では美しい仕上がりが望めず、扱いも難しい。DTP では写真の編集にAdobe Photoshopを用いるが、最適な品質を保ち、かつスムーズに仕事を運用するためには、いつでも元の状態に戻すことのできる“ 非破壊編集” が重要となる。今回は、この“ 非破壊編集” について考察してみたい。
皆さんご存知のように、ベクターグラフィックスを扱うAdobe Illustratorでは、自由に拡大・縮小が可能で、サイズ変更による画像の劣化はない。しかし、ビットマップ画像を扱うPhotoshopでは、適切な解像度の画像を使用しないと、無駄にファイルサイズが大きくなったり、あるいは眠たい仕上がりになったりしてしまう。
そこで、解像度の調整や色調補正という作業が重要となるわけだが、一度補正を行っても、修正指示の内容によっては補正をやり直したり、元の状態に戻したりといった作業が生じるケースもある。このように、後から再度、修正が生じることが予想されるようなケースの場合、元画像と編集後の画像を分けて保存し、いつでも元の状態に戻せるようリスク管理をしていた方も多いと思う。
しかし現在では、色調補正やフィルターの適用といった作業は、いくらでも再編集や再適用が可能となっており、さらにネイティブ形式(PSD)での運用が一般的となったことで、ワンファイルでの管理が当たり前となった。
まだ、元画像と配置用の画像を分けて運用している会社は、ワークフローを見直し、“ 非破壊編集” での画像編集を中心とした作業方法への移行をお勧めしたい。
DTP でPhotoshop を使用する場合、最も頻繁に行われる作業は、ゴミ取り、適切なサイズと解像度への再サンプルやリサイズ、トリミング、そして色調補正およびCMYK への変換、フィルターによるシャープネス処理といった作業だろう。実はこれらの作業の幾つかは、適用後にいつでも元に戻すことができる。もちろん、使用しているPhotoshop のバージョンによっても違うが、いつでも再編集、再適用が可能なのである。特に古くから使っているユーザーは、ついつい使い慣れた方法で作業している方も多いので、ぜひ覚えておいていただきたい。
まずは、トリミングの作業。通常、トリミングは切り抜きツールを使って必要な部分のみを残して切り抜きを行うが、一度切り抜いてしまうと元に戻すことはできなかった。しかしCS6からは、切り抜きツールに[切り抜いたピクセルを削除]というチェックボックスが追加され、これまでであれば削除される部分を残したまま切り抜きが可能になった。後から再度、トリミングを変更したいといった場合でも、切り抜いた部分を復活できるため、元画像を取っておく必要はない。
[イメージ]メニューから実行する[トーンカーブ]や[レベル補正]といった[色調補正]も、これまでは一度適用してしまうと元に戻せない作業の一つだった。しかしCS4から、新しく[色調補正]パネルが搭載され、このパネルを使用して行った色調補正は、別レイヤーとして画像に反映されるため、いつでもキャンセルや再調整が可能となった。後からいくらでも変更できるため、使い勝手も大幅に向上している。なお、従来のように[イメージ]メニューから実行した場合は、元に戻せないので注意が必要だ。
シャープネス処理をはじめとするフィルターも、その多くが再編集可能となっている。フィルターは、そのまま適用しただけでは再編集はできないが、あらかじめ画像をスマートオブジェクトに変換してからフィルターを適用することで、いつでも元の状態に戻せる。例えば[スマートシャープ]を適用したい場合でも、スマートオブジェクトに変換してから適用しておけば、後からいくらでもシャープネスのかかり具合の調整が可能だ。これまでレイヤーを複製して、元の画像を取っていた方も多いと思うが、その作業も現在ではあまり必要なくなってきている。
(『JAGAT info 』 2013年11月号より 一部抜粋。※記載情報は誌面掲載当時のものです。)
森 裕司[もり・ゆうじ]
名古屋で活動するフリーランスのデザイナー。
ウェブサイト「InDesignの勉強部屋」(http://study-room.info/id/ )や、名古屋で活動するDTP 関連のデザイナーやオペレーターなどを対象にスキルアップや交流を目的とした勉強会・懇親会を行う「DTPの勉強部屋」を主催。DTP やInDesign に関する著書も多数。アドビの『AdobeInDesign CS4 入門ガイドBack to Basic』の執筆も担当している。