本記事は、アーカイブに保存されている過去の記事です。最新の情報は、公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)サイトをご確認ください。
デジタル化が進むおくすり手帳の状況
薬の調剤履歴を記録しておく「おくすり手帳」は、薬局で過去の履歴を提示することで、アレルギーや副作用が出る薬の飲み合わせや重複投与を防ぐものだ。1990年代に起きた薬害事件がきっかけで一部の薬局で利用がはじまり、2000年に国の制度となった。現在では多くの人がおくすり手帳を持っている。
2011年の東日本大震災では医療機関や薬局も被災し、保存していたカルテも多くが失われた。それでもおくすり手帳を持っていた人は、仮設診療所で今まで服用していた薬や代替薬を処方してもらうことができた。おくすり手帳の有益性が示された一方で、日頃から手帳を携帯している人は少なく、震災で流されてしまった人も多かったという課題も明らかになり、常に携帯しているスマートフォンや携帯電話で管理する電子化のメリットが注目されるようになった。
さらにここ数年でスマートフォンアプリの利用者が増えたことで、急速におくすり手帳のアプリが拡がっている。
アプリの基本的なしくみは、薬局に設置されているリーダー端末にICカードやスマホをタッチするかQRコードを読み取ることで、調剤情報を読み取り保存するものだ。利用者は別途アプリをインストールすることで、履歴を確認したり家族で共有することができる。
公的な団体が提供しているものとしては、川崎市薬剤師会が市とソニーとで共同開発し、段階運用している「ハルモ(harmo)」や、大阪府薬剤師会が開発・運用している「大阪e-お薬手帳」がある。大手薬局チェーンのアインファーマシーズがNTTドコモと共同開発した「アインお薬手帳」や日本調剤ほかが採用している「Pocket Karte(ポケットカルテ) 」、アイセイ薬局の「おくすりPASS」など民間企業による独自開発アプリの提供もさかんだ。
これらは医療系システムメーカーの団体である保健医療福祉情報システム工業会(JAHIS)が公開している標準フォーマットに準じており、基本的にどの薬局で処方された薬であってもデータを読み取ることができるようになっている。さらにユーザーの利便性を高めるしくみとして、服薬状況をグラフ化したり、服用タイミングをアラートで知らせる機能も追加されている。
印刷業界として気になるのは、アプリ化によって紙のおくすり手帳がなくなってしまうのか、という点であろう。現時点では、国の評価制度がアプリに対応していないことや、薬局側がデータを安全に確認するしくみが整っていないことなどから、アプリだけで完結するのは難しく、しばらく紙とアプリの併用が続く状況だ。
現在は過渡期で、さまざまな課題を解決するために各機関で取り組みを進めている。2014年に入り厚生労働省がQRコードの活用を進めるよう通達を出し(→参考 )、4月からは薬局のシステムでQRコードが印字できるようになった。日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会では共同でアプリを開発し、来年度の公開を目指している。電子おくすり手帳は、ここ数年でいっそう普及が進みそうだ。
印刷物のデジタル化動向~電子おくすり手帳の状況と東洋大学が取り組むWeb広報
2014年08月29日(金) 15:00~17:00