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「クロスメディア」というキーワードから想起されるビジネスやサービスの「現在(いま)」を毎月再考していく。
2014年7月2日から7月5日の4日間、第21回東京国際ブックフェアが東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催された。同時開催された電子出版EXPOと合わせて「クロスメディア」という観点からひときわ目をひいた展示、セミナーなどをリポートする。
「出版にもっと自由を」と大きなサインが目を引いたのは楽天Kobo ブース。
誰でも電子書籍を出版できるいわゆる「自己出版」が手軽にできる「ライティングライフ」のサービス開始が発表されました。
自己出版といえばアマゾンのKDP(Kindle Direct Publishing)が先行していますが、楽天Koboでも正式に参入を表明しました。サービス開始時期や具体的な手数料(料率)などは後日発表されるとのことですが、7月3日に楽天Koboブースで実施されたこの「ライティングライフ」をテーマにしたトークセッションが「日本独立作家同盟」呼びかけ人で「月刊群雛」編集長の鷹野凌氏、株式会社ブクログ取締役の大西隆幸氏、 ライブドアブログとimpress QuickBooksによる「ライトなラノベコンテスト」特別賞受賞の作家である晴海まどかさんという布陣で行われましたが大勢の聴衆を集めており注目の高さが感じられました。
KDPとの違いや優位性をいかに打ち出せるかによって、今後の日本市場における自己出版の隆盛にも大きく影響を与えることでしょう。他にもリアルな書店店舗で電子書籍カードを陳列して購入するというサービスBooCa(Book + Card から命名)も展示。電子書籍の新たな購入チャネルを開拓する試みとして注目しています。
凸版印刷のブースでは、昨年は参考出品だった雑誌のコンテンツを記事単位で購入できるという「中吊りアプリ」が2014年3月26日にサービスが開始されたのに加え、雑誌のコンテンツを細分化、マイクロコンテンツ化していかにビジネスにするかというコーナーが充実していました。
「ヒトに合わせて、キジが動き出す」というコピーも雑誌メディアの価値をいかに人々の暮らしに活用していけるのかという試みとして紹介されておりました。
凸版印刷グループのBookLive!とCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の業務提携がブックフェア会期直前の6月30日に発表になりましたが、関連した展示では紙の雑誌をTSUTAYAで購入すると雑誌の電子版がスマートフォンのBookLive!アプリにダウンロードされるというデモはたいへん興味深いサービスだと感じました。
大日本印刷のブースでは、注目したのは電子書籍サービスhontoのOKURIBONでした。電子書籍は、リアルな紙の本のように贈呈することができないことが欠点であるとよく言われておりましたがメッセージを添えて電子書籍を贈れるというサービスは新規性を感じます。
また読書を音声で楽しむオーディオブックという読書スタイルは、まさに新たな読書スタイル、クロスメディアという観点からいっても関心を持っておりましたがオーディオブックを手がけるオトバンクと大日本印刷が共同で公共図書館に向けたオーディオブック事業を開始されることが会期中に発表され、デモも行われました。
他にも参考出品ではありましたがグラス型ウエアラブル端末をつけて雑誌の紙面を閲覧するデモは視覚が拡張されるこれまで未体験の感覚でした。特に首を左右に振ることによってページをめくったり、エッフェル塔を下から見上げたりするデモはワクワクしました。
7月4日(金)まで開催された国際電子出版EXPOではボイジャーのブースがもっとも賑わっておりました。ブース内で行われたスピーキングセッションには、池澤夏樹(作家)、福井健策(弁護士)、大原ケイ(出版エージェント)、鈴木みそ(漫画家)といった豪華メンバーが次々に登壇したのに加え、展示では7月1日に一般公開された電子出版のためのWEBサービスRomancer(ロマンサー)が注目を集めていました。
自分が書いたテキストやWord、PDFなどの原稿がWEBブラウザベースの閲覧システムで即公開することを実現させるもので、ブラウザがリーダーなので、通常の電子書店のアプリをダウンロードする必要がなくさらにEPUB3のデータが同時に書き出され、出版する個人が自由にこれを扱うことができるという徹底したユーザー志向のサービスです。さすが「創世記」から長年最先端で電子出版を牽引してきたボイジャーであると思わせるサービスでした。
全体を通して感じたのは、クロスメディアという視点からいってもセルフパブリッシング、ソーシャルな視点からのものがますます台頭してきたことや、マイクロコンテンツ化や定額読み放題などのサブスクリプションモデルなど新しい課金モデルも目立ちました。
2013年の電子出版(書籍+雑誌)市場が前年比31.9%増の1013億円(インプレスビジネスメディア)を超えたことからもうかがえるように、電子による出版市場もいよいよ無視できないほどに成熟してきました。電子を紙に対立したものとして捉えるのではなく、お互いを補完、相乗効果を狙うクロスメディアという視点が出版業界そして印刷業界の活性化策としてますます重要な視点になってきていることを実感した4日間のイベントでした。
大日本印刷株式会社 ABセンター
池田 敬二
1994年東京都立大学人文学部卒業後、大日本印刷に入社。入社以来、出版印刷の営業、企画部門を歴任。趣味は弾き語り(Gibson J-45)と空手。JAGAT認証クロスメディアエキスパート、DTPエキスパート。日本電子出版協会クロスメディア研究委員会委員長。JPM認証プロモーショナルマーケター。
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