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田中 崇 THOMSON PRESS
インド経済活動は、1947 年に独立するまで300 年以上にわたって英国の統治下で、英国の経済活動の中にあった。独立後は、国産品愛用、自主独立で外国との経済交流は大きな制限の下に行われていた。1991年に、現マンモハンシン首相(注:2013年執筆時。2014年5月に退任)による経済改革によって規制緩和が行われ、現在は製造業では、ほぼ全ての分野で外資100%での参入が認められている。
以上のような経済環境の歴史によって、現在でも、印刷物の外国からの受注も英国を中心に米国、豪州からの受注が多い。もちろんこれらの国には古くからの人脈もあり、印刷以外の経済交流も多い。
インドの先進的印刷会社は欧米に営業所を持ち、熱心な営業活動をしている。印刷物の国際的営業活動はシンガポールは長い経験を持ち、ホンコン(中国)や韓国も政府の支援もあって、国際的な受注活動が盛んである。最近では、ベトナム、フィリピンなどもWeb利用によって国際的に受注活動を進めている。
ビジネスは英語による仕事の進行で、現地駐在のセールスマンによるデータ管理も含むサービスをする態勢を持っている。特に、英語による組版処理、画像処理、データ処理は、各国とも英語の最新ソフトを使って、受注競争力を持っている。
また料金面で、発展途上国は生活費の安さや政府の各種支援もあって国際競争力を持っている。インドの印刷会社でも、東京の観光案内パンフレットのCTPデータを東京から受け取り、インドで印刷、製本をして、ヨーロッパ数カ国のエージェントに配送する仕事を受注した例もある。
インドの印刷会社がネパールから印刷物を受注するには、コスト面よりも、エベレスト観光に訪れる世界からの観光客のための印刷物の企画、デザイン、印刷加工、カラー印刷の品質など総合的なユーザーサービスで受注している。
また、欧米先進国からの受注の競争力ではDTP の原稿の入力、修正や印刷ではページ数の多い小部数の辞書など、また、特殊加工の上製本など、手間の掛かる印刷物を得意として受注している。特に辞書、手帳、聖書、データブックなどの大物印刷物は、中国、韓国、インド、ブラジルなどとの競争になり、最近ではベトナム、タイなども参入している。
アメリカの大会社のカレンダーや手帳、アニュアルレポート、マニュアルブックもインドで作られているものもある。さらに多くの印刷会社が英語から多言語への翻訳、編集から印刷のみでなく、データベースのメンテナンスなどの業務を欧米から受注している。
アメリカの世界的ソフトメーカーのソフト作り、世界のユーザーへのユーザーサービスをインド人が担当していることを見ても、インドの情報処理能力の高さを感じることができる。
インドの印刷業界誌の編集長の報告を読むと、出版関係の印刷物の印刷では、インドの印刷会社はIT をはじめ世界の最新の印刷機材を研究しているので、中国に負けない競争力を持っている。また、インド人は印刷物から知識を得たいという希望が強いので、これからも印刷は伸びると報告している。このほか、別の業界誌の編集長は、今後、デジタル印刷やデジタルサイネージを手掛ける印刷会社がますます増大し、発展するであろうと報告している。実際、インドでは日本の数倍の規模のブックフェアや印刷機材展「プリントパック」のほかにも、シルクスクリーンの機材展など、多くの印刷関連機材展やセミナーが開催されている。
これからのインドの印刷業は、電子書籍時代になってもしばらくは、Web 対応のITの力とともに、紙の印刷物も加工度の高い製品を中心に国内、世界からの受注増が期待できる。
(『JAGAT info』2013年7月号より転載)