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2010(平成22)年に常用漢字表が改正された。196字の漢字が追加され、5字削除され、差し引き、常用漢字表に掲げられている漢字は2136字になった。
追加された漢字の字体は、これまで人名漢字であったもので、常用漢字の字体整理の方針に従った漢字は、その字体になり、表外漢字字体表に掲げられていた漢字は、表に掲げられている印刷標準字体となった(例外は次項で解説)。
追加された漢字で、人名用漢字でもなく、表外漢字字体表にも掲げられていない漢字は“楷、憬、錮”の3字で、これらの漢字の字体には問題はない。
図1に示した3字については、改正された常用漢字表では、表外漢字字体表の印刷標準字体のAではなく、Bの簡易慣用字体が採用されている。
しかし、出版社のなかには、常用漢字表が改正された後でも、これらの漢字の字体は、常用漢字表に示された字体ではなく、図1のAの字体を使用する方針のところもある。
(図1)
表外漢字字体表での3部首許容について、改正された常用漢字表では、角括弧に入れて許容字体として示されており、この字体を現に印刷文字として用いている場合、表に示した字形に改める必要はない、という注意書きがある。
また、“前書き”の最後に、情報機器に搭載されている印刷文字字体の関係で、本表の通用字体とは異なる字体を使用することは差し支えない(いくつかの例を図2に示すが、図2に示すAの通用字体ではなく、Bの字体を使用することは差し支えない)、との注意書きがついている。
(図2)
字体とはやや性格が異なるが、1956(昭和31)年に国語審議会の報告として発表された“同音の漢字による書きかえ”がある。これは当用漢字でない漢字について、似た意味の当用漢字で表現する方法として公表されたものである。文字を単位とした書き換え(熟語にも使用できる)と、熟語を単位とした書き換えが表に示されている。これらの書き換えは、代用表記(代用字)ともよばれている。文字を単位とした書き換えの例を図3に示す(右側が代用字)。
“同音の漢字による書きかえ”は、字体とは別の扱いなので、通行の字体を使用する方針であっても、原稿において左側の漢字で書かれたものを右側の漢字に書き換える必要はない、といえる。しかし、出版物によっては書き換えを行う場合があるが、原則として著者の了解のもとに行う必要がある。
(図3)
これまで漢字の字体について、簡単に説明してきたが、いろいろな問題があり、また、許容もあり、どの字体を選んだらよいのか迷う場合もでてくる。
漢字の字体についての知識を確実なものにし、出版物の内容に応じた方針に従えばよい、ということが原則である。しかし、個々の漢字の字体が問題となった場合、どれを選択してよいか悩むこともある。
一つの方法として、一般の出版物で、漢字の使用範囲を必ずしも常用漢字に限らないが、漢字の字体については、常用漢字表でいうところの通用字体を採用したい場合であれば、新しい常用漢字表に準拠した2010年以降に改訂版として刊行された信頼のおける小型の国語辞典で採用された字体を参考にするという方法がよいだろう(小型の国語辞典は改訂の頻度が多い)。
その辞典の凡例などで確認するとよいが、人名用漢字、表外漢字字体表に示された漢字、それ以外の漢字を含め、通行の字体が採用されていると考えてよい。
実際の組版作業で、漢字の字体の扱いについて、どうしたらよいであろうか。
まず、漢字の字体の使用方針を決めることが前提である。そのうえで、原稿段階で、できるだけ使用方針に従ったものにする。今日では、文字コードもいろいろと整備され、原稿段階で漢字の字体の区別がある程度はできるようになっている。しかし、そのための知識を必要とする。
次に、組版指定で、きちんとした方針を指示することである。原稿に問題があっても、ある程度は、印刷所にもよるが、機械的に処理できる事項もある。
しかし、最終的には漢字の字体についての知識をもち、また点検できる眼をもった校正者の確認は欠かせない。
前述した方法が原則であるが、そこまで管理できない場合は、信頼のおける印刷所に、一般の国語辞典で採用している字体になるように依頼するのも方法である。
また、常用漢字表の注意書きで、“情報機器に搭載されている印刷文字字体の関係で、本表の通用字体とは異なる字体を使用することは差し支えない”と述べているのであるから、指示も与えないで、なりゆきにまかせるのも方法である。
しかし、この場合は、その印刷物の字体と一般の国語辞典で使用している字体とが異なる場合もでてくることもある、ということは考えておく必要がある。
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】