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デザイン力強化を図る印刷業界においてデザイナーの役割はますます重要となる。デザイナーの定義、印刷業における就業者数、他産業との比較について考察する。
「JAGAT印刷産業経営動向調査」によると、印刷会社が今後強化したいと考える工程の1位は、過去3年連続で「デザイン」である。
また、全日本印刷工業組合連合会による平成25年度「経営戦略アンケート」では、過去に変えた事業領域について「デザイン部門を強化した」と答えた企業が39.4%となっている。
http://www.aj-pia.or.jp/welcome/wel_056.html
このように、印刷業界では、デザイン力強化に対する意欲が高まっており、社内デザイナーの育成、あるいは外部デザイナーとの連携が今後いっそう進んでいくものと思われる。
●デザイナーとはどんな職業?
デザイナーは、国家資格がないため必要とされる技能が法的には定まっていない。ただし公的資料によるデザイナーの定義から、共通認識を引き出すことはできる。
「日本標準職業分類(平成21年12月統計基準設定)」には、「専門的・技術的職業従事者」の「美術家,デザイナー,写真家,映像撮影者」の中に「デザイナー」という項目がある。彫刻家、画家、写真家などと同じ分類である。グラフィック・デザイナーのほか工業、服飾、ウェブ、CGなど広い分野のデザイナーがここに属する。
厚生労働省編職業分類では、「デザイナー」をさらに細分類し、「グラフィックデザイナー」「ウェブデザイナー」などの項目がある。ブックデザイナーは、「他に分類されないデザイナー」の中にあり、グラフィックデザイナーとは違う職種として扱っている。
https://www.hellowork.go.jp/info/mhlw_job_dictionary_02.html
国が定めた基準において、デザイナーは美術家に近い技術職として扱われている。商品、サービス、販促プロモーション、各種メディアなどの視覚表現を担う、創造、造形、表現技術の専門家といえる。美術家との違いは、クライアントが存在すること、チーム作業が多いことから、マーケティング知識やコミュニケーション力も求められることであろう。
●印刷業界にデザイナーは何人いる?
国勢調査では、産業別および職業別の就業者数を調べることができる。
平成22(2010)年国勢調査によると、15歳以上就業者総数5960万7700人中、デザイナーは17万9570人となっている。そのうち「印刷・同関連業」の就業者総数は42万6100人、デザイナーは7610人である。
「印刷・同関連業」は「印刷業」「製本業,印刷物加工業」「印刷関連サービス業」の3業種で構成されるが、最も規模が大きいのは「印刷業」である。
・印刷・同関連業の就業者総数/デザイナー数
「印刷業」 37万3170人/7160人
「製本業,印刷物加工業」 3万2700人/30人
「印刷関連サービス業」 2万230人/420人
日本のデザイナーの約4%が印刷業界で働いている。産業内のデザイナー比率を見ると「印刷業」は1.92%、製版業などが属する「印刷関連サービス業」はもう少し高く、2.08%である。
印刷業におけるデザイナー比率については、もう一つの指標として、 全日本印刷工業組合連合会の平成25年度「印刷業経営動向実態調査」がある。部門別就業者数を問う設問について、回答のあった529社の中で、デザイン部門の1社平均人数は3.5人、構成比は8.3%となっている。
同じ印刷業でも、規模、事業領域、事業戦略などの違いによって、各事業所のデザイナー比率は変わるものと推測される。
●デザイナーが多い産業は?
平成22年国勢調査において「印刷業」のデザイナー就業者数は、産業小分類253項目中6位である。製造業に限っていえば1位であり、産業内のデザイナー比率も「印刷関連サービス業」に次いで多い。
そのほかデザイナー就業者数が多い産業を見てみよう。
「デザイン業」
「学術研究,専門・技術サービス業」の「専門サービス業(他に分類されないもの)」に属する。工業、インテリア、商業、服飾など各種デザイン業。
「インターネット附随サービス業」
平成17年国勢調査で新設された項目で「情報通信業」に属する。ポータルサイト・サーバ運営業、ASP、電子認証業、情報ネットワーク・セキュリティ・サービス業、ホームページデザイン業、ホームページ作成業など。
「広告業」
「学術研究,専門・技術サービス業」に属する。総合広告、新聞広告、インターネット広告、屋外広告など。
「ソフトウェア業」
「情報通信業」の「情報サービス業」に属する。受託開発ソフトウェア業、プログラム作成業、情報システム開発業、ソフトウェア作成コンサルタント業、組込みソフトウェア業、パッケージソフトウェア業、ゲーム用ソフトウェア作成業など。
「広告制作業」
平成22年国勢調査で「その他の専門サービス業」から分割された。「情報通信業」の「映像・音声・文字情報制作業」に属する。印刷物に関わる広告制作業、広告制作プロダクションなど。
印刷業と合わせ、日本のデザイナーの約7割が上記の産業で働いている。
特筆すべきは、「インターネット附随サービス業」の勢いだ。デザイナー数は2005年の1万5105人から2010年の2万3840人と、5年間で約1.58倍増加し、広告業を抜いて2位となっている。産業内のデザイナー比率が29.33%とかなり高い。
「ソフトウェア業」も、2005年の5951人から2010年の8670人と、5年間で約1.46倍の増加である。ただし産業内のデザイナー比率は1.01%と低い。
「広告制作業」はデザイナー比率が40.28%と、デザイナーへの依存度が強い業界である。
印刷業のデザイナー数は2000年には8753人でデザイン業、広告業に次いで3位であったが、2005年は6392人に減少。2010年は7160人とやや持ち直している。来年2015年実施の国勢調査を注視したい。
デザイン業は、当然ながらデザイナー就業者数が最も多いが、就業者数は減少傾向にある。広告業も減少傾向である。
以上の業種、特に「インターネット附随サービス業」「ソフトウェア業」は、印刷業にとって競合の対象にも、コラボレーションの対象にもなり得る。その業界動向とデザイナーの役割について研究する必要があるだろう。
印刷業は、インターネットやソフトウエアなど、この10年間に台頭した業界の勢いに押されてはいるが、依然としてデザイナーが活躍している産業の一つである。それはすなわち、創造性の高い産業といえる。印刷会社の経営者、デザイン部門の責任者の方は、デザイナーの力をさらに引き出し、訴求力のある魅力的な製品、サービスを生み出していただきたい。
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