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組版を設計する場合、本はどのように読まれているかを考慮する必要がある。
読者は、本のどこに注目し、どんなことを考えながら読んでいるのか、そのために組版の設計では、どんな問題があるのか、といったことである。
ここでは、私の個人的な経験をもとにいくつか考えてみよう。
本の読み方と組版といった場合、どちらかというと、精読やごく普通のスピードでの読み方よりは、速いスピードで読む場合の方が組版の問題点が見えてくるように思われる。速いスピードで読む場合、条件がきびしくなるので、より読みやすい品質の組版が要求される、ということかもしれない。
なお、組版の品質に問題があっても、読みたいという欲求があると、ある程度は無理をしてでも読んでしまう。
かつて、B5判、横組(1段組)で、1行の字詰が45字を超えていて、しかも行間が四分くらいの本を読んだことがある。とても読めたものではなかった本であったが、どうしても読みたい本であったので、無理をして最後まで読んでしまった。
また、見出しなどの一部ではなく、本文の文字に色文字を使用した例がある。
これもできれば避けたいが、どうしても読みたい場合は、かなり無理をして読むことになる。これらでも読める、ということになるのだろうか。
本を読む場合、読書の目的や、その内容によって、異なった読み方をしている。
まず、精読とよばれる方法がある。教科書のように、じっくりと繰り返し読む、あるいは一読して理解できない場合などでは、分節ごとに考え考え読んでいくこともある。
通常は普通のスピードでの読み方が多いが、この場合でも、最初は、理解するための要素が多いので、ゆっくりと読むが、ある程度読み進むと、読むスピードもあがってくる。
このような読み方では、極端に字詰が多い、あるいは、行間が狭いなどといった場合は、読みにくいなと思うが、それでもなんとか読んでしまう。前述したような場合は除外して、通常の品質の組版であれば、問題点をそれほど感じない。
文字サイズが辞書のように極端に小さくても、その読む分量が多ければ問題が出るが(ずいぶん昔のことであるが、文字サイズが7ポイントの本を何ページも校正して目がいたくなったことがある)、読む分量が少ないのであれば、読んでしまう。
読み慣れた内容の本であれば、かなりのスピードで読む。字面をなぞるように、普通の本の読み方の2倍から3倍のスピードで読む場合も多い。
こうした読み方をする際に感じることは、詰め組の本の読みにくさである。通常のスピードであれば、やや読みにくいかなと感じる程度であるが、それなりのスピードで読んでいくときは、字間が通常でないと、目が素直に字面を追っていかない。ややぎこちない動きをするようにも感じる。その意味では、あまり詰め組は薦められない、と私は考えている。
詰め組の例を図1に示す。
(図1)
さらにスピードをあげて読む場合もある。その方法はいくつかあるが、私の場合、2つの方法で読むことが多い。
ひとつの方法は、個人的には“漢字読み”とよんでいるが、漢字だけを主に読んでいく方法である。
日本語の文章での文字の使い方は、一般的にいえば、概念を表す部分(名詞・動詞・形容詞・形容動詞など)は漢字を使用し、補足的に付く部分(活用する語の語尾、助詞・助動詞、形式名詞など)は平仮名を用いる。
そこで、主に漢字だけを読んでいく方法でも、ある程度の意味を読み取ることが可能になる。
このような読み方をする際には、漢字と仮名とのバランスが問題で、漢字に対し仮名がやや小さく、漢字だけがすぐ目に入ると具合がよい。
(これは通常の読み方でも要求される。)
もうひとつの方法は、個人的に“段落読み”とよんでいるが、段落を単位に読んでいく方法である。
これはどんな本でもできる方法ではないが、段落の構造に注意して書いてある本では可能である。つまり、先頭の文でトピックや主張を提示し、以下の文では、その内容を補強し、必要があれば、段落の最後の文で結論や要点を述べるという形式で書かれた本である。
このような本では、段落の先頭の1文だけ(必要に応じて段落最後の文も)を読んでいく方法が可能になる。これでも、それなりに内容を把握できるケースがある。
このような読み方では、段落の先頭部分が明確に分かる必要がある。段落の先頭は、一般に全角下ガリにしているので、これが手がかりになる。なかには、全角下ガリにしない本もあるが、このような読み方をすることを考慮すると、それは望ましくないといえよう。
■参考(JAGAT通信教育)【DTPオペレーションに役立つ日本語組版】