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もう一度学び直す!! マスター郡司のカラーマネジメントの極意/郡司秀明[20]
この連載も20回目を数え、『プリンターズサークル』誌とともに次号で終了となる。まだ取り上げたいテーマは山ほどあるが、ここで一回まとめておくこととする。
まずはトラッピングについて復習しておく。ここでのトラッピングはDTPで言うところのニゲ・カブセ処理としてのトラッピングではなく、印刷適性つまりインキ転移特性のことである。そしてこのインキ転移特性改善(普通は印刷適正改善と言う)のために、UCRやGCRを使用してCMYインキをBkインキに置き換えることについては、印刷常識である。
UCRとGCRを厳密に区別することもないと思うが、アナログ時代(今でも新聞などではUCRを使うが、一般的にはGCRの一つとして捉えられている)はグレー成分を正確にスミインキに置き換えるのは難しかったので、シャドー部だけCMYインキをスミインキに置き換えて印刷適正改善するものをUCR(アンダーカラーリムーバル)と呼んでいた。
デジタルになってハイライト側まで完璧にスミインキに置き換えられるようになると、シャドー部や中性色のグレーに限らず色の濁り成分、つまりCMYインキの中でのグレー成分だけをスミインキに置き換えることまで可能になり、GCR(グレイコンポーネントリプレイスメント)、つまりグレーコンポーネントをスミにリプレースするというような言い方が定着した。
デジタルになれば濁り成分をすべてスミインキに置き換えて2色(必要色)+スミという特殊再現法もそれほど難しくなくなった。これをドイツ語ではUnbuntaufbau(無彩色印刷)と表現し、英語(Photoshop)的には100%GCRもしくはフルGCRなどと呼んでいる。100%以外は何%GCRと呼んだり、ただGCRと言ったりしている。ただしドイツでも最近は英語表記が一般的になっており、普段使用されるのはGCRである(かたくなに自国語を守っているのはおフランスだけ?)。
恐らくUnbuntaufbauとは日本語の下色除去のように非常に硬いイメージなのだろう。日本の印刷業界では横文字、特に3文字略語を必要以上に毛嫌いするようで、何でもかんでも横文字にするのには閉口するが、何でもかんでも日本語というのも閉口してしまう。
ただしCMSとこの連載に書いてあれば、ほぼ100%カラーマネジメントシステムのことであるが、Web関係でCMSと書いてあれば、99%コンテンツマネジメントシステムのことを指す。このように意味を分かっていないと3文字略語は非常にやっかいな存在であるのは事実である。大事なことは、上べではなく中身を理解しておくことなのである。
さてGCRの薀蓄(うんちく)は分かったとしても、肝心の中身が分かっていない。実は日本と欧米ではスミを取り巻く環境が全く異なっているというのが困りモノなのだ。欧米では昔からGCRを多用した製版が使用されており、日本でも印刷適正で有利なGCRは認められており、実験室レベルでは高評価が得られていたのだが、本番の仕事となるとどうも嫌われる傾向が強かったのだ。それは「反対色をスミ版に置き換えるGCRの場合は、印刷が安定していれば良好な結果が得られるのだが、印刷が不安定になりドットゲインが大きくなった場合は、著しい彩度低下、スミっぽい結果を招いてしまう」からであった。
標準的な印刷条件(ドットゲイン一定)を常に維持できれば、100%GCRは「ツヤ」「ボリューム」「モアレ」といった問題は残るものの、カラーマネジメント的には問題ない。しかしドットゲインが大きくなった場合は、色そのものも問題になってしまうのだ。ドットゲインがないと仮定すれば、例えば茶系の色はノーマルでY100%M100%C48%Bk0%、100%GCRはY95%M95%C0%Bk46%となる。ところが中間で20%くらいのドットゲインがあると仮定すると、彩度が異なってきてしまう(図1)。
理由はシアンインキが下色を透過するがスミインキは透過しないように、スミインキの透過性が低いことに起因する。従ってYMで表される赤色成分は、YMの色成分がスミインキを透過しないためにドットゲイン分が失われ、GCR量が多ければ多いほど、特に100%GCRは彩度が低下し「スミっぽく」なってしまう。しかし問題になるのは日本のみで、欧米ではスミインキが日本に比べて濃度が薄く下色をある程度透過するので、この彩度低下は日本ほど問題にならない。
その証拠として日本では「スミノセ」という言葉があるくらいなので、スミインキはスペードのエース的存在で、スミ下がどんな模様であろうと覆い隠してしまうが、欧米では「リッチブラック」と言ってスミ下を処理しないと下地の模様が見えてしまうのだ。だからスミ下をC50~60%くらいの平網にするリッチブラック処理が必要になり、欧米ではリッチブラック処理もDTP常識と認識されている。
一般的なRIPではスミノセON、リッチブラックONという設定があり、毛抜きになっていても自動的にスミノセにしてしまったり、リッチブラックになっていたりするので注意が必要である。大昔のRIPはこういうニゲ処理(トラッピング処理)が全くできなかったのだが、リッチブラックが付加され、スミノセ処理が追加されると、今度はオセッカイを焼き過ぎたりすることが逆に問題視されたりすることがある。
デジタルカメラが日本に普及し出したころ、勉強熱心な人(カメラマンが中心)は欧米のDTP関連の専門書を勉強(まね)していた。例えばアメリカの標準印刷規格であるSWOPを使ってデジカメのRGBデータをCMYK変換していたのだが、多くの印刷人は「デジカメは色が悪い。スミっぽい」と文句ばかり言っていたのである。しかし、真実はデジカメのデータが悪いわけではなく「日本の印刷条件に適したICCプロファイルがなかった」という一点に尽きる問題だったのである。
紆余(うよ)曲折の末、日本(人)の日本人による日本人のためのICCプロファイルがPhotoshopに載ることになった。それがJapan Color 2001 Coatedで、日本の標準印刷用プロファイルなのだ(図2)。対するバタ臭さたっぷりの印刷標準がSWOPだが、CMYKの調子再現を見ていただければ中間からシャドー側にかけて調子がスミに依存しているのが分かると思う(図3)。
だからデジカメデータがスミっぽくなってしまっていた。SWOPはオフ輪用で、Japan Color 2001 Coatedは枚葉印刷用だが、日本版SWOPとも言えるJapan Color 2003 Web Coatedが、今までオフ輪用すべてに使用されていた雑協カラーターゲット(に準拠した)Japan Web Coated (Ad)に追加されてPhotoshop CS4から標準で添付されている(図4)。
現時点ではこのプロファイルを日本のアドビサイトからはダウンロードできないが、米国サイトに行けば無料でダウンロードできる。総インキ量で見るとSWOPは300%、JMPAとJapan Color 2003 Web Coatedが総インキ量は320%で、たかだか20%違いだけなのだが、スミ版カーブは大きく異なっているのが見て取れると思う。参考にJapan Web Coated (Ad)も図5として掲載しておく。
ポイントを個条書きに整理してみる。
2の標準印刷が大事であるというのはCMSの基本である。印刷の地位低下(メディアの中での相対的地位)をこれ以上招かないためには、標準化が絶対に必要である。同じデータをA社B社に出したら、全く結果が異なり、「わが社はB社より印刷がうまいから、結果は異なって当然です」なんて話を自慢げにされると興ざめである。そんな話ばかりだとクライアントのほとんどは、印刷そのものに懐疑的になってしまうだろう。
印刷の標準化は北米で進み、すぐその後を欧州が追い掛けるという感じで普及した。印刷発祥の地(ドイツFOGRAを中心として)としての自負もあるのか、現在では欧州のほうが規格という点では半歩リードしているように見受けられる。ただし規格化の目的の中で、一番重要視されているのがコストダウンであり、ワークフローの合理化(ワンパス化)、アウトソーシング化などに重点が置かれており、品質というキーワードに反応する日本とは少々ニュアンスが異なっているようだ。
表1に世界の標準印刷規格を掲載しておくが、PDF/X-1aだってこの世界的に認知された標準印刷規格に準拠したデータでないと全く意味がない。A社の自社標準は品質が良いからと「A社準拠のPDF/X-1a」などと言っていたら、昔のネイティブデータやEPSと何ら変わりがない。
JAGATでは、「標準規格、標準的なプロファイルが大事」なことを説いて回っているのだが、このプロファイルを自作することがCMSと勘違いしている人が多く、メーカーでも独自にプロファイルを作っている会社が少なくないのには手を焼いている。本家本元の日本印刷学界も昔はJapan Colorキットにプロファイルを添付していたが、ついにやめることにしたのである。理由は、アドビが提供するプロファイルのほうがはるかに信頼できるし、品質的に間違いがないからだ。図6の掲載例はアドビのプロファイルでCMYK分版した品質、図7は日本を代表する大メーカーのプロファイルでCMYK分版したものである。白黒なので分かり難いとは思うが、トーンジャンプやネジレ現象は見て取れる。このように3×3変換、3×4変換、4×4変換などと便利この上ないように宣伝されてはいるが、私の知っている限り、アドビ以外のプロファイルで変換すれば、やればやった分だけ品質は劣化すると覚悟しておくべきである。
私の実家は染物屋で子供のころの遊びは、特色インキの調肉のような絵の具合わせだった。そんな経験からか?小学校で習った「3原色理論」がどうも私には納得できずに、「3原色のほかに茶系統(イエロー)がもう1色あるんじゃないか?」と先生に質問したのを覚えている。小学校の先生だから「教科書に3原色って書いてあるじゃないの!」的な答えで終わったが、中学では理科の先生が「郡司、良いところに気がついたな」と言って何冊か本を持ってきてくれた。4原色説についてだったが、個人的には確信的なものを持つことができたのである。1976年にCIEからLabが提唱される。
4原色というより「反対色説」という名称なのだが、色をa方向のgとr、b方向のbとYに垂直に2軸をとって表現する(やっぱり4原色?)。これに上下方向の明度Lを加えて地球儀のような立体がLabで表現される色域となる(図8)。色についてはまだまだ解明される余地は多い。自分の目で確かめ、理屈と検証によって実行段階に移すことが重要だと思う。
(『プリンターズサークル』2009年2月号より)
もう一度 学び直す!!マスター郡司のカラーマネジメントの極意