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上場企業2008年度末の業績見通しを総合すると売上高前年比は0.4%減、営業利益は44.3%減になっている。
上場企業(大手2社を含む売上上位7社)の売上前年比は2007年度通期の5.4%増に続いて、2008年度上期も4.8%増と好調に推移していた。しかし、10月以降の大不況によって下期は非常に厳しい状況を迎え、各社とも年度見通しの大幅な下方修正を余儀なくされた。2008年度末の各社の業績見通しを総合すると売上高前年比は0.4%減、営業利益は44.3%減になっている。
一方、中小印刷業界では、2008年年初の1月、2月は前年の水準の低さもあって売り上げはプラスであった(JAGAT会員企業を対象とした「印刷業毎月観測アンケート」)。しかし、2008年3月以降は景気の陰りを受けて落ち込む月のマイナス幅が非常に大きくなって前年割れが基調になり、2008年度上期の売上前年比平均は1.4%減であった。大不況の影響は11月から見られ始め、第3四半期は平均3.0%減の落ち込みになった。従って、第4四半期は5%程度のマイナス成長も予想され、2008年度通期の前年比ベースでは3%弱のマイナス成長で終わったと見られる。
上記の上場企業と中小印刷業の状況を合わせてみると、2008年度の印刷産業の売上前年比は約2%のマイナスと推計される。
出版科学研究所の調査によれば、2008年の書籍・雑誌販売金額は2兆177億円、前年比3.2%減であった。3.2%減は1998年、2003年の3.6%減に次ぐ2番目のマイナス幅である。
書籍については、2008年は予想以上に低調であった。販売金額前年比は1.6%減、販売部数は0.6%減であった。2008年は「ハリー・ポッター」が発行される年でありそのプラス効果が期待されたが、全体をプラスに押し上げることにはならなかった。
ここ数年、書籍市場を伸ばしてきたのは、教養新書、ケータイ小説、映像と連動したエンターテイメント本であったが、前二者のブームは沈静化したと見られている。また、売れ筋は廉価本が主体という傾向も続いている。しかし、2008年は、秋以降に幾つかのヒット作が生まれて全体の販売金額を伸ばし始めてそれまでのマイナス幅を半減させるほどの効果があった。
2008年における雑誌の販売金額前年比は4.5%減、販売部数は6.7%減であった。販売金額、販売部数ともにそのマイナス幅は過去最大、雑誌休刊数は186点で、昨年の218点に次ぎ過去2番目の多さになった。雑誌の販売金額は11年連続のマイナス成長で、この間4345億円、27.8%の減少になった。部数は13年連続の減少、減少部数は14.7億冊、37.8%減である。返品率も2001年以降年々上昇し、2008年は過去最悪の36.5%に至った。全く良いところが見当たらない1年であった。
雑誌不振の原因は、少子高齢化により若年読者の減少によってコミック市場が大幅に縮小したことが大きい。その他の分野では、インターネット、携帯電話普及の影響が大きい。
電通「2008年日本の広告費」によれば、2008年の日本の総広告費は前年比4.7%減の6兆6926億円で7兆円を割り込み、5年ぶりの前年割れになった。
2008年の低下には秋以降の大不況の影響が大きいことは間違いない。しかし、その前に年初からの日本経済の後退もあって、2008年1~6月期でも広告業の売上前年比は2.0%減であった(経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」)。いずれについても、マイナス成長のかなりの部分は2005年以降4年連続のマイナス成長で減少してきたマスコミ4媒体の広告費減少の影響である。その減少幅は2005年の0.7%減から2.0%減、2.6%減、そして2008年の7.6%減と年々拡大してきた。2008年の7.6%減は大不況の影響要因もあるが、その影響がない1~6月期だけで見ても5.7%減である。マスコミ4媒体はシェア49.3%を占めるのでそれだけで上期の市場全体を2.8%は引き下げていたことになり、マスコミ4媒体の構造的な変化による不振が広告費全体の不振の基本にある。
インターネット、携帯電話の登場と進化によって拡大しつつある新たな広告手段がクライアントの「費用対効果追求」にマッチし、さらに媒体の多様化と各媒体の特性と効果をうまく結び付けて活用する「クロスメディアが定着」してきた。このような中で、インターネット広告は16.3%増となり、折込を抜いてテレビ、新聞に次ぐ第3のメディアになった。
折込は、広告費でも大きな地位を占めているが、印刷物需要においても単一品種で見れば恐らく最大のシェアを占める紙媒体であろう。折込市場は、2008年、広告費前年比が6.0%減になったが印刷枚数ベースでも6.0%減になった。
読売インフォメーションサービス『首都圏年間折込広告調査Report2008』によれば、2008年における首都圏1世帯1カ月当たりの折込枚数は598.0枚、前年比6.0%減であった。これはバブル崩壊年の4.6%減を上回る過去最大の減少幅である。また、首都圏だけでなく、全国8地域のすべてで前年を下回った。
業種大分類では、上位3業種で全体の86.8%を占めるが、枚数シェア第1位の小売業の前年比は2.9%減、第2位のサービス業が8.6%減、第3位の不動産業が8.5%減と、いずれも大幅な前年割れになった。不動産業の減少にはインターネットへのシフトが少なからず影響している。
サービス業の折込をけん引してきた遊戯・娯楽場(パチンコ店が主)の折込需要は、2001年の前年比13.6%増から20.7%増、31.9%増、38.8%増、9.5%増と毎年大きく拡大したが、2006年からはマイナス成長に入った。2006年の3.2%減から2007年は11.6%減、そして2008年は6.7%減となった。3年連続のマイナスの主要因は景気ではなく当該市場の縮小とともに、広告に関する規制強化によるものである。このマイナスは、折込市場に大きな影響を与えている。
一時期、日本の印刷・情報用紙の出荷販売量増加分の9割近くを担ったと推計されたフリーペーパー・フリーマガジンの急速な拡大も、2005年時点で年間総発行部数100億部という大台を突破し、2007年秋ごろにはさすがに拡大にブレーキが掛かった。フリーペーパー・フリーマガジンの広告費は、2005年の2835億円から、3357億円、3684億円と3年連続で増加、この間だけでも29.9%増になったが、2008年は3545億円、3.8%減と減少に転じた(電通「日本の広告費」)。
今までは、急速な量的拡大によって印刷物需要拡大に寄与してきたフリーペーパー・フリーマガジンだが、既に量的には天井に達した感があり、今後の注目点は「無料」という意味のフリーではなく、「対象選択」が自由、フリーという特性である。
既に出されているフリーマガジンの中でも、例えば書店に来店する女性を対象にしたもの、ある地域の高額所得者を対象としたもの、小学校入学前の子供を持つ母親を対象としたものなど、かなり絞り込んだ対象に有効な情報を届けることができる。千葉県下でフリーペーパーを出し始めて大きく市場を拡大した地域新聞社は、地域単位で異なるコンテンツを持つフリーペーパーを発行しているが、各部数は3万部が単位であるという。
上記のような個別事例ではなく、この分野における配布対象、クライアント、配布手段の「多様化」というトレンドが、フリーペーパー・フリーマガジンの「対象選択がフリー」という新しい側面を示している。
全日本印刷工業組合連合会『平成20年度印刷業経営動向実態調査集計結果報告書』(調査時期は2008年3月末日直近の決算期分)によれば、売上高は横ばいながら営業利益率は3年連続で低下し、2.0%となった。
中小印刷企業の収益性にとって最も大きな指標は、1人当たり加工高と労働分配率である。1人当たり加工高は2000年度に向けて上昇したが、以降は下がり続けている(図2参照)。当初は売上の減少が主要因だが、2005年度以降は加工高比率が低下したためである。加工高確保のために内製化を進め、利益の目減りを減らす努力によって外注費比率は低下しているが、原材料費比率の上昇を打ち消すことはできなかった。1人当たり人件費は4940千円で3年連続の低下で、労働分配率は56.1%と前年度並みにとどまった。
印刷物需要そのものの拡大が見込みにくくなる中で、ソフトサービスの売上高シェアがこの2年かなり大幅に拡大してきた。今までの努力が実り始めたと言えるだろう。
インターネットと各種媒体を商品、対象に応じて相互補完的に使う通信販売業界では、カタログ、DM、チラシといった印刷物もそれぞれの意味で欠かせない媒体として位置付けている。そして、紙媒体を含めていずれの媒体も購入者の利用率は増加しているが(日本通信販売協会『2007年全国通信販売利用実態調査報告書』)、印刷物の年間発行部数は、過去最大であった2001年に対してカタログが36.7%減、チラシが14.1%減、DMは56.7%減になっている(同『通信販売企業実態調査報告書』)。まさにクロスメディアでの展開が定着した。
広告市場は、ますます個別化する市場に対して、生活者の時系列的、空間的に多様な行動様式に沿ったメディアの創出とネットワークによる連携で最適な広告を配信する方向にあるという。また、単に情報を一方的に伝えるのではなく、その反応を明確に捉える手段の利用が拡大している。
メディア一般の世界では、情報流通量の増加と情報“ゼロ円感覚”の拡大によって、テレビのような少数の圧倒的な支持を得るマスメディアと生活者の個別ニーズに徹底的に対応するニッチなメディアは伸びていくが、それらの中間に位置するメディアは消えざるを得ないという「中間領域の喪失と二極化」の仮説が実証されつつある。そのような中で、新聞、総合雑誌の発行部数は減少し、宣伝印刷物としての折込は景気以外の要因によって減少に向かい、フリーペーパーも前述のような新たな可能性を示しつつ2007年秋をピークに減少し始めた。
メディア全体として、また広告媒体として大量にばらまく印刷物市場は基本的には縮小に向かっているということであろう。
・「2009年度の印刷産業の景況見通し」
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・「月次データ 」
会員誌『JAGAT info』に掲載されている、毎月の印刷関連市場の景況や会員アンケートを掲載