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写真と印刷にできることは、情報を正しく伝えること、知識の集約業務を支援すること、紙とWebの相互展開で情報の鮮度を維持すること。結果として、写真と印刷で高額商品の販売支援に寄与することが可能になる。
社内の知識はカタログに集約され、カタログにない情報は担当者しか分からない。そこで、ミサワホームでは画像データベースに社員がデータを追加する仕組みとして、月刊電子カタログ「EMI」を立ち上げた。さらに、写真の知識集約能力を発展させて、商品や部材の開発者が制作・編集できる電子コラム「Kogumi」を開発した。
(PAGE2009 基調講演「ビジネスを推進するメディア戦略・戦術」 より)
株式会社パラカロ 代表取締役 西田昌史
ミサワホームは創立41周年の戸建て住宅メーカーである。木質パネル構造による生産システムで、年間数万棟の注文施工体制を持ち、お客様の嗜好(しこう)を個別に実現する請負体制が取られている。
住宅会社は、同じものがない請負施工「商品」を扱うため、契約時にはカタチがない状態で数千万円の契約書にハンコを押してもらわなくてはならない。そこで、完成時の姿を正しく認識してもらうために、写真やカタログなど、たくさんの営業ツールがある。
数万点の部材をアッセンブルしたものが1棟の家になるが、40時間くらい掛けて個々のアイテムを選抜する作業を「苦痛」と感じるお客様も多い。そこで、プロとして選抜のお手伝いをすることが、住宅会社の営業手法になる。確認・納得を得るための大量の写真素材、参考作品事例としての内外観写真や、選抜支援のためのアイテム部材写真が社内に大量に存在している。
契約前には夢を相互確認するために、契約後は夢を具現化するために、大量の写真を活用している。
ミサワホームは創立時から撮影・写真管理部門が存在し、大量のポジを保存してきた。しかし、ポジでは再現色の管理が困難なことから、素性の明らかなデジタル画像データの必要性が生じた。そこで、商用印刷やプレゼン用画像を一元化した、独自の画像データベースシステム「GAMUT(ガモット)」を構築し、2000年から運用している。印刷会社の品質管理が重要で、デジタルデータの作り方も含めて協業で取り組み、JapanColor準拠の印刷で想定範囲色に収まるデータを格納し、配信している。
GAMUTに集約された画像データを本社社員500人が活用して、印刷物制作や広報資料に使っている。また、プレゼンテーションシステムなどの関連システムにも画像を提供している。
社内の知識はカタログに集約して具現化されている。カタログに採用されていない情報は、担当者の頭の中にしかない。これを営業担当者に伝えたら営業トークとして非常に有効だ。そのほか、部分最適化された媒体が散乱している。そこで、全体最適化を提起して知識を集約できないかと考えた。
データベースを作るだけではだれも入力しないとよく言われる。実際にミサワホームでも、画像データベースに写真さえ集まらない状況が5年くらい続いた。ツール、例えばカタログを作る時には情報が提供されるのだから、デジタルならではのツールを作れば、情報を入れてくれるのではないか。
そのためのインフラとして、月刊電子アイテムカタログ「EMI」を立ち上げた。エクストラネットにログインして使うシステムで、アイテム部品の分類は、大分類、中分類、小分類まできちんと決めた。新しい写真も、分類が未入力だとEMIに掲載されないというルールを確立して、データ属性をきちんと揃えるという運用にした。
EMIの特徴は新着データで、毎月約200点の新規に追加された画像をまず一覧できる。また、「新発売」欄と「販売終了」欄でアイテムの最新の動きが確認できる。
社内の部品担当者30名が情報のメンテナンスを行い、印刷会社にも協力してもらって、どうするとデータベースにインプットしやすいかまで、全部考えた上でスタートした。既に30号を数え、約6500点の画像が入って、月間10万ページビュー以上となっている。ここに漏れがあると担当者が営業所から怒られるまでになって、インフラとしては十分意味がある。その結果、データベースのデータも整備されていくという恩恵を受けている。
さらに、集めた知識を活用するために、印刷物で言うとコラムに知恵を集約できるのではないかと考えた。画像データベースとリンクした「Kogumi」では、複数の写真を選抜し、タイトルやキャッチコピーを入力すれば、デザインされたテンプレートを使って簡単にコラムを発生させられる。
知恵の一番小さな固まりをKogumiという単位で集められるようにして、それを使い回すことで、営業担当者がプレゼンテーションボードを作れるように想定した。さらにEMIに掲載されると相当数の営業担当者が見るので、「今度はあのKogumiが欲しい」と本社に要求してもらうことで、制作点数の拡張を後押ししてもらえないかとも思っている。
単なる画像データベースだったGAMUTが、EMIを出力するツールになって、さらにKogumiを制作するツールにも進化している。カタログという紙面のレイアウトに依存して大事な情報が登録できないのなら、そういう制約をやめて、カタチとデザインと知識を分けようというアプローチでもある。
今は本社でGAMUTを使ってKogumiを作って営業所に展開するという流れだが、営業担当者が既存のKogumiを好きな写真に変えて新たなKogumiを作って提案できれば、プレゼンテーションボードを作る労力も軽減できる。そういうインフラを作ってみたい。
再利用前提でストックしていることを前面に出さなくても、作ったものが無駄にならないし、後で使い回せると感じていただけるようなインターフェイスを開発していきたい。現在1200点しかないKogumiを、2倍、3倍に増やしていければ、ミサワホームの知識データベースとなるだろう。
写真は情報量が非常に多いので、うまく使えば情報を正しく伝えることができる。写真が知識を投入するためのきっかけになる。
Kogumiでは写真を何点か選んで、その写真を使って伝えたいことを解説する。知識の集約業務を支援する役割も写真にはあるのではないか。
EMIを印刷媒体にしたアイテムカタログも年1回発行している。情報が古くなってしまう紙と、毎月最新の情報を付加していくWebの相互展開で、情報の鮮度を維持しつつ営業支援ができる。
お客様にはミサワ品質の印刷物を提供する。そのために素性の明らかな画像データをGAMUTにため続けて、それを使うというルールをたがえてはいけない。結果として、写真と印刷が高額商品の販売支援に寄与できるという展望の下で、新たな開発提案と運用支援を続けていきたいと思っている。
(『JAGAT info』2009年3月号より抜粋)