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2008年度の印刷会社経営には、いくつかの特徴的な変化が見られる。2008年に起きたマクロ経済環境の激変による業績低下は予想されたことだが、数年来の経営トレンドは変化を余儀なくされる部分がありそうだ。
■難しい状況にあった2008年の印刷会社経営
JAGAT会員の印刷会社を対象にした2008年の経営状況に関する「2008年度JAGAT印刷産業経営力調査」の結果がまとまった。JAGAT会員印刷企業の売上高は前年比99.4%と4年ぶりのマイナスになり、売上経常利益率は2.9%と2002年以来の3%割れになった。2008年は年初からの再生紙偽装問題、用紙価格値上げといった通常営業外への対応を迫られた続けたところに9月のリーマン・ショックに端を発した金融危機を迎えた。
■印刷会社経営が迎える転換点
商業印刷を主力にする印刷会社が数年ぶりのマイナス成長になり、好調を維持してきた中堅規模以上の印刷会社が失速、オフ輪保有会社は調査開始以来、初めて売上高が減少した。損益計算書では材料費が外注加工費を上回り、初めて製造原価における最大経費になった。このように2008年の印刷会社経営には従来の傾向と異なる様々な傾向が見られる。
■印刷市場の変化と印刷会社経営
様々な合理化努力や、用紙価格高騰の価格転嫁はあったが、それらを上回る受注減による生産性低下の影響を免れることはできず、印刷会社の利益率は低下した。2000年以降の印刷市場ではフリーペーパーなどの商業印刷物が成長エンジンの役割を担ってきた。史上最長の景気拡大局面は終わり、印刷需要のあり方そのものが変わるだろう。次に印刷市場で成長エンジンの役割を果たす商材は何だろうか。
■印刷会社経営者の戦略
2008年は新規市場や商圏でなく、既存市場や既存商圏を重視する印刷会社の業績の方が優位であった。新規の提案をするには状況が厳し過ぎたし、本格的な景気後退のなかでは一定の既存顧客を持つ印刷会社が相対的に有利であったと思われる。ただし、だからと言って新規商圏への進出や官公需から商業印刷物へのシフトなどの動きはもちろん否定されるべきでない。また、最重点と考える投資分野の最多が従来の「印刷工程」から「人材」へ変わるような変化もあった。
■変化をどう捉えるか
2008年に起きた変化については、(1)金融危機などマクロ経済環境の激変による一過性のショック要因、(2)メディア環境の変化による継続的な構造要因、(3)資材料価格高騰及び再生紙偽装問題による用紙全般への不信、に3分類して捉える必要があるだろう。また、時間が解決する問題、解決にはイノベーションを必要とする問題に分けられるだろう。しかしこれだけ大型の景気後退である。不景気の中で印刷需要を喚起する、従来とは異なる手法が課題になることに違いはない。
■設備投資対象の不在
次年度の設備投資については、ここ数年では初めて「前期より減らす」印刷会社(31.5%)が「前期より増やす」と答えた印刷会社(23.3%)を上回った。設備投資を抑制する傾向が強まっている。近年は印刷に関する設備について目立った技術革新がなく、あっても付随的な追加機能的な機器類の開発が中心なことも一因であろう。デジタル印刷機へ移行する顕著な流れが見られるわけでもなかった。印刷会社の貸借対照表を見る限り、投資余力がないわけでなく、投資魅力を感じられる設備が少ない印象を受ける。
■結果報告及びレポート
多忙ななか、詳細な設問から構成される本調査に回答をいただいた150を越える印刷会社の方々に、心より御礼申し上げる。おかげさまで31回目となる本調査を終えて結果を報告することができた。本調査の結果及びその分析は一冊のレポート「JAGAT印刷産業経営動向調査2009」にまとめ、6月中旬に回答企業に献本を送付する。ダイジェストについては、2009年6月15日、7月15日発行のJAGAT会員限定の月刊誌「JAGAT info」6・7月号に掲載する。先行き不透明な時代の印刷会社経営と印刷市場の考察にお役立ていただければ幸いに思う。
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