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大日本印刷の出版ビジネス戦略が何かと憶測を呼んでいるが…
出版月報の5月号の巻頭言に、出版業界の年間売り上げ2兆177億円に対して、大日本印刷の売上げは1兆5848億円もあり、その大日本印刷が書籍流通に関するさまざまな業務提携や企業買収を最近立て続けに報道発表していることから、出版業界にとって台風の目であるという文があった。最近の主な動きとしては次のようなことがある。
2008.02 図書館流通センターを子会社化
2008.08 丸善を連結子会社化
2009.03 ジュンク堂を連結子会社化
2009.05 主婦の友の筆頭株主に
2009.05 ブックオフの株式を大手出版社とともに29%取得
大日本印刷北島社長の言を借りながら、BtoC戦略・戦術の印象とか、垂直統合ではないだろうが縦展開の予測などが書かれていた。
しかし日経ビジネスONLINEに載った大日本印刷の森野鉄治常務取締役のインタビューはそれらとはかなり趣が異なった。大日本印刷は日本の産業の成長分野に沿った拡印刷をしてきたことを振り返って、改めてみると出版社の仕事の比重がこんなに小さかったのか、ということをいわれている。つまり出版業界に迫る売上げの中身は、出版とはかけ離れて成長したということだろう。
日本の出版は長期の低落傾向にあり、それはデジタルやネットの影響とか、ブックオフのせいのようにいわれているが、書籍市場推移を見ると世界的に日本だけの異常現象で先進各国ではまだ伸びている。一時期は人口では日本の倍以上あるアメリカに近いくらいに膨らんだ時期があったのが是正されてきたのが近年の低落だったのかもしれない。ただ今はまだ出版バブルの延長線で仕事をすると返本率が増えてしまうので、何らかの手は打たなければならない。
森野常務はブックオフについてもバーゲン本市場として位置づけて、結果的には読者を増やすという考えを示している。また従来の書店という枠を越えた、シネコンプレックスならぬブックコンプレックスの夢とか、すでに一部は姿が見えている在庫なしのオンデマンド本、電子書籍、ICタグなど、日経ビジネスONLINEのインタビューの内容は多彩で、少なくとも大日本印刷が既存の出版ビジネスそのものに手を出してくるのではなく、次世代の出版の模索を自ら手を出す形で行い始めたのだといえるだろう。
今まで電子出版が出版界で取り沙汰されて30年近くが経とうとしているが、実際にこの未知の世界に身を投じた出版社はごくわずかだった。多くの会社は気にはしていて、電子書籍などにささやかなお付合いはしても、新たなビジネスモデルを作ろうとはしなかった。その間に裏方として出版社の手伝いをしたり、また拡印刷で成長分野の他業種との付き合いを増やした大手印刷会社は、現代的な眼で今日の出版を見直している。それは凸版印刷が起こしたbitwayやshufooなどにもいえることである。こういった経験を背景に、今後出版業界と印刷業界が新たなパートナーシップを築いていくことが始まるということだろうか。
「周辺環境から読み解く雑誌の今後
~雑誌はどこへ行く」 2009年06月26日(金) 14:00-17:30
利用者(永江氏)、流通(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)、印刷(大日本印刷)、書店(富士山マガジンサービス)など、様々な立場や視点で雑誌の世界の変化を捉えるとともに、ディスカッションを通じて、「雑誌はどういうカタチで生き残ることができるか」を考察する。
・読者を置き去りにしてはならない
相次ぐ雑誌の休刊廃刊。雑誌がなくなると、何が失われるのか? 何を残していく必要があるのだろうか?
・大日本印刷がブックオフに出資した理由 (外部リンク)