印刷会社の管理会計と帳票設計に関する知見(1)
CTP/CIP3ワークフロー
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部門別利益管理の導入状況
印刷会社の財務会計帳票を見ると,勘定奉行などのERPパッケージソフトを利用していると見られる会社が少なくない。自社カスタマイズが容易で,数多いユーザーの意見を集約してバージョンアップを繰り返しているので,操作方法や一連のワークフローも大多数の企業の最大公約数的なベストプラクティスに近いものになっている。
財務会計ERPパッケージソフトは,管理会計ソフトを標準装備するものが多く,財務会計とリンケージする形で部門別利益管理ができる。ただし印刷会社の場合,この機能は使われていないか,社内振替価格に相当する仕切価格機能がないために,経費のみが各部門に計上されていることが多い。つまり,管理会計機能は全く使われていないか,使われていても実質的な部門別利益管理として機能していない場合が多いと見られる。
管理会計とその周辺
管理会計とは意思決定会計のことであり,決算や税額算出のための会計とは異なって,経営者が精度の高い意思決定を下すための会計である。その意味で,管理会計と言う訳語は適当でなく,「マネジメント会計」と呼ぶことが妥当ではないだろうか。日本語の「管理」は拘束的な意味合いが強過ぎる。
同様に,普及して久しい「目標管理制度」は,「目標マネジメント制度」と呼ぶことがふさわしい。目標管理制度は目標管理が主目的でなく,マクレガーのY理論に基づいて性善説の立場から,社員の自律的な目標達成へのモチベーションを高めることに主目的を置くからである。中には管理職に「管理をするな,マネジメントをせよ。」と指示を与える社長もいる。
これは管理会計の運用についても言える。杓子定規に予実対比が出るたび予算過不足を細かく追求するようなチェックマン志向だと,社員が予算の枠内でしか物事を考えなくなり,社風は弾力性と創造性を喪失して官僚的になる。特に,印刷業のように同質化された市場で創造力を失うことは致命傷だ。このような局面において必要とされる管理職のコーチング能力は,印刷会社の営業担当者が,顧客に気づきを与え,顧客をより良い方向へ導こうとする顧客視点で営業に臨むとき用いられる能力に似る。
話を戻せば,部門別利益管理に移行する場合,上述のようなソフトの導入済み企業は比較的容易であり,部門別に経費計上できている場合はさらに容易である。既に部門コードの記載された伝票が運用され,部門体系がある程度構築されているからである。この場合,実運用に向けた課題は残るにせよ,理論的には仕切価格を各部門に適用するだけで,財務会計とリンケージさせた部門別利益管理への移行が可能と思われる。もちろん,妥当性ある仕切価格や利益責任単位の策定は簡単なものでないのだが。
2006/08/09 00:00:00
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