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Web設計がコンピュータ産業の二の舞にならないように

パソコンの時代になるまで日本ではパッケージソフトの販売はムリであるといわれていた。オフコンで給与計算をするにしても、各社各様の仕様があって、手間をかけてカスタマイズしていたような時代があった。しかし逆に日本では実は出来合いを好む傾向もあった。全くオリジナルなものを作るよりも、「●●のように」「ウチも」という横並び指向が強く、あまり個別のビジネスの分析をせずに、技術優先の「よさそうなもの」というイメージにひかれてコンピュータシステムが導入されることが多かった。

システムの開発コストが高かった時代は、動かないシステムになってしまうリスクを回避するために、安全なシステムに現実のビジネスを合わせていこうということもあった。しかしこれは主客転倒であり、パソコン時代はデータベースシステムなどのパッケージを使いながら、低価格にカスタムなアプリケーションが出来るようになっている。つまり技術の障壁が低くなるに従って、よりカスタム指向の開発がされるようになるのが当然である。

にもかかわらず、WebやCRMのように新たな技術が登場してくると、技術優先の「よさそうなもの」に傾きがちになる。個別企業のビジネスの分析がされて問題点が明確になっていれば、会計システムでも物流システムでもWebでも設計のスタートは早いし、異なるシステム間の連携をとる際も共通基盤があって折衝が行い易いが、それがないと「よさそうなもの」に惑わされて設計がフラフラしてしまうという悪循環に陥りやすいのが日本のユーザである。

会計システムのように少々システムの使い勝手が悪くても所定の結果が確実に出る場合はともかく、Webのようなコミュニケーションのシステムでは「適当」なことをしていては何の結果もでない。初期のWebが会社案内のような企業の広報的なものであったのが、次第にマーケティングへ、さらにECそのものへと発展しているので、同じWebページの制作といってもビジネスそのものが反映することの重みを捉えなければならない。

サイト設計のバイブル的な書籍に、「Web情報アーキテクチャ」(Louis Rosenfeld, Peter Morville 監訳篠原稔和 オライリー・ジャパン 2003)があるが、この本が日本のWebの本よりも優れている点は、「18章 ビジネス戦略」「19章 企業の情報アーキテクチャ」のように、Web設計者に求める資質に、顧客のビジネスパートナー的な要素を盛り込んでいる点だ。ビジネスのためにWebに投資し、新しく構築しようとしているWebがビジネスに貢献することを期待するクライアントにとっては当然の資質と思っているかもしれないが、現実の日本のWeb制作者にビジネスパートナーとしての意識は残念ながらそれほどないように思う。

それは、JAGATがクロスメディアエキスパート認証制度を開始して、実際に提案書を書くような試験を行ってみたところ、提案の内容の出来そのものよりも、クライアントの企業の沿革や資料から、クライアントのビジネス上の課題を読み取るところが弱い受験者が多く、日常からクライアントがどんなところで稼いでいるか、稼ぎきれないでいるか、といったことに対して意識が鮮明でないのでは、と思わされた。

合目的的なメディアを作る情報デザインの基盤は、前述の書籍では「ビジネスのコンテキスト」「コンテンツ」「顧客の理解」ということになり、ビジュアルやユーザインタフェースだけが突出した要素ではなく、ビジネス活動において変化している部分にも敏感になって、総合的な設計をする必要がある。ましてWeb関連の応用技術は「なまもの」で、動植物が成長し衰退するように技術が旬の期間は限られているので、それを資産として持ちつづけるわけにはいかないし、技術を振りかざして顧客をねじ伏せることはできないものであることをわきまえておくべきだ。

わきまえるべきは、顧客が評価してくれることは、ビジネスのコンテキストの理解や、顧客の顧客の理解であり、そういう人的スキルを磨かなければ、技術も制作スキルも活かすことができない。

関連情報 : クロスメディア研究会 tech Seminar
2006年9月21日(木)受け取る側の立場に立った「情報デザイン」とは?

2006/09/14 00:00:00


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