9月5,6日の2日間、タイ国バンコク市でHPグラフィックオデッセイのイベントが開催された。本イベントは毎年開催されているが、昨年、Scitex Vision社(以下Scitex)を買収したことにより、従来と異なり今回は産業用IJを含めた総合的な戦略・製品紹介の場となった。タイ国では、イベント終了後、クーデターが発生したが、もともと仏教への信仰が厚い国であり開催中も市中は平穏であった。国民の中でプミホン国王への尊敬の念が高く、黄色いTシャツを着た若者も多い。国王や国王ご夫妻の肖像画がバンコク市内各所に見られ、ビル壁面に国王の姿を掲示した例も見られた。
以下、今回のイベント内容を報告する。
1.印刷分野:
ラベル・パッケージ分野向けの新製品WS4500が紹介された。ラベル・パッケージ市場は、非常に高い成長率が期待されている。
軟包装では4.5%、ラベルは3.5%の年間成長率だが、その中で特にシュリンク・スリーブに関しては7%の成長で、2008年には全体で323億ドルの市場規模が予想されている。
従来、HPではこの分野にWS4000/4050を投入していたが、今回新たにWS4500が投入される。この機械の特徴は、WS4050の機能強化にあり、以下のような特徴がある。
特に、従来スポットカラーや特色交換時に洗浄などの準備作業で1〜2時間掛かっていたが、印字中に交換可能を実現したことが最大の特徴である。ラベル印刷に関しては、1件当たりの印字枚数が5万枚以下のラベルが全体の63%を占めることを考慮すると、小ロットでの生産性を高めることが最大の課題である。また既存の機械の33%が24時間稼動状態であり、機械の生産性(稼働率)向上の鍵として、この機能に対するHP社の期待は非常に大きい。
また、本機ではオフセット印刷との境界印字枚数を6万5000枚/件に設定している。この数字を見る限り、一部インクジェットラベルプリンタやフレキソ・レタープレスが競合機になってくる。ただし、WS4050などの設置台数は全世界で400台という状況を考えると、デジタルでの挑戦はこれから本格化してゆく段階と思われる。
2.サインディスプレイ分野:
この分野では既存のデザインジェットシリーズの新製品と昨年買収したScitexの技術をベースとした次世代IJ(インクジェット)ヘッドである、ヘッドX2の2つが発表された。Scitexの買収効果の一つとして、IJインクに関し商品系列が増えたことが挙げられる。
UVと溶剤系インクに関してはScitex、LowSolventについてはDesignjet(SII)、顔料インクについてはDesignjetとScitex、染料インクはDesignjetというすみ分けが現状ではなされている。1社でこれだけ広い商品を保有する企業は世界的に見てもHP社のみである。
サインディスプレイ市場は過去2年、屋外広告が6%、屋内広告が7%の成長を果たしてきた。このうちデジタルについて見ると屋外広告で30%、屋内広告で13%という非常に高い成長率である。従ってこの高成長分野で各種メディアに対応でき、多様なニーズにこたえることができる強力な体制整備ができたことは、HPにとってビジネスとして非常に大きな意味がある。以下、2つの発表について記す。
(1)デザインジェット10000s:
本プリンタはLowSolventインクを使用している。254cmという超広幅対応で看板標識、屋外広告など用のプリンタである。6色(Y,M,C,K,LC,LM)インクを使用しているが、ほかの特徴として、
などがある。アジア各国で9月より発売されているが、日本国内では発売未定とのことである。
一方、Scitex製品はDesignjet製品より印字速度で5倍程度高速であるが、今回新たにUV硬化インクを使用した新世代X2ヘッドが紹介された。
(2)X2プリントヘッド:
シリコン加工技術であるMEMSテクノロジーを用いた次世代IJヘッドである。耐食性向上のため、ヘッド部品材料としてシリコン、ガラス、エポキシ樹脂のみが使用され、かつこれらの接着は化学的接合(陽極接合)が使用され接着材などを使用していない。産業用途で必須の耐久性に配慮された構造が採用されている。また、一つのヘッドは128ノズルで構成されマルチヘッドで800dpiの記録が可能である。
また30KHzという高速駆動で50plのインク滴を吐出し、15cpまでの粘度のインクが使用できるとのことである。今回はヘッドの紹介が主であったが、このヘッドは次世代のScitexプリンタ用ヘッドに搭載される。
アジア地域の屋外広告市場は、中国を除くと、日本>インドネシア>インド>オーストラリアの順に市場規模が大きい。日本国内では東京を除くと屋外広告に関する各種規制が多く、かつ「たばこ」の広告跡地を十分に活用するには至っていない。一方でアジア各国では日本と比較するとこのような規制が大幅に緩和されているようである。
今回のイベントが開催されたバンコク市では大型の広告などが高速道路脇に多数設置されているのを見かける。また、ビル壁面に写真画像を貼り付けてアピールする例も何カ所かのビルで目に付いた。Scitexでも新機種が日本ではなくタイに1号機が入る例も出てきているという。このような点を考えると、サインディスプレイ分野では、歴史の長い文化をもつ国では屋内広告が、規制の少ない国では屋外広告を中心に成長してゆく可能性もあろう。
以上、今回のイベント概要を報告した。デジタルプリントの活用分野は商業印刷のみではなく産業用途でも着実に立ち上がりつつある。各社はこの市場変化に対応し、研究開発や市場開拓などに注力しつつある最中であるが、その中でHPはニーズにこたえる多様な手段を提供できる体制を着実に作りつつある。本年初に高井戸事業所にサポートセンターを開設したことも、このような一連の流れの施策のひとつである。デジタルプリント市場拡大に向けたHPの今後の活動に期待したい。
2006/11/14 00:00:00