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印刷業は変革の抵抗勢力か!?


〜印刷メディアはまだまだ進化できる〜

 DTPが本格的に普及をして十年余り。製版・印刷環境の大きな変化に対し総体としてはうまく対応できたというのが異口同音の評価ではないだろうか。 良くも悪くもパソコンが生産現場でこれだけ活躍している業界はほかにはいだろう。長い印刷の歴史から見ればたかだか十年余りの変化であるが、その変化の大きさ、速さはかつてない経験であった。1万人を超えるDTPエキスパートといった人材の誕生も業界の努力の賜物(たまもの)であろう。ところが最近「変革の抵抗勢力の一つが印刷業だ」という辛らつな意見を目にした。これはいったいどういうことなのか…。発端はどうであれデジタル化に対応してきた印刷会社を抵抗勢力呼ばわりされるのは心外だ。なぜだろうか!

■デジタル化は何のために?

 印刷業界のデジタル化は、各アナログ作業をコンピュータによるデジタル作業に置き換えることから始まり、工程全体のフルデジタル化で大幅な工程統合が行われ、印刷工程のワークフローは大きく変わった。もちろんデジタル化は印刷だけのことではなく、社会全体のデジタル化と軌を一にしていることは当然である。新しい社会インフラの上で始まったビジネスの仕組みは従来とはかなり違っている。新ビジネスだけでなく従来からのビジネススタイルにも大きな影響を与えていることは周知のことである。その中で印刷メディアが果たす役割も変わらざるを得ないことは当然であろう。 数年前から「部分最適から全体最適へ」と言われているように社会の中で情報をどのように循環させればいいかをメディア全体の最適化を基に再構築しなければ、価値を高めることが難しくなっていることを理解しなければならない。 印刷会社が新しい役割を果たすには、クライアントや市場を含めた大きな情報ワークフローを考える中で、自社の新たなビジネスモデルを描かなければならない。つまり、今話題の言葉を使えばWeb2.0環境の中での印刷メディアの最適化案を要望されているということであろう。そこまでいかなくても、せめてWebメディアを意識した印刷メディアであってほしいということだ。

■コミュニケーションの最適化のために

 印刷メディアをコミュニケーションツールとして最適化するには、印刷だけの力ではできないことは当然で、クライアントを始め多くの企業やグループとのコラボレーションが必要である。そのためには、コンテンツ制作や製造工程を受け持つ印刷会社自身が、印刷メディアという枠を外したところからの発想をもてるかどうかが重要ある。しかし、安直に印刷とは別のことを考える、または印刷を否定するということではない。自社の強みやコアを否定しては会社が成り立たない。つまり、印刷メディアを時代とともに進化させようということなのである。進化とはほかのメディアとのクロス化を図ること、大量複製行為は印刷機能の一部に過ぎないという再定義であろう。印刷メディアとしての進化が見えない、またそれに積極的に取り組んでいないという見方と、印刷会社の役割が大きいことの裏返しが「抵抗勢力」という表現になったのであろう。 冒頭で「これだけデジタル化に努力したのに…なぜ」と述べたが、実は評価の次元が違うのである。これは真摯(しんし)に受け止めなければならない言葉である。言い換えれば「クライアントとのニーズが乖離(かいり)し始めている」という言葉につながっている。デジタル化による社会環境の変化は点ではなく面状に拡大していることから、単純にクライアントと自社の接点を中心に物事を考えていると、これからのビジネスの広がりや早さに対応し切れなくなることを言っているのである。デジタル化が既に新しい段階に来ていることを再認識していただきたい。 コミュニケーションには伝える内容(コンテンツ)と具体的な形(メディア)に仕上げる作業がある。元来からそうであったとしても、技術的にはコンテンツと器としてのメディアは一体として扱われていたので、印刷の壁自体が大きな障害とはならなかった(満足度は別として)。しかし、デジタル化によってコンテンツとメディアは分離して扱われることが当たり前になり、そのことがビジネス上有効になりつつある変化の意味をしっかり認識しなければならない。ワークフローを印刷工程あるいは作業と捉える発想を捨てて、クライアントのビジネス全体の変革の一翼を担う立場でワークフローを考えることである。それには従来の営業スタイルでは成り立たない。 ここで注意をしなければならないのが、クライアントのビジネスをサポートする密接な関係を築くことで返って無理難題に振り回される可能性があることである。それをしないためには自社の「戦略」「ポリシー」をハッキリさせることである。つまり、パートナーとしてコラボレーションできることを見極め、その部分については他社に負けない満足度を準備することである。

■抵抗勢力ではなく革新勢力へ

 大手広告代理店で長くクリエイティブディレクターをされ現在グラフィックワーク・コンサルタントの赤羽紀久生氏は「マスコミニュケーションは解体の途上にある」と言っている。明らかにテレビ、新聞の今までの広告モデルは衰退しているが、「テレビ、新聞が消えてなくなることではなく(なくなっては困る)、コミュニケーションの最適化が必要である」と言う。そのためには、従来の商品スタイルやビジネスモデルに惑わされない発想力がいる。確かに、雑誌・単行本の制作プロセスはデジタル化し変わったにもかかわらず、商品としての雑誌のスタイルはほとんど変わっていない。雑誌はもともと雑記事の集まりであることからフレキシブルに組み合わせるという発想、また編集部の壁、出版社の壁を超えた組み合わせ販売をするアグリゲータビジネスがもっと活発になってもいいはずだ。 また、印刷物はネットと違って物流が伴う物である。その物流と印刷提供の分散、集配をどう再構築するかで劇的な変化をもたらす可能性もある。最近の身近なネットと印刷の関係を見ても、ネットを使った発注形態、Web toプリント、Web情報からの印刷物の自動制作、印刷のノウハウをWebに展開する電子カタログ…等々、新しいチャレンジが始まっていることは確かである。これらを実現するには効率の良い質の高いデジタルワークフローが前提である。ワークをデジタルに置き換え、従来からのフローを効率良くこなすということではなく、印刷メディアのワークフロー全体を根本から変えることで、Webとともに進化することが大事である。コミュニケーション環境の大変化の中でまだまだ進化途上である。ワンステップ上のデジタルワークフローにチャレンジしよう。(杉山慶廣)。

(JAGAT info 9月号より)

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2006/11/21 00:00:00


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