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中期経営計画に基づく営業方針に沿った人材育成を

日立インターメディックス株式会社は中期経営計画で、印刷事業をベースに印刷以外の売上比率を全体の2割以上に増加させる方針を打ち出した。ここで重要になるのが、それを実現する人材の育成である。営業の人材育成を統括する営業本部副本部長兼ソリューション営業部統括部長 杉崎明夫氏と同社全般の教育を統括する経営サポート本部副本部長兼総務部統括部長 高橋修一氏にお話を伺った。

拡印刷事業で売り上げを伸ばすための教育

同社では2006年に中期経営計画を策定して、今後の事業の方向性を示した。この中で、その方針の一つとして、クロスメディア展開を行って、クライアントに対してワンストップソリューションを提供していくということがある。そのための営業の人材教育が必要になっており、この中期計画の方針に基づく教育を行っている。

これらの人材には、これまでの印刷業とは違った知識や能力を求められる。そこで、あるべき人材像と、そのために不足している能力を補うことを目的とした教育をスタートした。 それは新たなビジネスを率いていくリーダー教育という意味合いで、各部の若手を中心にしたプロジェクト的な位置付けになっているようだ。従って、この研修に参加しているのは、将来的に新規事業を拡大する若手層を中心に、各営業部から推薦された社員が対象になっている。
クロスメディア展開を行うにあたっては、ソリューションを提供していく必要がある。そのためにはクライアントとのコミュニケーションの中で、課題をきちんとピックアップできることが営業担当者には欠かせない。そこでは営業に提案力が求められることになるが、少なくともクライアントの課題を見つけ出して、社内に持ち帰ることができないことには、ワンストップソリューションの提供は難しい。
「当社ではもともと創注営業ということで、営業に対して提案力を求めてきました。特にクロスメディアでは、提案力が欠かせません。従って、営業は専門的な提案まではできなくても、クライアントの課題を探し出して、それに対してフックになるような提案ができるような能力は最低限必要です」(杉崎氏)

eラーニング+実践研修で

同社が力を入れる新たな事業では、ITやWeb、データベースなどの知識が基本になるので、研修ではまず、その部分をeラーニングで行った。
「eラーニングのメリットは、だれがどの程度進んでいるのか、どれほど理解できているのかなどの受講状況を把握、管理できることです。これによって、各自の進行具合によっては、そのつど必要なアドバイスを行うことができるのです」(杉崎氏)

研修は各営業部から2名ずつ選抜されたメンバーで行っているが、部によって職務内容も少しずつ異なるので、選抜されたメンバーでも、もともとクロスメディア的な仕事を行っている人もあれば、あまり経験のない人もいる。その意味でも、eラーニングで事前に基本知識を学んで、皆が同じレベルの知識をもっていることは前提になるのである。 その後、外部の教育機関から講師を招いて、メンバーが集合しての実践的な研修を行っている。IT関連やデジタルメディアなど全般をターゲットにしているが、まず研修で取り上げたのはWeb関連で、最初のテーマは企画提案のやり方を中心にしたものである。

人作りが受注に結び付く

印刷業界として見ても、今後、印刷自体の売り上げが伸び続けることは望めない。そういう状況を分析し、同社でも現状よりも印刷の売り上げを大きく伸ばすことは難しいという認識がある。紙への印刷はベースになるが、今後は印刷以外の売上比率を上げないことには、成長戦略はあり得ないと位置付けている。

「なぜ、このような研修を行ったかと言いますと、印刷以外のクロスメディア的な仕事の受注を上げるという方針の下に、比率を綿密に分析してみました。その結果、受注できている営業と受注できない営業にムラがありました。そういう意味で、究極的には「人作り」が必要であると思ったのです。
会社の新しい方針に沿って事業を進めていく時に、社員に求められる能力が変わるのであれば、そういった能力を身に着けられる環境を用意する必要があるということなのです」(杉崎氏)

毎回研修に参加しているメンバーは、将来的に新規事業を拡大するコアになってほしい人材であるが、彼らがレベルアップすればよいということではない。彼らがリーダーとして学んだ内容を所属の部門にもち帰って、他部員にフィードバックすることで、部全体のレベルアップを期待している。
加えて、次の段階として各営業部全体が能力アップするための研修も2007年4月以降に計画している。具体的は同社用にカスタマイズした形でのeラーニングを導入して、まずは知識レベルの教育に利用していくことを考えている。 もともと同社の場合は、日立グループの一員として環境経営やコンプライアンスの知識などについて、eラーニングを利用して教育を行っている。このインフラを利用して、クロスメディア事業で必要になる知識など、ベースになる部分の教育を行っていこうというものである。

今後の人材教育の強化ポイント

今後、教育で課題になるのは、前述したように同社の経営方針に合った人材の育成である。つまり、印刷事業をベースに拡印刷の新規ビジネスを伸ばしていかなければ成長が難しいという状況で、それを実現できる能力をもつ人材が欠かせない。これまでの印刷業界全般で、受注産業ということから受け身の部分があるという指摘を、度々耳にすることがある。しかし、特にクロスメディア的な仕事を行っていくには、クライアントから仕事が発注されるのを待つという意識を変えて、積極的に仕事を作り出すような、同社で言う『創注』ということを常に意識してクライアント側の課題に対してソリューションを提供していく必要があると言える。

「クロスメディアという言葉にあまりこだわると、ややもすれば本質を見誤ることにもなりかねません。クロスメディアはいろいろと媒体がたくさんあるということではなくて、クライアントの課題に対してそれを使用してソリューションを提供してこそ価値があるのです。ですから、各メディアの活用についての情報や知識を学ぶことも必要ですが、その上流部分であるクライアントの課題の本質をいかにくみ取れるかが重要なのです。クロスメディアという言葉ばかり意識し過ぎると、クライアントに対する価値創造ということを見失うことにもつながります。そういった本質の部分を理解してビジネスを行える人材を育成していくことが必要になるのです」(杉崎氏)

また、このような能力開発の取り組みに加えて、新たなビジネスにチャレンジするモラールアップも重要な課題である。この取り組みとして、新規事業の扱い件数や売上高に応じたポイント評価制度や、高業績者に対する表彰制度などを設けている。これから、教育のあり方を含めて、その仕組みを整えて、きちんと教育結果を評価して学ぼうというモチベーションを上げることで人材育成につなげていきたいとも語る。そういう意味でも、今後は人的資源マネジメントを強化していくことが重要になるという。


プリンターズサークル 3月号より一部抜粋

2007/04/06 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会