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ドメインが即答できる米国のデジタル印刷会社

2007年6月に米国のシカゴとサンフランシスコで、デジタル印刷機をビジネスに活用している印刷会社6社を訪問する機会を得た。訪問先の経営者に「貴社のドメインは?」とたずねると、皆が即答してくれた。自社に対する熱き思いが明確であるということだろう。ここではシカゴで訪問した3社を紹介する、まずはドメインから。

○フルサービスプロバイダー
○デジタルプリントソリューションズ
○グラフィックソリューションプロバイダー

3社の話をまとめると、ロングテール型の単価が低い小ロット受注は「自動化」「人が触らない」工程の組み立てがポイントであり、企業グループなどが多数保有する拠点向けに対するWeb toプリントの仕組みは全ての訪問先で発注元に提案していた。

パーソナライズやバージョニングといった、可変データ印刷では、顧客データをコントロールできる、データ管理ができる会社が儲かるのだという。

DM用のいろいろな宛名データが簡単に購入できるお国柄のため、例えばリクルートDMを提供するために地域の看護師の名簿を購入しているところもある。DMのパーソナライズというと相手の名前や担当者の顔写真をいれることを思い浮かべるが、実際のレスポンス効果があるのは、「相手が今最も関心を持っていることがコメントされている」ことであって、名前や顔は重要でないという意見は新鮮であった。

しかし営業的には提案型になるので、ある経営者は「わが社で対応できる営業は2割で残り8割の営業には配置転換や転職を勧めている」という厳しい現実もあった。

提案に行く先も、調達担当の人やルーペを持ち出す発注担当者は「安い」ことにしか関心がない。従って、発注元の「メイクマネーサイド」に営業訪問しないとダメであるというが、もっともな話である。

さらに、通常の印刷会社からこのような企業になるため、乗り越えなければならないハードルについて聞くと、「自動化」すべしという意見が最も多かった。ITを活用してできるだけ人が触れないような工程にするということであり、将来投資はIT技術者である。

事例1:Integrated Graphics (VISION)
【ドメイン】フルサービスプロバイダー

シカゴ市内と郊外の拠点を持っているが、2年前にほぼ同規模の印刷会社2社が合併した。市内の会社はデザインやデジタル印刷と小型のオフセット印刷で、合併直前の売り上げは13億円で70人規模。郊外の会社はデジタル印刷、オフセット印刷、フルフィルメント、DM発送などを行なっていて同じく16億円で95人規模であった。

合併2年後の現在までに売り上げは毎年25%ずつ伸びている、現在の規模は190人である。 設備はオフセット印刷機(6色機×2台、4色機×2台、5色機×1台、1色機×2台)、デジタル印刷機(IndigoPress3000×2台)など。

【発注元との関係】
発注元の繋がりが大事であるが「付加価値」を提案・提供できなければダメである。
→しかし発注元の総務や調達の担当者の関心事は「価格の安さ」だけなのでこんな所にいくら通ってもしょうがない。

→営業部門やマーケット部門など、売り上げを追っているような人にアプローチする。彼らが求めているのは「販促の効果」(ROI)であり、これを提案提供していく。

→例えば車のディーラー向けPOS利用の販促システムでは、1枚$3.75のDM価格を貰っているが、ディーラーへの来店客の単価は$300以上になるという。仕掛けは、ディーラーの営業マンがWeb画面でDMを出したい顧客(定期的な整備やオイル交換の勧誘するなど)の内容を入力するだけで、VISIONではそのコメントが入ったパーソナライズされたDMをデジタル印刷して発送する。来店者のレスポンスの入力は、ディーラー15社から来店客のPOS情報を集めて入力し、そのレポートをディーラー担当者がWebで見ることができる仕組みを提供している。
(注)米国には日本のような車検制度が無いので定期的に車を整備する習慣が無い、従ってこのような勧誘が販促につながる。

【提案型営業】
上記のディーラー向けPOS利用販促システムの他にも、専門職のリクルートシステム、家庭医が顧客である患者に送るDM、保険会社のニューズレター、ケーブルテレビの番組ガイドなど、デジタル印刷やオフセット印刷と組み合わせたハイブリッド印刷で作成される、さまざまなパーソナライズ印刷やバージョニング印刷を提案している。

営業担当者にこのような提案型営業を行なうように仕向けているが・・・
→対応力がある営業員は2割ほどである。
→残り8割の営業員には残念ながら配置転換や転職を勧めている。

【投資の力点】
IT技術者の確保が重要である(現在IT技術者はハード系2人、ソフト系6人)
→データベース技術者
→プログラマー
→Web開発者
→デジタル印刷

【伸びているビジネス】
データ・ドリブン・プリントでありプログラムを使って自動的に仕事が回るような、継続性のある仕組みになっている。
→顧客データのコントロールができる会社が儲かる。
→顧客のデータを管理している会社が儲かる。

事例2:RT Associates
【ドメイン】デジタルプリントソリューションズ

シカゴ郊外で元は製版会社。1995年に最初のデジタル印刷を導入し、機種を変えながら現在にいたる。現在の売り上げは15億円で規模は68人。
客を逃がさないためにオフセット印刷機(5色DI機、4DI色機)も持っているが、成長性があるのはデジタル印刷機であるという。

【発注元との関係】
大手電気会社のディーラー1000社向けのWeb toプリントのシステムの導入に成功した。 いわゆるロングテールの仕事(単価2〜3万円)をITの仕組みで集めている。内容はテンプレート利用(400種)によるDM受注である。
→システム開発資金はメーカーである電気会社が負担した(メリットは自社系列ディーラーの販促支援であり、競合他電機メーカーへの優位性確保)。
→このWebサイトからは毎日、100〜200件の受注が入ってくる。
→1000店あるディーラーのスタッフへの使い方講習も受注した。

同様の仕掛けを数社の大手企業に売り込み、成功している。

【ビジネスのポイント】
Web toプリントのシステムは、入稿後も人手をかけないオートメーション化の仕組みにしておくことが重要である。

大手企業であっても「事業部」に的を絞れば数百人規模の顧客と同じことである。

売り上げは、システム構築費とテンプレート更新費はメーカー持ち、Web受注の印刷代はディーラー持ちとなる。

代理店を通さないで直接取引している。

【投資の力点】
オートメーション化
→Web開発
→システムインテグレーション

事例3:Unique Printers and Lithographers
【ドメイン】グラフィックソリューションプロバイダー

シカゴ郊外の印刷会社で1936年創業、1995年にはこの地区で最初のデジタル印刷機を導入している。売り上げ16億円で規模74人である。
設備はオフセット印刷機(コモリ 6色機2台など計4台、ハイデルDI機1台)、デジタル印刷機(IndigoPress5000)、折り機、製本機など。

【発注元との関係】
顧客は通常の印刷会社を「コスト」を支払わなければならない所と見ている。
→調達担当の人やルーペを持ち出す発注担当者は「安い」ことにしか関心がない。

発注元でも「メイクマネーサイド」に営業に行かないとダメである。
→コストダウンで売り上げUpになるような提案営業を行なってくる。

大手製薬会社向けにWeb toプリントのシステムの導入に成功した。これもロングテールの仕事をITの仕組みで集めているものである。

大手金融会社へは投資家に送る『あなたの収益レポート』のようなパーソナライズ印刷なども見せてくれたが、世界企業なので多言語処理も行なうという。

【ビジネスのポイント】
システムはWeb名刺受注システムから発展させたものである。

発注元から例えば1カ月に500本の受注があっても、先方に送られる請求書は1本であり、双方とも事務の手間が削減できる。

ポータルサイトからの仕事は、できるだけ「人が触れない」ように自動化する。製本機にはJDF設定ができる機種を選んで設備した。

広告代理店のビジネスとは対極をなすものである。代理店はデザインして校正刷りのやり取りをして金を取るクリエイディブ・ビジネスである。一方でWeb toプリントはテンプレートと自動化のビジネスであり、代理店からは怖い存在だと思われているようだ。

【投資の力点】
オートメーション化
→Web開発
→システムインテグレーション

2007/07/03 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会