JAGATの推計によれば、2006年の印刷産業出荷額はほぼ前年並みであった。ただし、これは現在でも事業を継続している企業の数字を基にした推計であり、業界から去った企業の数字は加味していないものである。
印刷産業出荷額の減少幅は年々縮小する傾向にある。その最大の要因はプリプレスの付加価値低下に歯止めが掛かってきたからである。しかし、価格低下は依然続いている。
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2006年の景気回復局面は、その長さにおいて「いざなぎ景気」に比較され、それを超えたと言われた。確かに2006年の印刷業界の景況は以前よりは幾分良くなってはいるが、それを実感として「良い」と感じられる企業は少ないだろう。
「ニッセイ基礎研REPORT」2006年12月号では、2006〜2016年度の経済見通しを発表している。それによれば、10年間の実質GDP成長率は平均で1.7%、名目GDP成長率は2.6%と予測している。これよりもやや高い成長を予測するシンクタンクもあるが、実質で2%、名目で3%というのが平均的な見方のようで、大差はない。
ちなみに、過去10年間(1997〜2006年)の実質GDP成長率は1.2%、名目GDP成長率は0.2%であった。このGDPの伸び率が鈍ると、そのマイナス影響がかなり拡大して印刷業界の足を引っ張る状況が読み取れるということである。
そして、2006年もGDPに占める印刷産業出荷額の比率は低下している。市場が成熟化する中で人口が減少に向かい始めているため、印刷産業の出荷額のGDP弾性値は限りなくゼロに近くなっている。
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一方で、いざなぎ景気は1965年から197 年にかけて続いた好況期で、そのときの実質GDP成長率は11.5%であった。名目成長率は14%を超えていた。物価も上がったが賃金も上がっていた。しかし、今回の景気回復は、回復といっても実質GDP成長率は2.3%(2003〜2005年の平均値)に過ぎず、名目成長率は0.9%である。いまだデフレの中にあり、所得はその格差の広がりが問題にされている。
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いま「景気回復の実感がない」というは当然であり、今後の景気循環の中で山に当たる時期においても同様ということになる。
景気がいいのは一部大手企業あるいは東京だけであり、中小企業や地方は相変わらず不振だという。業界から退出する企業の多くは小規模企業であり、一方、伸びるところはどんどん伸びるという企業間格差も生じている。
従って、現在のような日本経済の状況が持続した場合、印刷産業全体としては2006年の状況、つまり景気連動で、
水面下に沈んだり浮かび上がったりするその状況が常態化すると見ておいたほうが良い。
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そしてこのような成長率を前提として考えるならば、経営判断のための「物差し」を変えたほうがよい。企業業績評価や受注案件評価の物差しは、売り上げ、生産高から利益に変えたほうがよい。
業態変革によりソフト・サービス化を推進する、あるいは企画提案営業を強化しようというのならば、その機能を果たす人たちの評価は、従事時間とは別の物差しで計る必要があるはずだ。
企業の存続という観点からは、自社単体での継続努力だけでなく、パートナーシップ、コラボレーション、さらには資本と経営の分離、M&A という事々を選択肢に加えるための物差しをもつ必要もある。
さらに、自社の経営資源の中に潜む競争力の源泉を発見するための、戦略判断を行うための物差しも必要なのである。
2006年の状況は、疑いなくそこへ向けた「変化」の必要性を訴えかけている。
『印刷白書2007』第1部 産業白書プロローグより
[データ概要]
タイトル:印刷白書2007
監修・著:社団法人日本印刷技術協会
判型:A4判
頁数:160ページ
発行:社団法人日本印刷技術協会
※JAGAT会員企業の代表者の方には1冊無償配布。
なお、頒価にてお分けします。
JAGAT会員=20,000円 一般=30,000円
2007/07/13 00:00:00