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不良品を出さない検査体制とは

印刷物製作がデジタル化したからと言って、「デジタル化=高品質化」というわけではなく、顧客からの品質保証の要求が高くなっている中では、品質管理の重要性は増している。従って、制作工 程の変化に合わせて、検査のあり方や、そのポイントを見直す必要があるだろう。また、検査でも検査機器やシステムの導入が必要になるだろう。今回は、検査機器メーカー、ベンダーの提案から、これからの検査のポイントをどこに置くべきなのか、そしてその検査のあり方を探る。

検査は運用が重要なポイント

検査は顧客に対しての品質保証の必要性と、一 方で工程が増えることもあり、納期、コスト面から は、印刷会社にとって難しい位置付けになる。現在、 顧客の品質保証に対して求めるレベルは高くなって おり、当然、それに対応するためには印刷会社側も高 いレベルを目指していく必要がある。

印刷会社はこれからの印刷物製造工程の検査を どのように捉えて、位置付けていくべきかについて 凸版印刷株式会社情報・出版事業本部 製造事業部 品質管理本部 品質管理部 兼環境・技術戦略部 部長 真島宏徳氏、情報・出版事業本部 製造事業部 技術 開発本部 生産技術部 係長 佐々木俊一氏、株式会社 トッパンプリンティング東京 板橋工場 平版印刷部 兼朝霞工場 平版印刷部 部長 石橋祐一氏にお話を伺 ったので、以下でその要点を紹介する。

どのような運用体制を作るかがカギになる

印刷物製造における検査では、基本的には製版、 印刷、加工という各工程とそれらを連携するところ すべてが、検査するポイントになる。その時に検査 を行う上で1 番重要になるのが機能不良を見逃さな いという観点で、これをゼロにすることを目指すこ とになる。ここで言う機能不良とは、本であれば乱 丁や落丁を起こし、本としては使用できないこと。 またデジタルであれば、旧データを使用して制作し てしまうことなど、その印刷物の本来の目的が達成 できないものである。

製品の機能不良をゼロにすることが求められる ということは、それに結び付く工程できちんと検査 を行う必要がある。製版工程であれば、前述したよ うにデータが違うものを使用される可能性があるの で、まずはそれに対応した検査が必要になる。

印刷会社側にとっては、品質保証の面からは検 査工程は欠かせないものと位置付けられるが、完成 品に至るまでの工程で見れば、現実には直接製造に は関係しない工程が増えるとの見方もできる。従っ て、効率的な検査体制の構築が必要になる。そこで重 要なのが検査体制とともに、検査の運用方法である。

品質保証ということからは、不良品を出すのは 論外だが、品質、納期やコストなどを含めて顧客側 とのすり合わせすることで、印刷会社側としてはで きるだけ検査工程が負荷にならないようにしていく 必要がある。

例えば、求められる検査レベルにしても、すべ ての仕事が同じように高いレベルの検査を必要とす るわけではない。機能不良は製品として機能しない わけだからゼロでなければならないが、それ以外で、 例えば色の調子が多少ぶれているものが発生するよ うな場合に、製品としては問題ないレベルを見極め て検査を運用していくことが必要になる。

顧客側がその製品で必要とする品質以上の検査レベルを印刷 会社側が行うことによって、例えば、納期を動かす のでは本末転倒である。それ故、自社の顧客や仕事 内容によって、求められる品質レベルをマニュアル 化するなどして、運用することが大きなポイントに なる。

検査機器をいかに活用するか

検査工程の効率化には、検査機器の活用も大き なポイントになる。凸版印刷では、各工程で必要に なる検査に応じて検査機器を導入している。

例えば、製版ではその工程をデジタル化したこ とで、検査にもデジタルの力を利用するということ から検査機器を活用している。つまり、データの照 合をデジタルで行うということである。

しかしなが ら、印刷業界全般の現状を見ると、検査では、デー タがデジタル自身でできているということが、まだ 十分に生かされているとは言えないようだ。

同社は印刷も、オフセット輪転機では、ほとん どの印刷機にインラインの検査機を設置している。 導入年度によって違うが、最近の物は検査精度も上 がってかなり高いレベルの検査が可能になってお り、同社が目指すレベルに近づきつつある。

枚葉印刷機については、部分的に使用している が、まだインラインできちんと検査を行って品質保 証できるレベルのものはないと考えている。そのた めに現在は、オフラインでの検査が中心である。

同社が導入しているのは、印刷機と同様の形状をした もので、シリンダーに印刷物を巻いてカメラで撮影 して表裏同時に検査を行うタイプである。枚葉印刷 機の場合には粉があることや紙のバタつきがあり、 検査する対象が暴れるため、現状ではインラインで の検査機搭載は難しいということがある。

従って、オフライン検査では、全数検査を行っ ているわけではない。この場合に、どれだけの数量 を行うかは納期や求められる品質レベルなどによっ て変わる。

一方、デジタル印刷機を利用したDM の宛名印 刷などの個人情報などについては、全数検査が必須 であり、高いレベルの検査が求められる。例えば、 ラベルを貼り付けるようなものであれば、ラベルが 剥がれている、あるいはラベルが2 枚貼られたとな ると、以降がずれてくる可能性ある。

クレジットカードの請求明細などでは個人の宛先と個人情報が合 っていることが必須で、各顧客の情報がプリントさ れたものが間違って2 枚同じ宛先に送付されるよう なことになれば、1 枚は違う人に送ったことになり、 個人情報の流失になる。それは絶対に避けなければ ならない。このような検査においては、納期や数量、 精度からも検査機器の利用が必要となる。

これからの効率的な検査体制とは

検査は納期に影響を与えないことがベストであ り、そのためには検査工程をいかに自動化していく かが、これからの検査ではポイントになる。また、 その自動化機器をいかに使いこなすかも重要にな る。それは一律なものというより、各印刷会社の仕 事の状況に応じて構築されるべきものであろう。

個々の仕事や顧客によっても求められる品質レベル が違えば、それは自社で基準を決めてマニュアル化 していくべきであり、まさに運用のあり方がポイン トになると言えるだろう。

さらに重要なのは事前の設計である。つまり、 これは印刷物としての製品設計のことで、企画の段 階から検査に負荷が掛からないような設計が求めら れる。それがきちんとできていないと、すべて対応 が後追いになってしまう。また、この設計の部分こ そが顧客側とすり合わせができる部分でもある。

顧客は品質だけを求めているのではなくて、当然コス ト削減も求めている。それ故にコスト、納期とも、 お互いに納得できる可能が高いのは、事前の設計の 部分であり、ここを強化することで、検査の負荷は かなり小さくなる。

これと並行して、製造ラインの中でも検査に負 荷を掛けない方法を検討していく必要はある。また、 直接に検査の強化だけではなくて、不良品を出さな いための日常の機器や、環境の整備が重要になる。

印刷のところであれば、印刷機の能力をきちんと発 揮できるような日常のメンテナンスを行うことが不 良品を少なくして、検査の負担を減らすことにつな がる。不良品が顧客側に納品されないように事前に チェックすることは重要ではあるが、その前に不良 品を発生させないことが基本になる。可能な限り、 不良品を発生させない体制を追求していくことがよ り重要になるだろう。

(「プリンターズサークル」2007年6月号より抜粋)

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2007/08/03 00:00:00


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