MIS/JDFと検査装置の動向
1.MIS/JDF
■JDF対応MISの増加
JDF対応のワークフローを構築するうえで、MISは司令塔の役割を担う不可欠な要素である。しかし、日本においてはJDF対応MISは非常に限定されていた。その理由として、中堅以上の印刷会社はパッケージソフトではなく自社開発ないしオーダーメイドによるシステム構築を行う傾向が強く、欧米に比べMISベンダーの数そのものが少ないうえに、小規模の企業が多いことが挙げられる。そのため日本のJDF対応MISは、先駆者である(株)オリーブの「PrintSapiens」と(株)トスバックシステムズの「ひだりうちわ」、大日本スクリーン製造(株)の「Riteinfo」の3製品にとどまっていたが、ここに来て選択肢が増えつつある。130社の導入実績を持つNECネクサソリューションから2007年7月に新バージョンのJDF対応(オプション)の「SP-MULTI/Ev」が発表された。従来からのミツモザウルスProプロレコ-3などの外部連携も引き継がれる。
ユーザインタフェースにWebブラウザを採用し見える化」を実現する(株)渕上システムの「PRINSER」もJDF/JMF対応となった。(株)アート・スキャナ・サービスは販売している自社用システム「YAWAR@貝」のJDF対応は部分的ではあるが、同社はCIP4の正会員でもある。
(株)メタテクノの「JDF BackStreet」は基幹システムからジョブ情報の受け取りとJDF変換、対応の印刷・加工機器への出力と、機器から受け取った実績データの蓄積、問い合わせへの随時返答などJDFのI/Oを提供する。MIS開発者にJDFワークフローへの間口を広げるものだ。
■印刷機と加工機 2つの連携
印刷機に比べ加工機のJDF利用事例は世界的にみてもまだまだ少ないとはいえ、CIP4に加盟する製本機器メーカーは着実に増加している。2007年6月時点で日本のメーカーに限っても、イトーテック(株)、(株)正栄機械製作所、デュプロ(株)、(株)永井機械製作所、ホリゾン・インターナショナル(株)【太陽精機(株)】といった企業がCIP4メンバーとなっている。
印刷機を加工機のFA(自動化)のスタイルを表わす言葉にインライン(In-line)とニアライン(Near-line)というものがある。
インラインは、機器(印刷機と加工機)が物理的に接続されリアルタイムに通信を行って作業者の負担を最小限に抑える利点がある。
ニアラインは機器同士(印刷機と加工機)が物理的に離れていても連携をとって全体最適化(群管理)を指向する。印刷機と加工機の組み合わせを変えたり、機器の追加/入れ替えを容易に行える。JDFはニアラインの規格、インラインの規格がUP3Iといえる。UP3Iはデジタル印刷分野で主に印刷と加工機器をインライン接続し、一つのデバイスとしてまとめてコントロールする。UP3Iの正会員はDuplo、Hunkeler、IBM、Lasermax Roll Systems、Oce、Xeroxの6社で、20社ほどの準会員がいる。JDFのジョブチケットはUP3Iコマンドに変換できるなど共存関係にある。
■加工機のJDF対応
加工機のJDF対応には次のような課題がある。
(1)紙の伸縮対応(理論値と実際値の違いへの対処)、(2)不完全な作業指示の補足(MISでは詳細なパラメータまで設定しきれない)、(3)「情報」と「もの」の一致(作業指示情報と処理対象の「もの(刷了紙等)」との関連付け)。
これらの課題に対処するためポストプレス機器メーカーはJDF/JMFの仲介を行うシステムを提供している。
デュプロ(株)のSYMBIOシステムは、デザインデータをPDFで受け取り、面付け指示、断裁や筋押しの位置設定、用紙選択等をマニュアル作業で指示でき、PDFとJDFジョブチケットを受け取り、それを適切な機器に送って自動処理させられる。SYMBIOとデジタル印刷機、加工機とのデータ交換はJDF/JMFを用いる。各機器のコントローラには、ジョブ一覧表示されたジョブを選択して実行するだけで、作業は完了する。デュプロのDC-645(断裁機)はジョブのプレビュー画面が表示され操作ミスが防げるほか、印刷時の紙の伸縮対応として実測値を入力して微調整できる。
ホリゾン(株)のi2iシステムは、JDFデータを受け取ると不足事項を補い、バーコード付きのJOB Ticketをプリントアウトし加工対象の刷了紙に指示書として添付する。加工機は指示書のバーコードを読み取ることで、機器がプリセットされる。このようなシンプルな仕組みで「情報」と「もの」を一致させる特徴がある。
JDF/JMFを利用して収集した稼動実績が、MIS無しで分析できるのがミューラー・マルティニの「ミニMIS」である。準備/生産/中断/空転/故障などの時間集計やジョブごとの製品数、稼動時間数、損紙数/率、平均速度などの集計機能を備え、レポート出力や分析結果の表示が可能である。
2.検査装置
■全品を検査記録する分野
安全と安心はあらゆる製品を供給する企業側に求められる基本的な事柄になってきた。特に要求が厳しい食品製造などの分野では、トレーサビリティへの対応から製造ラインにおける全品検査はもちろんのこと、一品ごとにカメラによる検査画像と検査結果の全てを、DVDやサーバーにデジタルデータとして保存することが必須条件となってきている。コーンズ ドッドウェル(株)のジーニアスは食品容器内面、缶内面、キャップ及び缶蓋内外面の汚れ、異物、傷等の検査を行なっている。
そして最近では食品袋や医薬品用紙器だけでなく、出版印刷においても「落丁・乱丁はお取り換えします」が通用しない時代になってきた。
■不良品を出さない検査体制とは
印刷物製作がデジタル化したからと言って、「デジタル化=高品質化」というわけではなく、印刷物製造における検査では、基本的には製版、印刷、加工という各工程とそれらを連携するところすべてが、検査するポイントになる。その時に検査を行う上で1 番重要になるのが機能不良を見逃さないという観点で、本であれば乱丁や落丁により本としては使用できないこと。デジタルであれば、旧データを使用して制作してしまうことなど、印刷物の本来の目的が達成できないものである。 品質保証ということからは、不良品を出すのは論外だが、品質、納期やコストなどを含めて顧客側とすり合わせ、印刷会社側はできるだけ検査工程が負荷にならないようにする工夫も求められる。
■簡易な操作性
印刷機などに検査装置が付加されたからと言って、そのために操作の手間が大幅に増えてしまっては、せっかくの装置も宝の持ち腐れとなり、生産現場で活用されにくいこともある。簡単な操作性は重要な点であり、最近はタッチパネルや今や一般的となったWindows画面などで簡単に操作できるようになってきた。検査箇所の気になる画像や情報も大型画面によって一目でわかるような表示や、原稿(見本)と製品の画面を瞬時に切り替えて良品の判断が素早く出来ること。そして検査結果の記録操作もシンプルになっている。
■各種検版装置
(株)ジィーティービーの「Hallmarkerシリーズ」はさまざまな場面を想定した検版・検査ツールで、制作の受入れチェックや訂正チェック、面付け、刷り出し、出荷前、クライアントの受入れチェックなど、用途や目的で利用できる5つの検版・検査を持っている。(株)大床製作所の印刷後の高性能紙面比較検査装置 Lekizen!は、ウエット状態の刷り本検査と、印刷前の版における問題を同時検査する。誠伸商事(株)のネットワーク対応のデジタル検版システム「SI インスペクタN 」は、プルーフ出力、デジタル検版機能など5 種類のソフトを組み合せでデジタル検版・インクジェットプルーフ・リモートプルーフ・他社システムへのデータ転送などの検版ワークフローを構築する。(株)扶桑プレシジョンのJustCheckerは、初校と再校の比較や、カンプと刷版直前データの比較、刷り出しデータと責了データの比較などを簡単に高精度に検査する。JustPDFCheckerにはPDFとEPSの入力機能が追加され、PDFとスキャンデータの比較検査も可能である。
■印刷の検査装置
オフ輪の印刷物検査では大日本印刷(株)生産総合研究所が開発したQuacubic-ORが、印刷現場で蓄積された検査計測技術をベースにした検査アルゴリズムの搭載で性能を向上させている。
東洋インスペクションズ(株)のToyoassistantシリーズは高速演算技術や複数の検査方法の採用で、精度の高い商業オフ輪印刷、新聞印刷用の印刷紙面検査装置の方向性を示している。
商印・出版印刷の枚葉印刷機ではダックエンジニアリング(株)のSymphonyシリーズが、文字欠け、汚れ、ヒッキー、水タレ、油落ち、異物を全数全面検査し、欠陥データを生産管理ネットワークと連携した強力なトレーサビリティ機能によって確実に品質検査を提供している。
(株)ニレコのBCON2000は片面検査の軟包装用、BCON2100は両面検査のビジネスフォーム用であるが、特徴は紙だけでなく湾曲したロール面でのアルミニウム、フォイル、金属フィルム、積層フィルムへの印刷などの検査を行なう。特徴である自社開発の3CCD高解像度ラインセンサカメラによって、高品質な検査画像をカラーで撮影している。(株)トキメックの印刷・異物検査装置PRINT-CAPは、作業者の経験に頼ることなく、最新鋭のCCDカメラと画像処理技術で、高速かつ高精度に印刷物の検査・確認を行なう。オフセット輪転機、グラビア輪転機、ビジネスフォーム印刷機など、各種の印刷機に組み込んで印刷中の画像をラインカメラで撮影し、リアルタイムでマスター画像と比較するパターンマッチング方式の検査システムである。
■可変出力の検査
デジタル印刷機によるDM の宛名印刷などの可変出力では、全数検査を行なうことが必須である。グローリー(株)の可変データ全面自動検査装置「PVS-2010」は可変する漢字、数字、バーコードなど文字列のカスレ、汚れ、誤りを毎秒10,000字、毎分90mで検査する。(株)コスモグラフの次世代インサーター検査装置「F23」ならびに「バリアブル検査装置」は、DM・可変広告画像の検査を行なう。コグネックス(株)のIn-Sight 5000シリーズはラベルや窓検(窓空き封筒の宛名検査)で、一次元の郵便番号バーコードと二次元のQRコード、数字などを、制御部を組み込んだ防塵型のカメラ一台で読み取って高速に検査できる。
■将来は工程をまたいで検査装置が連携
印刷工程における検査装置の次世代のイメージは、工程ごとの検査装置を連携させていくという方向である。CTP工程の検版、印刷の検査、後加工におけるいろいろな検査の各装置が連携して働き、工程全体の欠点をさらに減らす方向である。
さらに、機械メーカーなど共同して検査結果をリアルタイムで機械にフィードバックして欠点を修正するようなシステム化の方向になるだろう。
■出典:JAGAT 発行「2007-2008 グラフィックアーツ機材インデックス」 工程別・印刷関連機材総覧
(2007年9月)
2007/09/19 00:00:00